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撮影者の代償①

あらすじ

久保田浩一は、平凡で目立たない日常を送る普通の青年だった。仕事に行き、友人と飲み、映画を観ることが楽しみで、特別な刺激は求めていなかった。しかし、ある晩、ネットで見た事故映像が彼の心を揺さぶる。その映像の衝撃的な瞬間に、浩一は強烈に引き寄せられ、「こんな映像を自分も撮りたい」と感じる。これがきっかけで、彼の平凡な日常は一変し、刺激を求める衝動に駆られるようになる。

浩一はカメラを手に入れ、街で見かける事故や喧嘩、異常事態を撮影し始める。最初は普通の出来事でも満足していたが、次第に彼の欲望は過激になり、危険な現場へと足を運ぶようになる。暴動や事故現場での撮影を繰り返すうち、彼の映像はネットで注目を浴び、次第に周囲からは非難されるようになる。しかし、浩一はその批判を無視し、さらなる衝撃的な映像を求めて撮影を続ける。彼の撮影は、過激さを増していく。

浩一は今や、他人の痛みや恐怖を撮ることが仕事の一環となり、次第に危険な現場に挑戦するようになる。ある日、彼は大規模な暴動の現場に駆けつけ、その中で一瞬も躊躇せずにカメラを回し続ける。彼にとって、映像を撮ることが全てであり、他人の命や危険など一切考慮しなくなっていた。その行動がますます過激になり、次第に「もっと恐ろしい瞬間」を求めるようになるが、それが彼にどんな危険をもたらすのかはまだ予測できなかった。

第1章: 目覚めた衝動

久保田浩一は、典型的な普通の青年だった。日々は平穏で、決して目立つこともなく、無難に過ごしていた。会社に通い、友人と飲みに行くことが楽しみで、週末には映画を観ることが一番の息抜きだった。しかし、ある日、そんな彼の世界が一変する。

それは、仕事から帰宅したある晩のこと。浩一は、夕食を取ると、なんとなくネットサーフィンをしていた。特に目的もなく、ただ何気なくスマホをいじっていると、ある映像が目に入った。それは、事故現場で撮影された一瞬の映像だった。車が激しく衝突し、ガラスが砕け散る瞬間、火花が散るようなシーン。目を疑うほどに衝撃的な映像だった。その映像を見た瞬間、浩一は全身に鳥肌が立った。どうしてもその瞬間に引き寄せられてしまったのだ。

映像の中で、無数の人々が恐怖と混乱に包まれながら逃げ惑う中、カメラのレンズがその瞬間を鮮明に捉えていた。血の匂いも、緊張感も、すべてが映像の中に凝縮されているかのようだった。そして、その映像には驚くべきことに数百万回以上の再生回数がついており、コメント欄は「すごい」「衝撃的」「こんな映像、二度と見たくない」といった声で溢れていた。その時、浩一は心の中で強く感じた。

「こんな映像を、俺も撮りたい。」

その瞬間から、浩一の心の中で何かが目覚めた。彼の中にあった無気力で平凡な日常への飽きが、急激に「もっと刺激的なものを求める衝動」に変わったのだ。今まで感じたことのない欲望が胸を焦がす。彼は、思わず手にしていたスマホを握りしめ、そのまま次の映像を探し始めた。

「危険だ、でも撮ってみたい…」

その夜、浩一は寝付けなかった。あの事故映像の衝撃が、脳裏に焼きついて離れなかった。翌日、会社での仕事も手につかず、頭の中はただその映像に占領されていた。そして、昼休みを使って、彼は新たに決心を固めた。

「自分もあんな映像を撮ろう。」

浩一は、すぐにカメラを手に入れることにした。それがどんな大きな決断なのかも、彼は当時は考えなかった。ただ、自分もその映像を作り出し、誰かに衝撃を与えたいという欲望が彼を突き動かしていた。その時、浩一はまるで自分が映画の主人公になったかのような気分になっていた。

カメラを手に入れた浩一は、早速街に繰り出した。最初は、特に危険なことをしなくても、街角で見かける少し奇妙な瞬間を撮ることから始めた。急に起きた小さな喧嘩や、道を走る自転車が転倒するシーンなど、どれもあまり大きな事件ではなかったが、彼にとっては新鮮で刺激的な瞬間だった。しかし、次第に彼の心は満足しなくなっていった。普通の映像では、彼の中で沸き上がる衝動を満たすことはできなかった。

「もっとすごい映像が欲しい。」

その欲望は、彼を次第に危険な世界へと引き寄せていく。浩一は、次第に刺激的で過激な瞬間を撮影しなければ、満足できない自分に気づき始めた。街の事故現場、騒動、そして危険な場所での撮影を思い立ち、次々と挑戦していった。彼のカメラは、普通の映像を越えた、より深い衝撃的な一瞬を捉えるために、暴力的なシーンやリスクを抱えた状況にまで踏み込むようになった。

最初は、ほんの少しの危険を感じる瞬間に手を震わせたが、それすらも次第に快感へと変わっていった。自分が撮る映像が、次第に他者を魅了し、驚愕させることに快感を覚え始めた浩一は、さらなる刺激を求め、どんどんとその欲望に身を任せるようになる。そして、彼の撮影する映像は、ついには予想もしない形で彼自身を危険にさらすこととなる。

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