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かぐや姫が悪徳令嬢になった話

序章: 光の姫君

「こんなことが……本当にあるものか」

竹取の翁は、山奥の竹林で立ち尽くしていた。眼前には、一本の輝く竹。その中には、小さな姫が座り込むように収まっていたのだ。肌は月光のように柔らかく輝き、髪は星々を編み込んだようなきらめきを放っている。翁は恐る恐るその竹を切り出し、中の姫を抱き上げた。

「こんなに小さな赤子が……だが、手にすると不思議と温かい……」

家に戻ると、翁の妻もその光景に目を見張った。

「まぁ、なんて美しいお方でしょう! 神様のお授けか、それとも……」

二人は深い感謝の念を胸に、彼女を「かぐや」と名付けた。

その後、かぐやは驚くべき速さで成長していった。竹の中から生まれたときは手のひらに収まるほど小さかったが、わずか数ヶ月で普通の幼子と同じ大きさに成長。さらに一年も経たないうちに、麗しい少女の姿となった。その美しさは村中に広まり、いつしか「竹取の家に神の子がいる」と噂されるほどになった。

祝福の中で

村人たちはこぞってかぐやに贈り物をしにやって来た。翁の家には美しい衣装や果物、花々が山のように積まれるようになった。かぐやはそのたびに笑顔で礼を言い、贈り物を受け取った。

「おじいさま、おばあさま、皆さんがこんなに親切にしてくださるのは、私がここにいるからでしょうか?」

「そうだとも。お前がこの村の光だからだよ、かぐや」

その言葉に、かぐやは誇らしげに微笑んだ。

月の使者の来訪

ある夜、村全体を覆うように奇妙な光が降り注いだ。夜空は銀色に輝き、普段は見えない月の道筋が天に描かれたかのようだった。その異変に気づいたかぐやは、屋外へと足を運んだ。

そこには、光の中から現れた白い衣装を纏った使者たちが立っていた。その先頭に立つ一人がかぐやに向かって語りかける。

「かぐやよ。我々は月の使者だ。お前を迎えに来た」

かぐやは驚きと戸惑いで声を失ったが、使者は続ける。

「お前は地上に送られ、人間たちに光をもたらす使命を果たした。もうその役目は終わったのだ。我々とともに月へ帰ろう」

その言葉にかぐやの心は揺れた。確かに、自分の生まれが普通の人間とは異なることは感じていた。しかし、これまでの時間を共に過ごしてきた翁や村人たち、そして地上での暮らしへの思いが、彼女を月への帰還を拒む気持ちへと傾かせていく。

「私は帰りません。この地で、人々とともに生きていきます」

毅然とした声で答えるかぐやを、使者はじっと見つめた。そして冷たく告げた。

「その選択をするのなら覚悟をするがよい。月の力を失い、ただの人間として生きることがどれほどの苦難かを知ることになるだろう」

使者が手を振り上げると、かぐやの体を包む月光が一瞬で失われた。輝きを失ったかぐやの姿は、普通の人間と変わらない少女のものになっていた。

翁と妻が駆けつけ、震えるかぐやを抱きしめる。

「かぐや、大丈夫だよ。我々がいる。ここで共に生きよう」

かぐやは涙を浮かべながらうなずき、心に誓った。自分は地上で生きることを選んだのだと――。

第一章: 冷酷なる策略

かぐやが竹取の翁のもとを離れたのは、彼女がまだ十代半ばの頃だった。名門貴族「白峰家」の養女として迎えられたのは、彼女の美貌と知性を見込んでのことだった。白峰家は古くから財産を守るために政略結婚を繰り返しており、かぐやはその駒の一つとして扱われる運命を背負った。

「かぐや、お前はただ美しいだけの飾りではない。この家の未来を背負う存在だ。家のために、お前のすべてを捧げるのだ」

養父・白峰義晴の厳しい言葉に、かぐやは静かに頭を下げた。しかし、その胸には燃えるような決意が生まれていた。ただ従うだけの人生を送るつもりはない。自らの手で運命を切り開く――彼女はそう心に誓った。

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