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かぐや姫が悪徳令嬢になった話②

第二章: 人間社会の闇

かぐやはその策略と冷酷さだけでなく、慈善活動という名目でも着実に地位と権力を広げていった。彼女が宮廷内で「冷酷なかぐや」として知られる一方で、その温かさを装うことによって、また新たな面を見せることができた。「慈悲深い姫君」としての顔を持つようになり、宮廷の貴族たちや一般の人々から一層の尊敬を集めることとなった。

飢饉の村への訪問
ある日、かぐやは飢饉に苦しむ貧しい村を訪れることを決意した。その村は白峰家の所領の一部であり、長年の不作により、土地は痩せ、人々は飢えと病に苦しんでいた。かぐやは、その村を救うために必要だと感じた施しを施すことを決めた。

彼女の命令で、白峰家の家臣たちはすぐに馬車を準備し、村へ向かう道を整えた。かぐや自身もその場に赴き、村の人々が待ち受ける中で、その姿を現した。彼女が目にしたものは、荒れ果てた土地と、疲れきった村人たちの姿だった。しかし、かぐやは冷静に、そして計算高くその場に立ち続けた。

「これを使ってください。食糧と金銭を持ってきました」

かぐやは、家臣に指示を出して、馬車に積んだ米や野菜、銅貨を村人たちに配らせた。物資が次々と村人たちの手に渡るたびに、彼らは涙を流し、感謝の言葉を叫びながら地面にひれ伏した。

「姫様……ありがとうございます! 神様が私たちに救いを送ってくださったのですね!」

「姫様のおかげで、やっと生きていけます!」

かぐやはその光景を見ながら、美しい微笑みを浮かべて答えた。

「皆さん、どうか安心してください。これからも必要なものは何でも支援いたします。私は皆さんの味方ですから」

その言葉に村人たちは歓喜し、かぐやへの感謝の気持ちを一心に伝えた。彼女の姿は、まるで救世主のように映った。しかし、この行動の裏には、かぐやの冷徹な計算が潜んでいた。

依存の始まり
かぐやの施しは、単なる慈善活動に留まらなかった。その物資提供は一方的で、村人たちが自ら立ち上がる力を失わせ、彼女への依存を深めることを目的としていた。かぐやはそのことを理解し、望んでいた。彼女の支援が続く限り、村人たちはその生活を支えられ、そしてやがて彼女の支配下に置かれることになる。

次第に、村の経済は混乱をきたし、土地を耕す者は減少した。農作物の生産は低迷し、村内の交易も滞りがちになった。人々はただ、かぐやの施しで命を繋ぐ日々を送るようになった。

ある日、一人の村人がかぐやの元を訪れた。衣服はぼろぼろで、顔には疲れが滲んでいた。

「姫様、またお願いできますでしょうか……どうか、少しだけでも」

かぐやは彼を見下ろし、優しい声で答えた。

「もちろんです。必要なものをお申し付けください。私がいれば、皆さんは安心して暮らせますよ」

その言葉に村人は再び涙を流し、深々と頭を下げた。かぐやはその姿を見つめながら、胸の中で一抹の満足感を覚えた。自分が彼らを支配し、完全に依存させることができたという事実に、無意識のうちに喜びを感じていた。

「人間とは、こんなにも簡単に依存するものなのね……」

彼女は表面上は慈愛に満ちた態度を保ちながら、その心の中で冷徹に人々を操ることに満足していた。支配しているという事実が、彼女にとっては権力を証明する手段となっていた。

支配の代償
しかし、この支配が続く限り、村の内情は次第に悪化していった。怠惰と依存が村全体に蔓延し、かぐやの施しが続けば続くほど、村の自立は遠のいていった。村の人々は、かぐやが提供する物資に頼り切るようになり、労働への意欲を失い、社会の基本的な活動が停滞した。

その中で、一人の若者がかぐやに直言する機会を得た。彼は村の中でも比較的教育を受けた者で、かつては村の復興を夢見ていたが、今ではその希望が打ち砕かれようとしていた。

「姫様、このままでは村が滅びてしまいます。人々に自立の機会を与えるべきではないでしょうか?」

かぐやはその言葉に一瞬、心が揺らぐのを感じた。しかし、すぐにその感情を押し殺し、冷たい微笑みを浮かべて答えた。

「自立ですって?」

「はい。人々は働き、取引をし、自らの力で生活を築くべきです。姫様の支援はありがたいですが、いつまでも頼ってばかりでは……」

かぐやはその言葉に、一瞬だけ自分の行動が正しいのか疑念を抱いたが、すぐにその考えを捨て去った。冷徹に、そして圧倒的に支配することで、彼女はこの村を自分のものにしていたのだ。

「私のやり方が間違っているとおっしゃりたいのなら、どうぞご自由に。でも、この村を救えるのは、今のところ私だけです」

その言葉で、若者は何も言わずその場を去った。かぐやはその背中を見送ると同時に、自分の中で何かが確信へと変わるのを感じていた。

矛盾する心
かぐやの慈善活動は、確実に彼女にさらなる権力をもたらしていた。白峰家の支配領域において、彼女の名声は高まり、その「慈愛」の噂は宮廷内でも広まり、次第にかぐやはその冷徹な面とともに「慈悲深い姫君」としても知られるようになった。しかし、村での現実は彼女が作り出した依存と怠惰の循環が破壊的な影響を与えているという事実を物語っていた。

かぐやはそのことを自覚しつつも、その行動が支配欲から来るものであることを認めることはなかった。冷徹にその道を突き進むことで、彼女は権力を確立し、さらに自らの存在価値を証明し続けるのであった。しかし、心の奥底で「私は本当に正しいことをしているのだろうか?」という疑念が芽生え始めていた。それがやがて、かぐやの運命を大きく揺るがすことになるのは、まだ遠い未来のことだった。

第三章: 運命の逆転

かぐやの悪名が宮廷中に轟く頃、一人の男性が彼女の前に現れた。彼の名は蒼月(あおつき)。端正な顔立ちに冷静さを漂わせる彼は、かぐやがかつて破談に追い込んだ貴族の次男だった。家族の名誉を傷つけられた彼は、かぐやに復讐することを誓い、宮廷の場で彼女を待ち構えていた。

対峙の始まり
宮廷の大広間で開かれた宴で、蒼月はついにかぐやに声をかけた。彼は毅然とした態度で彼女の前に立ち、まっすぐに目を見つめた。

「かぐや殿、少しお話しさせていただけませんか?」

かぐやは冷ややかな笑みを浮かべ、彼の申し出を受け流そうとしたが、その真剣な眼差しに興味を引かれた。

「話すことなど何もありませんが、どうしてもというならお聞きしましょう」

二人は広間から離れた静かな庭園へと向かった。

「あなたは、人々に施しを与え、権力を得ることを正当化できるとお考えですか?」

蒼月の第一声に、かぐやは驚きもせず、鼻で笑った。

「それがどうしました? 私は誰かに迷惑をかけたつもりはありませんが」

蒼月はその言葉に反論する。

「あなたが破談に追い込んだ縁談の相手や、あなたの慈善が原因で生活を狂わされた人々のことを考えたことはありますか? あなたの行いが多くの人を傷つけていることに気づいていないのですか?」

その言葉に、かぐやの目が鋭くなった。蒼月の挑発が、心の奥深くに響く。彼女の冷徹な部分をまっすぐに突いてくる言葉に、思わず言葉が詰まった。

「あなたは私を非難するためにわざわざここへ来たのですか? それとも、復讐でもしたいと?」

「復讐……そう思われても仕方がないですね」蒼月は一瞬目を伏せ、ため息をついた。「けれど、私がここに来たのは、あなたが本当に間違っているのか確かめたかったからです」

揺れる心
「間違っている、ですって?」

かぐやの声には怒りが混じっていた。だが、蒼月の言葉には力があった。

「あなたの施しは、一見すると人を助けているように見えます。けれど、実際には彼らの自立を奪い、あなたへの依存を強めているだけだ。その結果、村の経済が崩壊し、あなたを恐れる者たちが増えている」

かぐやは反論しようとしたが、蒼月の言葉が自分の中のどこかに刺さった感覚を覚え、言葉を飲み込んだ。

自らの姿に気づく
その後、蒼月はかぐやに繰り返し会いに来るようになった。彼は復讐心だけではなく、かぐや自身を知ろうと努力しているようだった。

「あなたはなぜ、そこまで冷酷になれるのですか?」

ある日、蒼月が不意に問いかけると、かぐやは一瞬、答えに詰まった。

「私は……ただ、この世界で生きるためにそうしているだけです」

蒼月は首を横に振り、静かに言った。

「それが他人を犠牲にする方法でなければ、もっと多くの人を救えたはずだ」

その言葉は、かぐやの胸に鋭く突き刺さった。

「私には、そんな選択肢などなかったわ」

「選択肢は作るものです、かぐや殿。それができるあなたほどの知恵と力を持つ人が、それをしないのは怠慢です」

かぐやは悔しさに唇を噛んだ。蒼月の言葉には、彼女の弱さを見透かしたような力があった。

かぐやの独白
その夜、かぐやは一人、白峰家の広い庭園で月を見上げていた。今までの自分の行いを振り返り、蒼月との対話が心の中に深く残っていた。

「私はただ……この地で生きたかっただけ。それなのに、どうしてこんなにも人々に憎まれるの……」

彼女の胸の中に湧き上がる疑問と罪悪感が、蒼月との対話を通して次第に膨らんでいった。

「私のしてきたことは、本当に間違っていたのかもしれない……」

自らの行いを振り返るうちに、かぐやの心には少しずつ変化が生まれ始めていた。それは、自分の生き方を見直すという、彼女にとって初めての感情だった。

蒼月という存在は、かぐやの人生に新たな光を差し込ませるきっかけとなっていた。しかし、彼女の心にはまだその光を受け入れる余地があるか、疑問が残っていた。それでも、蒼月の言葉に引き寄せられ、かぐやは彼との再会を心待ちにするようになっていた。

蒼月の真意
次の出会いで、蒼月はかぐやに真剣な表情でこう告げた。

「かぐや殿、私はあなたを責めるつもりはありません。むしろ、あなたが自分の本当の力を正しい形で使えるようになってほしいと願っているだけです」

「本当の力……?」

「そうです。あなたには美しさや知恵、そして人々を動かす力があります。その力を使えば、もっと多くの人を本当に救えるはずです」

かぐやは彼の言葉に戸惑いつつも、どこか心を揺さぶられるものを感じた。そして、その日初めて、彼女は自分の行いについて誰かと本音で語り合おうと決意したのだった。

かぐやの人生は、蒼月との対話を通じて大きな転機を迎えつつあった。

――続く――

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