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ほっぺたが大福になった日

あらすじ

静かな町に住む男子高校生、佐藤健一は、大福への深い愛情を持っていた。毎日のように和菓子屋に通い、大福を食べることが彼の楽しみであり、幸せな時間だった。ある日、食べ過ぎが原因で彼のほっぺたが大福のように膨らみ、柔らかくなってしまう。最初は驚き、戸惑う健一だったが、その新たな姿を受け入れ、町中でその姿を見せることに。

健一のほっぺたは、日に日に大福のように変化し、町の話題となる。彼はそのまま町を歩き、町の人々にその甘いほっぺたを分け与えるようになる。困っているおばあさんや、子供たち、商店街の人々にも、その美味しい大福の一部を分け、町の人々に笑顔と幸せをもたらす。健一の「大福少年」としての姿は、町の象徴となり、語り継がれていく。

彼のほっぺたは徐々に減っていくが、その幸せを分ける行為は変わらず続く。健一は、自分の姿が町の人々にとって大切なものだと感じ、心から満足する。やがて、大福の伝説は町中に広まり、健一はただの少年ではなく、町の幸福の象徴として生き続けるのだった。

第1章:大福との出会い

佐藤健一は、静かな町に住む普通の男子高校生だった。目立つこともなく、特別な才能を持っているわけでもない。友達と普通に遊び、学校の授業を受け、時折ゲームをしたりして過ごす日々。しかし、彼には他の誰よりも特別なものがあった。それは、大福への執着。

その町は、どこか懐かしい雰囲気を持つ場所だった。大きな通りから少し外れたところに、健一のお気に入りの和菓子屋があった。店の前には、よく顔を見せる地元の人々がひっきりなしに立ち寄る。和菓子屋の店先に並ぶ色とりどりの和菓子の中でも、健一が最も愛してやまないのは、間違いなくその店の「大福」だった。甘さと柔らかさが絶妙なバランスを持つその大福は、まるで心まで溶かされるような美味しさで、健一の心を捕えて離さなかった。

「今日も来たか、健一。」

和菓子屋の扉を開けると、店主の小柄なおじいさんがいつものように顔をほころばせて健一を迎えてくれた。健一はにっこりと微笑んで頭を下げた。

「こんにちは、今日も一ついただきます!」

毎日、学校帰りに立ち寄るこの店には、もうすっかり常連になっていた。健一が顔を出すたびに、店主はまるで息子を迎えるように温かい笑顔で迎えてくれる。その日も、健一は立ち寄ると、すぐに大福を一つ手に取った。大福のやわらかな皮が手のひらで優しく包まれ、ほどよい重さが伝わってくる。すでにその姿を見るだけで、心が躍るような感覚に包まれた。

「今日の大福は特に美味しいよ。食べてみて。」

店主がにっこりと微笑みながら言ったその言葉に、健一の心は一層強く引かれた。店主の言葉を信じるのは、これまでも何度もあったことだ。店主が言う「今日の大福」というフレーズは、決まってその日一番の仕上がりを示す合図だった。

健一は小さく頷き、早速それを口に運んだ。

一口、二口、三口。舌に広がる甘さが、今まで味わったどの大福とも違う感覚を与えてくれた。皮はとろけるように柔らかく、餡の甘さは優しく、でもどこか深い味わいが広がる。舌の上で溶けるその感覚は、まるで天国にいるような心地よさだ。

「これが…! こんな美味しい大福、食べたことがない!」

健一は思わず声を上げてしまった。その味わいは、彼の予想を超えて、口の中に広がる幸せが全身を包み込むようだった。外の冷たい空気が、この温かい大福の味を引き立て、彼の体中に温もりが広がった。

「うん、これはすごい。今日も最高だな。」

店主が微笑んで、「それを聞いて安心したよ」と言った。その言葉を聞いて、健一はふと自分がどれほどこの店に通っていたのかを思い出した。もう何年も、この味に魅了され続けている。そして、どれだけその味を求めても、いつも「次こそは一番美味しい大福に出会える」と思ってしまう。彼にとって、大福はただの食べ物ではなく、心の中に深く染み込んだ一種の魔法のような存在になっていた。

店主は静かに見守りながら、健一の顔を見て言った。

「大福には力があるんだ。食べると、心が満たされるだろう?」

健一はゆっくりと頷き、その言葉を噛みしめた。確かに、大福にはそれがある。食べるたびに心が穏やかになり、日常の疲れやストレスがすっと抜けていくような感覚。まるで、小さな幸せを口の中に詰め込んでいるかのようだった。

「はい、まさにその通りです。」

そして、その日から、健一はますますその大福に夢中になっていった。次々に店を訪れ、毎回店主から「今日の大福は特に美味しいよ」と言われる度に、その一言が彼の心を掻き立てていった。健一はもう、大福なしの生活を考えることができなかった。心の中で、その味に支配され、どんどん大福の虜になっていったのであった。

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