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酒池肉林の王 〜億万長者の夢と破滅~②
第四章:崩壊の序曲
楽園は、ほんの小さな綻びから崩れ始めた。
それは最初、誰も気に留めないほど些細な出来事だった。
しかし、その綻びはやがて裂け目となり、止められない崩壊へと繋がっていく。
三崎はまだ知らなかった。
自らが築き上げたこの「楽園」が、すでに終焉を迎えようとしていることを――。
① SNSリーク ー 禁断の扉が開く
それは、一人の女が仕掛けた小さな反乱だった。
彼女の名は、莉奈(りな)。
有名なインフルエンサーで、フォロワーは100万人を超える。
楽園に足を踏み入れたとき、彼女は興奮していた。
三崎の世界に招かれることは、選ばれた者だけに許された特権だった。
美しく着飾り、セレブたちと肩を並べ、最高級の酒と料理を味わう——それこそが彼女の求める「成功」の証だった。
だが、次第に気づき始める。
ここでは、あまりにも多くの**「見てはいけないもの」**が存在することに。
泥酔し、理性を失った男たち。
豪華な料理の合間に、白い粉を隠し持つ者たち。
そして、何よりも——三崎の冷徹な眼差し。
この楽園は、「楽しい宴」などではない。
それは、欲望を剥き出しにした狂気の檻だった。
莉奈は思った。
「こんな世界、いつか破滅する」
そして、ある夜、彼女は衝動的にスマートフォンを取り出し、撮影ボタンを押した。
ワインの泉に浸かる美女たち。
酔い潰れ、無防備に笑う著名人たち。
遠くで、何かに怯えたように立ち尽くす若い女の姿。
その映像を見た瞬間、彼女の中に湧き上がったのは、言いようのない不安だった。
「これを世に出せば、どうなる……?」
だが、次の瞬間、彼女の指は無意識のうちに画面をタップしていた。
投稿完了。
映像は、わずか数分で拡散された。
それは、楽園の崩壊の始まりだった。
② 裏切り ー 逃げ道を探す者たち
楽園に、異変が起こり始めたのは、その翌日のことだった。
普段ならば豪華な宴が開かれているはずの館が、どこか不穏な空気を纏っていた。
招待客の数が減り、従業員たちの顔には緊張が走る。
そして、何よりも異変を感じていたのは、美咲だった。
「これ、見た?」
モデル仲間の一人が、震える手でスマートフォンを差し出した。
そこには、昨夜ネット上に拡散された映像が映っていた。
「……嘘でしょ?」
美咲の血の気が引いた。
「終わりの始まりだ」
彼女は直感した。
これが、三崎の築いた世界の崩壊を意味するものであることを。
そして、美咲は考えた。
「このままだと、私も終わる」
彼女は決断する。
三崎から離れなければならない。
彼と一緒にいる限り、自分も破滅する。
だが、ただ逃げるだけではダメだ。
確実に「守られる」ためには、何かを差し出さなければならない。
そこで彼女は、一人のジャーナリストと接触した。
週刊誌の敏腕記者で、過去に何度も政財界のスキャンダルを暴いてきた男。
「話したいことがあるの」
彼女はそう告げると、記者の前に座った。
ワインを一口飲み、ゆっくりと口を開く。
「私が知ってること、全部話す。
……でも、その代わり、私は安全なのよね?」
楽園が崩壊すると知ったとき、彼女は「沈む船」と共に死ぬつもりはなかった。
美咲の中には、もはや三崎への忠誠心など微塵もなかった。
彼女は、生き残るために楽園を売ることを決めた。
③ 警察の捜査 ー 崩壊へのカウントダウン
SNSリークによる炎上は、数日で世間を騒がせる大スキャンダルへと発展した。
「謎のセレブパーティーの実態とは?」
「未成年女性の参加疑惑」
「薬物使用か?違法行為の証拠が流出」
大手メディアも次々と報じ始める。
そして、警察が動いた。
三崎の楽園には、すでに捜査の手が伸びていた。
資金の流れ、違法行為の証拠、関係者への事情聴取。
美咲が記者に提供した証言も、警察の手に渡っていた。
「警察が動き始めた」
その報告を受けたとき、三崎はようやく異変の深刻さに気づいた。
「……は?」
彼の顔から、初めて余裕の笑みが消えた。
「……俺が捕まる?」
そんなはずはない。
今までも、何度も危ない橋を渡ってきた。
そのたびに、金と権力で問題を解決してきた。
だが、今回ばかりは違った。
三崎の周囲の人間は、一斉に彼から距離を置き始めていた。
今まで忠実だったはずの側近たちも、誰一人として連絡を返さない。
美咲も、消えた。
そして、三崎の元に一通のメッセージが届く。
「この場所から逃げろ。警察が来る」
送信者は、関根だった。
「逃げろ?」
三崎は呆然とした。
楽園は、もはや「王の城」ではなくなっていた。
それは、沈みゆく泥船。
そして、彼が「王」として君臨したはずの世界は、
彼自身を葬るための檻になりつつあった。
崩壊のカウントダウンは、すでに始まっていた。
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