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落ちこぼれの逆襲 〜努力だけでは勝てない理由〜

あらすじ

中学3年生の山本拓海は、勉強が苦手で模試の成績も常に最下位争い。学校の教師佐藤からは「努力が足りない」と叱責され、クラスメイトの杉本涼介にも「勉強は戦いだ」と冷たく突き放される。一方で、拓海が通う高橋塾の塾長・高橋宗一は、「できることを少しずつ増やせばいい」と励ます。

受験を目前に控え、杉本は「難問を解くことこそが合格への道」と信じ、徹底的に詰め込み学習を続ける。しかし、拓海は「まずは基本を完璧にする」ことを意識し、焦らず勉強を進めた。

迎えた受験本番。杉本は難問にこだわるあまり時間を浪費し、最後まで解ききれなかった。一方の拓海は「できる問題から解く」という方法で試験に臨み、すべての解答欄を埋める。

そして、運命の合格発表。拓海は合格、杉本は不合格。

自分よりも努力が足りないと思っていた拓海に負けたことにショックを受ける杉本。しかし、拓海の「できることを増やす」という考え方に触れ、初めて「努力だけではダメなのかもしれない」と考え始める。

性善説と性悪説——どちらが正しいのかはわからない。
だが、「その子に合った学び方を見つけること」が、教育の本質なのかもしれない。

それぞれの気づきを胸に、二人の物語は新たな未来へと続いていく――。

第一幕:落ちこぼれの葛藤

秋が深まり、木々が赤や黄色に染まる頃。教室には、模試の成績表を手にした生徒たちの声が飛び交っていた。

「やった! 偏差値65いった!」
「マジかよ、お前すげえな……俺、国語が足引っ張ってるわ」
「ちくしょう、あと3点でA判定だったのに……」

誰もが自分の順位に一喜一憂し、志望校への道筋を確かめるように成績表を握りしめている。その中で、ひとりだけ机に突っ伏しそうになっている生徒がいた。

山本拓海——中学3年生、勉強が苦手な少年。

彼の手元には、無情な数字が並んでいた。

数学:24点
英語:18点
合計偏差値:38

拓海は成績表を持つ手をぐっと握りしめる。紙が少しだけ皺になる。目を閉じると、これまでのことが頭の中をぐるぐると巡った。

——夏休み、机に向かおうとしたが、ノートを開くだけで眠くなった。
——模試の前、少しは勉強しようと思ったが、何をすればいいのかわからずYouTubeを見てしまった。
——塾の先生には「焦らなくていいよ」と言われたが、実際に結果を目の当たりにすると、焦る以外の選択肢はなかった。

拓海「……終わった」

思わず口から漏れた言葉は、まるで自分自身に向けた宣告のようだった。

そんな拓海を、すぐ近くで見ていた男がいた。

杉本涼介——クラスでは成績中の下だが、努力型の人間。彼は厳格な佐藤教師の指導を受け、勉強を「戦い」と捉えている。負けることが何よりも嫌いで、努力しない者を見下す節があった。

杉本は、拓海の成績表を一瞥すると、鼻で笑った。

杉本「お前、本当にやる気あんの?」

拓海は顔を上げる。杉本の目には、あからさまな軽蔑が浮かんでいた。

拓海「……いや、あるけど……」

自分でも、言葉に力がないことがわかる。やる気は、ある。ないわけじゃない。でも、「だからといって、どうすればいいのかわからない」というのが正直なところだった。

杉本はさらに眉をひそめた。

杉本「は? じゃあ、なんでそんな点数なの? 努力してないだけだろ」

突き刺さる言葉。

「努力してないわけじゃない」と反論したい。でも、じゃあ努力って何? 机に向かってノートを開いても、何をすればいいのかわからなくて、ぼんやりしてしまう。それは「努力」と呼べるのだろうか?

そんな迷いを見透かしたように、杉本は続ける。

杉本「勉強ってのは戦いなんだよ。勝つか負けるかしかないんだ。負けたやつは落ちるしかない」

その瞬間、拓海の中で何かが折れそうになった。

杉本の言葉が正しいような気がする。でも、戦おうとしても戦い方がわからない。武器の持ち方すら知らないのに、「戦え」と言われても、どうすればいいのか……。

高橋塾では、自由な学びを大切にしている。でも、それで本当に受験に勝てるのか? 佐藤先生のように厳しくしなければ、自分は一生このままなのではないか?

拓海(心の声)「俺、どっちのやり方でもダメなんじゃないか……?」

机に突っ伏したくなる気持ちを必死にこらえる。

他の生徒たちの笑い声が、遠くの世界のように聞こえた。

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