恐怖の都市伝説

あらすじ

日々の仕事に追われる大輔は、同僚の田中から「口裂け女」の目撃情報がSNSで拡散されていることを知らされる。その夜、帰宅途中の大輔は、白いコートを着た不気味な女性と遭遇する。彼女は「私、綺麗？」と問いかけ、裂けた口元を見せる。その恐怖に圧倒されながらも、なんとかその場を逃れた大輔。しかし、翌日も口裂け女の目撃情報は増え続け、都市は不安と恐怖に包まれていく。

エピソード1: 口裂け女の現象

大輔は昼間、仕事に追われる日々を送っていた。デスクに積み上げられた書類の山を整理しながら、頭の中でやらなければならないタスクを次々とリストアップしていく。時折、事務所の窓から見える街並みをぼんやり眺めながら、ひと息ついていたが、その時、同僚の田中がスマートフォンを差し出してきた。

「見てみろよ、大輔。今、また『口裂け女』が出たらしいぞ。」

大輔は瞬間的に眉をひそめた。「口裂け女…？」一瞬、何のことか思い出せなかったが、田中の指でスクリーンが軽くタッチされ、映し出された映像に目を奪われた。

その映像は、薄暗い夜道を歩く一人の女性を捉えたものだった。彼女は白いコートを羽織り、周囲の暗闇に溶け込むように立ち尽くしていた。その顔が映し出された瞬間、大輔の胸に冷たいものが走った。顔には恐怖の表情があり、特に目を引いたのは、その口元。耳まで裂けた口が、まるで笑顔のように見えたが、そこに漂うのは絶対的な恐怖であり、ただの微笑みではなかった。

スクリーンの下に書かれた投稿には、「今夜、あの女を見た。恐ろしい顔をしていた…」とある。コメントには「俺も見た」「今、俺の近くにもいる」など、次々と目撃報告が寄せられていた。

「嘘だろ…」大輔は目を凝らしながら、思わずつぶやいた。しかし田中はすでに、こうした目撃情報がSNSに数多く投稿されていることを知っていた。「ここ最近、あちこちで見かけるって話だ。警察も動いてるらしいけど、どうにも解決しないみたいだ。」

その日の夜、大輔は仕事を終えて家路を急いでいた。東京の街は薄暗くなり、道行く人々の足音が遠くに聞こえていた。ふと、小道の先に何か異様な気配を感じ、目を向ける。そこに、やけに静かな雰囲気を漂わせる一人の女性が立っていた。白いコートを着ているが、その佇まいが妙に馴染まない。街灯の光に照らされたその姿は、まるで周囲の暗闇に溶け込むかのように静かだった。

大輔はその女性を見た瞬間、背筋に冷たいものが走るのを感じた。何かが違う、そんな直感が彼を一瞬にして警戒させた。女性がゆっくりと顔を上げ、彼を見つめた。その瞳は、無表情でありながらも、どこか深い闇を感じさせるものがあった。

「私、綺麗？」その声が耳に届いた瞬間、大輔は思わず足を止めた。冷たい、鋭い響きが心の奥に突き刺さるようだった。女性の口元が、ゆっくりと引き裂けるように広がっていく。その口の裂け目がどこまで広がるのか、大輔には想像もつかなかった。息が詰まり、身体が凍りつくような感覚が襲ってきた。

一歩、二歩…と後退した大輔の足が、まるで地面に吸い込まれるかのように重く感じられた。恐怖に震える大輔の心は、どうしてもその場から動けなかった。しかし、彼の足が一歩でも前に出ると、女性もまた、ゆっくりとその足を踏み出した。動きが連動しているように感じ、身の毛がよだつ思いがした。

その時、女性がまた言った。「ねぇ、綺麗だって言ったでしょ？」

その言葉が大輔の耳に響くと同時に、背筋が凍るような恐怖が心に広がった。周囲の街の音がすべて消え、まるで時間が止まったかのように静寂が広がる。思わずその場を離れようと、足を速めるが、背後から確実にその足音が追いかけてくる気配がした。

心臓の鼓動が激しく響き、冷たい汗が額を伝う。走り出す大輔の背後で、女性の声が再び響いた。「逃げても無駄よ…」

その言葉は、大輔の心の中にずしりと重く残り、彼の足が一層速くなる。何とかして振り切ろうと必死に走ったが、どこかで、この恐怖から逃れられない気がした。最終的に、振り向いた時には、女性の姿はすでに消えていた。

次の日、大輔がSNSを開くと、またしても目撃情報が投稿されていた。「あの女、見た。夜道で…。」「見かけた瞬間、心臓が止まりそうだった。」人々の恐怖と混乱が広がり、目撃場所が次々と変わっていった。警察も調査を続けているが、どこにもその女性の姿は見当たらず、事件は解決の兆しを見せなかった。

都市は恐怖に包まれていた。どこでその女性が現れるのか、誰も予測できない。その恐怖は、目撃者たちを次々と不安と疑念で支配し、街全体に暗い影を落としていた。大輔もまた、その出来事から逃れられず、心の中で何かが渦巻いていた。彼は、自分の目の前で現れた口裂け女が、単なる都市伝説に過ぎないと願いたかった。しかし、彼の心の中では、あの恐怖がすでに確かな「現実」として刻まれていた。