推しの推し、私が未来を作る
あらすじ
桜井美優は、人気俳優一ノ瀬蒼真への推し活に全てを捧げる女性。蒼真の演技や笑顔に日々元気をもらい、雑誌やドラマ、SNSを欠かさずチェックしては、その存在に心を癒されていた。蒼真は彼女にとって生きる活力そのものであり、彼を応援することが美優の日常の中心だった。
そんな中、美優はある出来事をきっかけに、蒼真との運命的な出会いを果たす。その瞬間から、美優の人生は思いもよらない方向に動き始めることとなる。
第1章: 推しとの出会い
桜井美優は、推し活に人生のすべてを捧げる女性だった。彼女の推しは、今をときめく人気俳優の一ノ瀬蒼真。その端正な顔立ちと抜群の演技力で、世の女性たちの心をつかんで離さない。美優にとって、蒼真はただの芸能人ではなく、日々の活力そのものだった。彼の出演作が放送されるたびに、毎回心の中で「また会えた!」と喜び、毎月の雑誌発売日を指折り数えて待つ日々を送っていた。
美優の一日は、まず蒼真の最新情報を手に入れることから始まる。目覚ましが鳴る前に目を覚まし、スマホの画面を確認する。公式SNSでは彼の新しい投稿が上がっているか、ファンサイトで誰かが発見した蒼真の小さなエピソードに心躍らせる。毎朝、蒼真の写真を見てからようやく目を覚まし、その日の活力を得るのが美優の習慣になっていた。その情報はすぐに手帳に書き留められる。手帳には、蒼真が出演するドラマの放送日や、雑誌の発売日、彼が登場するイベントのスケジュールが細かく記されていた。それが彼女の一日のガイドラインであり、蒼真との距離感を感じさせてくれる唯一のものだった。
仕事帰り、美優はコンビニや書店を覗き、一ノ瀬蒼真が表紙を飾る雑誌を見つけると、心の中で小さくガッツポーズをする。表紙を手に取ると、彼がカメラに向ける優しい笑顔が溢れている。その瞬間、美優の顔にも自然と笑みがこぼれ、帰宅後、すぐにその雑誌をページごとに大切に読み込む。彼のインタビュー記事を何度も繰り返し読んでは、自分の知らない蒼真の一面を感じ取り、彼との距離が少しでも縮まったような気がして幸せな気持ちになる。
また、美優の生活に欠かせないのは録画したドラマの視聴だった。蒼真が演じる役に感情移入し、その演技に涙し、彼のセリフ一つ一つを噛みしめる。感動的なシーンでは、つい涙がこぼれることもあり、彼の演技がどれだけ心に響くかを毎回実感していた。放送終了後には、他のファンとSNSで感想を共有するのが楽しみで、夜遅くまで熱いコメントのやり取りを続けることもあった。
ファンクラブのイベントは、彼女にとってまさに宝物のような存在だった。抽選で当たれば、顔を合わせることができる貴重なチャンス。美優はそのために仕事や私生活の予定を調整し、必死で応募する。イベント当選が決まると、喜びはひとしおで、心の中で何度も「必ず会いに行く!」と誓うのだった。そしてその日が来るたびに、蒼真が自分の目の前に現れるということが信じられないような気持ちでいっぱいになる。
そんな美優にとって、推しとの距離はいつも遠いようで近かった。毎日彼の笑顔を画面越しに見るたび、少しでも彼に近づけたような気持ちになり、元気をもらっていた。けれど、彼女はその日が意外な形で訪れることになるとは、まだ思いもしなかった。運命が織り成す出来事は、まさに予想もつかないタイミングでやってくることを、彼女は知らなかった。
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