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ヤクザ、アイドルを目指す①
あらすじ
元ヤクザの若き幹部、竜崎雅也は、かつて名を馳せた「黒龍会」が衰退し、組織の存続が危機的な状況に追い込まれていた。生き残るため、雅也は驚くべきアイデアを思いつく。それは、ヤクザの過去を持つ元構成員たちでアイドルグループを作ること。アイドル業界という華やかな舞台に、ヤクザの力を使ってでも入り込むという野心的な計画を立て、彼はグループ「黒龍乙女団」を結成する。
しかし、元ヤクザのメンバーたちは、アイドル活動に全く興味を示さず、最初はしぶしぶ参加。しかし、雅也の熱意と厳しい練習に次第に心を動かされ、グループとしての絆が深まっていく。だが、世間の冷徹な視線や過去を暴露しようとするメディアの圧力が襲い、グループは苦境に立たされる。
スキャンダルや挫折を乗り越え、雅也は過去と向き合いながらグループを再生させるための戦略を練り、次第にファンの支持を集めていく。そして、最終的には、アイドルとしての成功を収め、過去の自分を清算する決意を固める。雅也はアイドルとしての名声を確立し、グループは一つのチームとして輝きを放つようになる。
物語は、アイドルという華やかな世界に足を踏み入れた元ヤクザたちが、過去の影を乗り越え、真の自分を見つけ出すまでの成長と絆の物語を描く。
第1章:落ちぶれた黒龍会
竜崎雅也は、かつて名を馳せたヤクザの組織「黒龍会」の若き幹部であり、その冷徹な目つきと鋭い判断力で恐れられていた。彼の指示一つで街の裏通りの賭博場が動き、麻薬の取引も順調に進んでいた時代があった。しかし、時代は変わり、暴力団に対する締め付けが厳しくなる中で、黒龍会の力も次第に衰退していった。
ある薄暗い夜、雅也は組事務所の一室で煙草の煙をくゆらせながら、頭を抱えていた。机の上には、街で見かけた「ヤクザ排除」のポスターがいくつも貼られており、今や組織の影響力がいかに低下しているかを痛感させた。街を支配するために必要だった力は、今ではほとんど意味を持たない。裏社会のしのぎも次第に収益を上げられなくなり、組の財布はかつてのように潤うことはなかった。
「どうすればいい…」雅也はひとりごち、電話機の前に座り込む。その時、机の上に置かれたテレビの画面に目をやった。そこでは、数百人の観客を前にしてアイドルグループが笑顔を振り撒きながらパフォーマンスをしていた。華やかな舞台に立つ彼らの姿は、雅也の胸に何かが湧き上がるような感覚を呼び起こす。
アイドル。それは、雅也が今まで縁のなかった世界だった。だが、画面に映る彼女たちが放つ輝きと、観客から浴びる熱い視線を見た瞬間、何かがひらめいた。
「これだ。」
彼は瞬時にそのアイデアが自分の未来を変える鍵であることを確信した。アイドル――、それが今の自分にとって、最も奇抜で革新的な道であることに気づいたのだ。
雅也はすぐに立ち上がり、組の幹部である長谷川と黒田を呼び出した。ふたりは、雅也の突拍子もない提案に驚くだろうと予想しながらも、興奮と焦燥感が入り混じった気持ちで彼らを待った。
長谷川が事務所の扉を開け、黒田とともに中に入ると、雅也は予想通り、何かを決意したかのような顔で待っていた。
「どうした、雅也。顔色が悪いぞ。」長谷川が尋ねると、雅也は静かに答えた。
「俺、アイドルグループを作る。」
「は?」黒田が目を見開き、長谷川も驚きの表情を浮かべる。
「アイドルだと? お前がか?」長谷川が疑問を投げかけるが、雅也の目は揺るがない。彼の目には一瞬のためらいもなく、その目に宿った決意が、かつての冷徹さを取り戻していた。
「俺たちは、もう組のしのぎで生き残れない。賭博も麻薬ももう限界だ。それに、もう一つ、アイドルという世界が今、注目されている。この世界に俺たちが足を踏み入れることで、新たなしのぎを作り出せるんだ。」雅也はしっかりと言い切った。
「しかし、それは…」長谷川は口をつぐみ、黒田も何かを考え込む様子だ。アイドルグループのプロデュースなんて、彼らの世界ではまったく馴染みがない。だが、雅也の目にはしっかりとした意思が宿っており、その決意を否定する気にはならなかった。
「お前が言う通り、今のままじゃどうにもならない。でも、アイドルって……どういうつもりだ?」黒田が聞いた。
「元ヤクザのアイドルだ。」雅也の言葉は冷静で、しかし、どこか挑戦的だった。「俺たちは、裏社会で培った人脈と経験を生かして、この世界に入り込む。そして、俺たちの力で、業界の荒波を乗り越えていく。」
長谷川と黒田はしばらく黙っていたが、雅也の目から目をそらさず、やがてそれを受け入れた。
「よし、やってみろ。」長谷川がつぶやいた。
黒田も頷く。「お前のやり方に賭けてみる。だが、何もかもを一からやり直す覚悟でな。」
雅也はその言葉を胸に、これからの道を歩む覚悟を決めた。アイドルグループを作り、成功させること。それが、今の自分にとって唯一の道だった。
夜が深くなる中、雅也は次々と仲間たちを呼び集め、新たな「しのぎ」のための第一歩を踏み出すのであった。
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