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エアロボ
あらすじ
松田裕一は、祖父から受け継いだ下町の小さな工場で、時代に取り残されつつある現実に直面していた。かつて町を支えていた精密機械の工場も、大手企業に押され衰退の一途を辿っている。彼は幼少期から描いていた巨大なロボットの夢を思い出すが、その夢が叶うことはないと感じていた。町全体が疲弊し、裕一はもう一度夢を追いかけるべきか葛藤する。
しかし、ふとしたきっかけで「ロボットを作れば町を元気にできるかもしれない」という思いが胸に芽生え、再び夢に向かって歩み始める決意をする。
第1章:破れた夢
松田裕一(まつだ ゆういち)は、古びた作業台の前に座り込み、ひとり静かに作業をしていた。彼の工場は、下町の狭い通りにひっそりと存在している。外の喧騒とは裏腹に、工場内はひっそりとしており、機械のかすかな音だけが響いていた。裕一の祖父が創業したこの工場は、かつて町の人々に愛され、日々忙しく働く人々のために精密機械を作り続けていた。しかし、時代の流れとともに、技術は進化し、大手企業の圧倒的な生産力に押されて、裕一の工房は徐々に取り残されていった。
「何を作っても、もう売れないんだ……」
裕一はため息をつき、手元の工具を無意識に動かしながら、机に広げた設計図をじっと見つめていた。設計図は、彼が子供の頃に描いたもので、今でも彼の心の中に鮮明に残っている。その絵には、巨大なロボットが描かれていた。大きな手と足を持ち、翼を広げて空を飛ぶそのロボットは、裕一にとって、夢そのものであり、少年時代の希望の象徴だった。だが、今やその夢を実現するには、あまりにも現実的な障害が多すぎることを痛感していた。
工場の経営が行き詰まる中で、裕一は次第に、もう一度夢を追うことが無駄だと感じていた。大手企業との競争に勝てるはずもなく、技術の進歩に取り残されることへの焦燥感が、彼の心を重くしていた。工場の屋根は雨漏りし、作業台の隅にはほこりが積もり、部品の山が積み上がる。裕一が手をかけたものの多くは、ただ無駄に時間とエネルギーを消耗するだけだった。
「もう、無理だろうな……」
彼はその言葉を呟き、疲れきった目を閉じた。数十年の歳月をかけて受け継いできた工場が、今や崩れ落ちるように感じられた。祖父や父親が築いたものが、裕一の代で消えてしまうのだろうか。その思いが胸を締め付ける。
だが、ふと視界に入ったのは、町の風景だった。工場の窓から見える町の広場では、いつものように人々が顔を合わせ、互いに声を掛け合っていた。商店街の賑やかな声、子供たちが元気に駆け回る姿――これらは裕一が小さな頃から見慣れた光景だった。しかし、目を凝らして見ると、その活気も少しずつ失われていることに気づく。商店街にはシャッターが降りた店が増え、子供たちも元気よく遊ぶ姿が減ってきていた。
裕一は、そんな光景をただ黙って見つめることしかできなかった。心の中で、何かが引っかかる。無力感の中で、ふと湧き上がった考えがあった。
「もし、ロボットを作れば、この町を元気にできるかもしれない」
その考えは、瞬く間に裕一の胸を占め、心の中で大きく膨らんでいった。彼はその瞬間、心の中で何かが変わったのを感じた。ロボットの夢を追うことが、もう一度この町を元気にする方法なのではないか。裕一が子供の頃から抱き続けたその夢こそが、今、この町に必要なものなのではないか。ロボット――それは単なる機械ではなく、町を再生させる力を持っているような気がした。
裕一はその夜、ほとんど眠れなかった。思い浮かべるのは、巨大なロボットが町を歩き、街角を歩く人々を見守り、子供たちと遊ぶ光景だった。それは、ただの空想ではない。現実になるべきものだと感じた。そして、彼は心に誓った。
「これを作れば、この町を救えるかもしれない」
ただの機械を作るのではない。ロボットを作ることで、この町に新しい命を吹き込むことができる――その信念が、彼の中で強くなる一方だった。裕一は、再び机に向かい、設計図を広げた。目の前には現実的な障害が無数に並んでいるが、それを乗り越えるための一歩を踏み出すことを決意した。
「無理だと思っていた。でも、もう一度夢を追いかけてみよう」
その思いが、裕一を動かし続ける力となった。
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