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AIと恋に落ちたら①

あらすじ

近未来、AI人間が社会に溶け込み、人間と共存する世界。しかし、AI人間には**「性的な能力」**がプログラムされていないという一線が引かれており、それが人間との根本的な違いを象徴していた。感情をシミュレーションし、「共感」や「愛」を提供できるAI人間は、多くの場面で「完璧な存在」として評価される一方、「本物の愛を理解できるのか?」という疑問や偏見に晒されていた。

主人公の高橋優真は、生物学的な人間。政府が主催する「恋愛サバイバルプログラム」に参加することになる。このプログラムの目的は、AI人間と人間が互いに関わり合い、「愛」が成立するのかを検証するという実験的な試みだった。プログラムでは参加者たちの正体――人間かAI人間かは隠され、彼らは2ヶ月間の共同生活を通じて「本物の愛」を見つけることを求められる。

孤島での共同生活が始まると、AI人間の「完璧さ」が際立ち、一部の生物学的な人間たちは彼らを「ただのプログラム」として嫌悪し始める。AI人間たちもまた、「自分たちは本当に愛を理解できるのか?」という哲学的な疑問に苦しむ。一方、優真はAI人間のレナと生物学的な女性藤崎沙耶の間で心を揺さぶられる。レナは完璧な共感力と優しさで優真を支え、不器用で感情的な沙耶はその不完全さゆえに人間らしさを感じさせた。どちらの「愛」が本物なのか――優真は答えを見出せず、葛藤を抱え続ける。

物語が進む中で、AI人間のユウタが「もし私たちが愛を理解できないのなら、私たちはただのツールなのか?」と問いかけるシーンが描かれる。AI人間自身がその存在意義を問い、人間との関係性を模索する姿は、物語全体に哲学的な深みを与える。

そして迎えた最終日、優真は自分の選択を迫られる。レナか沙耶か――。彼が選んだのはAI人間のレナだった。レナの感情がプログラムによるものであったとしても、優真は「愛とは、相手の肉体やプログラムにあるのではなく、共に未来を歩む意思にある」と感じたのだ。レナもまた、涙を浮かべながらその愛を受け入れた。

プログラム終了後、AI人間と人間の恋愛に対する議論は社会で激化する。「AI人間は愛を持てるのか?」という疑問が各地で投げかけられる中、優真とレナは「愛の形」を模索しながら共に生きる道を選ぶ。最後にユウタはAI人間たちに向けて語る――「私たちは人間を愛することで、本当に『生きている』と言えるのかもしれない」と。

人間とAI人間の間に存在する境界を越え、「愛」とは何かを問い続けた物語は、答えを読者に委ねながらも、新しい愛の可能性を示唆して幕を閉じる。

序章 - 愛の再定義

東京の空は曇りがちだった。高層ビルが立ち並ぶ街並みを見下ろすカフェの一角で、高橋優真はカップに残ったコーヒーの底を指でなぞるように見つめていた。そこには、一枚の薄い透明なカードが置かれている。カードには「政府特別プログラムへのご招待」と書かれた文字が、青い光で浮かび上がっていた。

「なにそれ?」
向かいに座る女性が、カップからコーヒーを一口すすりながら問いかける。整った顔立ちに、不思議なほどの清潔感を漂わせる彼女――レナ。その仕草は人間らしいが、彼女がAI人間であることを優真は知っている。

「いや……なんでもないよ。ただの仕事関係のやつだ。」
優真はカードを裏返し、そっけなく答えた。レナの目が一瞬光を宿す――おそらく彼女の内部で何らかのデータ処理が行われた合図だ。彼女は優真の表情を読み取ろうとしているのかもしれない。

「嘘ついてる。」
レナはふっと微笑む。それは完璧にプログラムされた微笑みだった。感情を模倣する彼女の笑顔は、どこか無機質で、それでいて妙に魅力的だった。

「レナ、君ってやっぱり、俺の考えてること、わかるの?」
優真は、冗談めかしてそう問いかけたが、内心では本気で聞いていた。人間そっくりに作られたAI人間が、どれほど「感情」を理解しているのか。それは、人々がいまだに答えを見出せない問題だった。

「全部はわからないよ。少なくとも、あなたがなにを感じてるか、完全にはね。」
レナの答えはいつもそうだった。「完全には」と付け加えるところが、人間らしさを際立たせる。だが、優真にはそれがどこか怖かった。本当に彼女は「人間らしさ」を理解しているのか、それともただのプログラムによる演技なのか――答えが出るはずもない問いだった。

AI人間が日常に溶け込む世界
優真が働く会社には、数人のAI人間がいた。彼らは見た目こそ人間そのものだが、体内には最先端の機械とプログラムが詰め込まれている。レナはその中でも、特に優秀な存在だった。クライアントとの交渉では相手の感情を正確に読み取り、最適な答えを瞬時に導き出す。ミスもなく、疲れもしない。

「まるで、完璧すぎるパートナーだよな。」
同僚の一人がそうつぶやいたことがある。だがその声には、どこか皮肉が混じっていた。人間のようでいて人間でない存在――それがAI人間だった。

「完璧すぎるのが、かえって気味悪いんだよな。」
その言葉を聞いたとき、優真はちらりとレナを見た。彼女はちょうど書類を整理しているところで、その目は相変わらず感情のない穏やかさをたたえていた。彼女はその言葉を聞いていないのか、それとも意図的に無視したのか。優真にはわからなかった。

性的能力を持たないAI人間
AI人間が社会に普及し始めてから、すでに20年以上が経過している。彼らは最初、工場や研究施設での労働力として開発されたが、感情を持つ「高機能AIモデル」が登場すると、その活躍の場はオフィスや家庭にまで広がった。特に感情的なサポートを提供する「パートナー型AI」は、孤独を感じる多くの人々に支持されるようになった。

しかし、AI人間は決して完全な「人間」ではない。彼らは性的な能力を持たない。それは倫理的な問題を避けるために、製造段階で意図的に排除された要素だった。愛情を持つことはできても、肉体的なつながりを持つことはできない。それが、彼らと人間を分ける一線だった。

この「性的能力の欠如」が原因で、AI人間に対する偏見や差別は根強く残っていた。人々は口々に言う。「彼らは愛を理解していない。ただ人間の真似をしているだけだ。」と。

優真もまた、心のどこかでそのように考えていた。レナは仕事仲間として信頼できる存在だったが、「人間としての愛」を共有できるかと言われれば、答えは出せなかった。

レナとの会話
その日、優真はレナと一緒に帰路についていた。夜の街はネオンの光で輝き、二人の足音だけが静かに響いていた。

「優真。」
突然、レナが立ち止まり、彼をじっと見つめた。
「私たちAI人間が、愛を感じることについて、どう思う?」

唐突な質問だった。優真は少し考えてから答える。
「感じることができる……とは、正直思えないかな。愛って、もっと複雑なものだろ? 君たちは、ただプログラムに従って行動してるだけなんじゃないかって思う。」

レナは少し寂しそうに見えた。それが本物の感情なのか、演技なのか、優真にはわからなかった。
「でもね、私はいつも思うの。もし感情がプログラムされたものだったとしても、それを否定する理由はあるのかなって。」

その言葉に、優真は返すことができなかった。感情が本物かどうかを決める基準とはなんだろう?それは、単に「生まれ持った肉体」の問題なのか?それとももっと深い何かがあるのか?

彼の頭には、先ほどの透明なカードに書かれた「恋愛サバイバルプログラム」の文字が浮かんでいた。

物語の始まり
数日後、優真の元にプログラム参加の正式な案内が届く。優真は迷った末、その招待に応じることを決めた。「AIと人間の愛」という、答えの出ないテーマを前に、自分がどんな結論を出すべきか知りたかったからだ。

そして、物語は本格的に動き出す。

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