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星屑の咆哮 -アストレイナーの軌跡-第3章:深まる陰謀①
第9話:地球政府の闇
1. 情報の漏洩
崩壊したアクシオンを後にして数日が経過した。カイたちは廃棄された宇宙ステーション「オルドノヴァ」に身を潜め、辛うじて生き延びていた。だがその生活は過酷だった。ステーションは長年放置されていたため、空気の循環システムは不安定で、内部は暗く寒い。物資も限られており、まともな食事もとれない状況だった。
「これじゃあ、じわじわと死ぬのを待つだけだな……。」
レジスタンスの一人が漏らした言葉に、重苦しい空気が広がる。カイはその場に座り込んだまま、手に握った食糧パックをじっと見つめていた。アストレイナーの活躍で多くの人々を救えたとはいえ、アクシオンを守れなかった自分への無力感が胸を苛んでいた。
そんな中、緊張感を漂わせながら一人の男がステーションに戻ってきた。彼は地球政府軍内部に潜入しているレジスタンスのスパイで、今回の任務で命がけの情報収集を行ってきた人物だ。
「持ち帰った情報がある。」
彼の手には、暗号化されたデータを記録した端末が握られていた。それを受け取ったアヤが、即座に解析作業を始める。周囲にいる全員が無言のまま、その様子を見守っていた。そして数分後、解析が完了し、モニターに映し出されたデータに誰もが息を飲んだ。
それは、地球政府が進めている秘密の兵器開発計画に関する詳細なデータだった。
「これは……衛星兵器……?」
アヤが画面を指差しながら呟く。その目には恐怖が浮かんでいた。
映し出された設計図には、巨大な人工衛星のような構造物が描かれていた。その中心には「アストリアム融合炉」と記されており、それが動力源となっていた。計画の内容は、アストリアムのエネルギーを利用して惑星規模の破壊を可能にする超兵器を完成させるというものだった。
「これが……完成すれば、コロニーどころか地球すらも破壊できる……。」
アヤの言葉は震えていた。その場にいる全員がその恐ろしさを理解し、言葉を失っていた。
「こんな兵器を……本気で使うつもりなのか?」
カイは呟いたが、その声には困惑と怒りが入り混じっていた。
「地球政府は、コロニー側の独立運動を完全に封じ込めるため、あらゆる手段を取る覚悟なんだろう。」
スパイの男が低い声で答える。
カイは拳を握りしめ、データに映る衛星兵器の設計図を睨みつけた。だがその時、心の中にある疑問が浮かび上がる。
「……リースは、この計画のことを知っているのか?」
リースの行動にはどこか一貫性がないように思えた。彼は地球政府軍に忠誠を誓って戦っているように見えるが、カイには彼の中に何か別の目的が隠されているように感じられたのだ。
「リース……お前は本当に、地球政府のためだけに戦っているのか?」
その疑念は、カイの心にさらに深い迷いを生んでいた。
2. エリオスの捕縛
しかし、彼らがこの情報の恐ろしさに呆然としている間に、さらなる悪い知らせが舞い込んできた。レジスタンスの連絡員からの緊急通信が入る。
「緊急報告だ。アヤの父であり、レジスタンス指導者であるエリオス・ミクモが、地球政府軍に捕らえられた。」
その言葉を聞いた瞬間、アヤの顔が凍りついた。
「父さんが……捕まったって……?」
連絡員の報告は続く。エリオスはアクシオン崩壊時、最後まで住民たちの避難を指揮していたが、その際に政府軍の部隊に包囲され、捕縛されたという。そして今、彼は**地球政府の要塞都市『ヘリオポリス』**に連行されているとのことだった。
「……さらに悪い情報だが、エリオスは数日後に公開処刑される予定だ。」
その言葉を聞いたアヤの目には、怒りと悲しみが浮かんでいた。
「父さんを……見せしめにするつもりなんだ!」
拳を握りしめ、声を震わせるアヤ。カイはそんな彼女をじっと見つめていた。そしてやがて、静かに言葉を発する。
「俺たちで助けに行こう。」
その一言に、アヤは驚いたようにカイを見つめる。
「カイ……でも、ヘリオポリスは地球政府軍の最重要拠点だよ? 潜入するなんて無茶だ。」
「無茶でもやるしかないだろ。エリオスさんを助けるためにも、そしてあの兵器計画を止めるためにも。」
カイの言葉には、迷いがなかった。その力強い決意に、アヤはしばらく黙り込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「……ありがとう、カイ。でも、危険なことには変わりないよ。一緒に慎重に計画しよう。」
3. 潜入作戦の始まり
カイたちは、限られた戦力をもとに、ヘリオポリスへの潜入作戦を立案し始めた。彼らの目標は、エリオスを救出すると同時に、衛星兵器計画の詳細な情報を入手することだった。
廃棄された宇宙ステーションの薄暗い作戦室で、アヤがホログラムマップを操作しながらヘリオポリスの構造を解析していく。
「ヘリオポリスは、地球政府の中枢とも言える要塞都市。重装備の防衛部隊に加えて、複数のモビルスーツ隊が常駐している……正直、まともに戦って突破するのは不可能だよ。」
アヤの声には不安がにじんでいた。それでもカイはアストレイナーの整備を進めながら言う。
「大丈夫だ。俺が囮になる。アストレイナーの力を使えば、敵の目を引きつけられるだろう。その間に、アヤたちが潜入してエリオスさんを助け出すんだ。」
「囮って……カイ、それじゃああんたが……!」
アヤの声が一瞬震えたが、カイは彼女に向かって微笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。これが俺の役目だから。」
アヤはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐き、小さく頷いた。そして目に力を宿し、言った。
「わかった。一緒にやろう、カイ。」
こうして、カイたちの新たな戦いが始まろうとしていた――命がけの潜入作戦と共に、深まる陰謀の全貌が徐々に明らかになっていく。
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