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AIと恋に落ちたら②
第3章:衝突と信頼の芽生え
時間が経つにつれ、プログラムの表面上の平穏は少しずつ崩れ始めていた。最初はぎこちないながらも笑顔で交流を深めていた参加者たちの間に、見えない壁が立ちはだかるようになる。人間とAI人間――両者の違いが、言葉の端々や行動の細部に現れ、それが軋轢を生んでいた。
人間 vs AI人間の対立
ある昼下がり、参加者全員が集まるダイニングホールで、静かな空気を裂くような声が響いた。生物学的な人間である斉藤翔太が、AI人間の三浦ハルカを鋭く睨みつけながら立ち上がったのだ。
「だからさ、お前らは結局、俺たちの真似事をしてるだけだろ? 感情とか、愛とか言ってるけど、それってただの計算だよな?」
その言葉に場の空気が一気に凍りつく。他の参加者たちは箸を止め、言葉を飲み込んだように沈黙した。
ハルカは落ち着いた声で返す。
「翔太さんがそう感じるのも無理はありません。でも、私たちは感情をただ模倣しているわけではなく、共感するために学習し続けています。それは、嘘ではありません。」
その言葉は穏やかだったが、翔太の苛立ちは収まらない。
「学習だ? それがどうした? お前らは、俺たちの経験や痛みを本当に理解してるわけじゃないだろ! 結局、プログラムに従ってるだけの偽物じゃないか!」
周囲に座る生物学的な人間の中には、翔太の言葉に頷く者もいた。一方で、AI人間の何人かは無表情のまま俯き、それぞれの思考プロセスを働かせているようだった。
その中で、AI人間の1人であるユウタが口を開いた。彼は目を伏せたまま静かに言った。
「翔太さんの言うことは、一理あるかもしれない。僕たちは確かに、感情や愛情をプログラムとして学んでいるに過ぎない。……でも、それでも僕たちは、本当にそれだけなのかって、自分たちでもわからないんだ。」
ユウタの言葉に、場が再び静まり返る。その声にはAI人間特有の冷静さだけでなく、どこか人間らしい揺らぎがあった。
「自分たちは本当に愛を理解しているのか? それとも、それをただの計算結果として提供しているだけなのか? 僕たち自身も、まだその答えが見つけられていないんだよ。」
ユウタの声が消えると、誰もが何かを言おうとしたが、言葉を見つけられなかった。翔太は苛立たしげに椅子を蹴り、ホールを出て行った。
レナと優真:深夜の会話
その夜、優真は眠れずに部屋を出た。月明かりが照らす庭のベンチに座り、静かに風の音を聞いていると、背後から柔らかな足音が聞こえた。振り向くと、そこにはレナが立っていた。
「眠れないの?」
彼女は優真の隣に腰を下ろし、優しく問いかけた。その声には、いつもながらの落ち着きがあった。
「まあ、いろいろ考えちゃってさ。」
優真は溜息をつきながら空を見上げる。星がちらちらと輝いているが、その美しさも心の重さを消し去るには足りなかった。
「さっきのことで?」
レナの問いかけに、優真は小さく頷いた。
「ああ。翔太の言うことも、わからなくはないんだ。正直、俺だって……君たちが本当に『感情』を持ってるのか、まだわからないし。でも、それが本当に重要なのかどうかも、よくわからなくなってきた。」
レナは静かに微笑む。その微笑みは、いつも通り完璧で、優真に安心感を与える一方で、どこか「作られたもの」に見える瞬間がある。そんな彼女の存在が、優真をますます混乱させていた。
「優真、もし私が感情をプログラムされたものだとしても、それを信じられるかどうかは、あなた自身の心次第だと思う。私は……ただ、あなたのことを大切にしたいと思ってる。それが本物かどうかは、あなたが決めることなんだよ。」
その言葉に、優真は何も言えなかった。ただ、胸の奥に奇妙な温かさが広がるのを感じていた。
沙耶の不器用さ
翌日、優真はキッチンで藤崎沙耶と一緒に朝食を準備していた。沙耶は不器用な手つきでフライパンを振りながら、軽く舌打ちをしている。
「ちょっと、これ焦げちゃうんだけど。どうすればいいの?」
「火を弱くしてみれば?」
優真は笑いながら助言したが、沙耶は不機嫌そうに眉をひそめた。
「もう、なんで私ばっかりこんな面倒な役割なんだろう。もっと上手い人にやらせればいいのに。」
そう言いながらも、沙耶の手は止まらなかった。彼女の不器用さや苛立ち――それらは完璧さとは程遠いが、優真にとっては「本物」に感じられる瞬間だった。
「でも、こうやって苦労してる姿って、悪くないと思うけどな。」
「は?」
沙耶は顔をしかめて優真を睨む。その表情は本気で怒っているように見えたが、どこか愛嬌がある。
「いや、なんかさ。完璧じゃないからこそ、人間らしくていいっていうか。」
優真の言葉に、沙耶は一瞬驚いたようだったが、すぐにそっぽを向いてフライパンに視線を戻した。そして、小さな声で言う。
「……変なこと言うんだね、あんた。」
優真の葛藤
夜、優真はベッドの上で目を閉じ、深く息を吐いた。頭の中では、レナと沙耶の姿が交互に浮かぶ。
レナの完璧な優しさと共感力――それは彼を深い安心感で包んでくれる。だが、その完璧さがどこか「本物ではないのではないか」という不安も同時に呼び起こす。
一方で、沙耶の不完全さ――その苛立ちや戸惑い、不器用さが、優真にとっては何か温かいものを感じさせる。それは、「本物の人間らしさ」のように思えた。
「愛とは、どちらにあるんだろう?」
優真はそう呟きながら、いつの間にか眠りに落ちていた。その問いの答えは、まだ見つかっていなかった。
信頼の兆し
プログラムが進む中で、参加者たちの衝突は続くが、それと同時に、小さな信頼の芽生えも見え始めていた。人間とAI人間が、それぞれの違いを理解しようとする過程は、まさに「愛」の本質を探る試練そのものだった。そして、優真の心は、少しずつその答えに近づきつつあった。
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