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運命の夜空①

あらすじ

ソウルの中心部にあるアートギャラリー「アルテナイト」で開催された華やかなイベントの夜、ソ・ジュンホは一人でギャラリーを訪れる。高級な雰囲気に圧倒されながらも、ジュンホは一枚の抽象画に引き寄せられる。その絵を描いたのは、若き芸術家ハン・ダヨンだった。彼女は自信と繊細さが混じる雰囲気を持つ女性で、ジュンホとの会話が進むうちにお互いの魅力を感じ始める。しかし、二人の会話が進むうち、互いに自分の家族の名を聞き、ソ・グループとハン財閥という対立する家柄であることが明らかになり、急激にその空気が冷え込む。

ソ・グループのジュンホと、ハン財閥のダヨンは、それぞれの家族から重い期待を受けている。ジュンホは、父ソ・ドンヒョンからリゾート開発プロジェクトの成功を期待され、ダヨンは父ハン・ジチャンから家を守るために戦うよう命じられる。ダヨンは家族の束縛から逃れ、自由を求める一方、ジュンホは父親の期待に悩み、次第にその重圧に押しつぶされそうになる。しかし、二人が互いに抱える家族との対立が、運命的に交錯し、引き裂かれそうになる。

ある夜、ジュンホはダヨンに会うために彼女の家の近くに訪れる。二人は月明かりの下で再会し、静かな夜に互いの思いを交わす。しかし、ダヨンの兄・ハン・ジヒョクが妹の行動に疑念を抱き、二人の秘密の関係を監視し始める。ジュンホとダヨンは愛を育みつつも、家族の監視から逃れられない状況に追い込まれる。彼らは運命に引き裂かれないように誓うが、その関係がどれほど危険なものであるかをまだ実感していない。

ソ・グループとハン財閥のリゾート開発プロジェクトは激しく対立し、両家の争いはついに表面化する。ジュンホとダヨンは、各々の家族からの圧力にさらされながら、愛を貫こうとするが、その選択が二人をさらなる困難へと導いていく。秘密の関係を続ける中で、周囲の監視が強まり、二人の間に深い亀裂が入る予感が漂う。

第1章: 夜のギャラリー

ソウルの中心部にあるアートギャラリー「アルテナイト」は、今夜も煌びやかな光に包まれていた。高い天井から吊るされたシャンデリアが、ガラスの壁に無数の輝きを映し出している。都会の喧騒から切り離されたこの空間には、名士や著名な芸術家たちが集まり、華やかなイベントが繰り広げられていた。

その夜、ソ・ジュンホはひとりギャラリーを訪れていた。黒のスーツに身を包み、無造作に整えられた髪、そして落ち着いた表情。彼はこのような社交の場には慣れているはずだったが、どこか居心地の悪さを感じていた。

「この絵は……?」

ふと足を止めた先に、ひとつの作品が展示されていた。それは大きなキャンバスに描かれた抽象画で、夜空を思わせる濃紺の背景に、無数の星が流れるように輝いている。絵の中には、星々の間にぼんやりと浮かぶシルエットがあり、それが人影のようにも見えた。近づいて見れば見るほど、絵の奥深さに引き込まれる感覚があった。

「これは、私の作品です」

静かな声が後ろから響いた。ジュンホが振り返ると、そこには若い女性が立っていた。
白いブラウスに黒いスラックスというシンプルな装いながらも、その全身からは凛とした雰囲気が漂っている。柔らかな髪が肩にかかり、その大きな瞳には自信と繊細さが混ざり合っていた。

「あなたがこの絵の……?」
「はい。ハン・ダヨンといいます」

彼女は微笑みながら軽く頭を下げた。

「これはただの夜空ではありません。誰かが見る『記憶の中の星空』を描いたものです。人それぞれの記憶の中に、こういう景色があると思いませんか?」

ダヨンの言葉は静かで、どこか詩のようだった。ジュンホは思わず頷いていた。

「本当に美しい絵です。これを描いたあなたの視点が、特別なものだと感じます」

そう言うと、彼女の頬がほんのり赤く染まった。

「ありがとうございます。でも、そう言っていただけるなんて少し不思議です。私の作品に惹かれる方は多くないので」
「それは意外ですね。これだけの作品なら、多くの人が感動するはずです」

二人の会話は自然に続いていった。まるで長い間知り合いだったかのような心地よさがそこにはあった。ジュンホは彼女が話す言葉一つ一つに耳を傾け、彼女の存在そのものに惹かれていった。

だが、その空気は次の瞬間に一変した。

「そういえば、まだお名前を伺っていませんでした。あなたは?」
「ソ・ジュンホです」

その名を聞いた瞬間、ダヨンの表情が硬直した。ジュンホも同じだった。

「……ソ……ソ・グループの……?」
「そういうあなたは、ハン財閥の……?」

一瞬の沈黙が二人の間に流れる。周囲の喧騒が遠のき、二人だけが取り残されたようだった。さっきまで穏やかだった空気が、まるで冷たい刃物のように張り詰めていく。

「私たちは……」
「出会うべきじゃなかったのかもしれませんね」

それぞれが心の中でそう呟いたが、どちらもその言葉を口にはしなかった。ただ、見つめ合うだけ。

夜のギャラリーに満ちていた星のような輝きは、二人の間に漂う静かな緊張感の中で、儚くかき消されていくのだった。

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