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姉の代わりに、男子で転校!①

あらすじ

新学期の初日、真一は女子高に転校生として姿を現す。しかし、その正体は姉である三咲の代わりに彼女の苦しみを背負おうとした双子の兄であることを誰も知らない。三咲は完璧な優等生として注目を浴びながらも、嫉妬からいじめを受け、孤立してしまっていた。そんな三咲の苦しみを代わりに引き受けるため、真一は彼女に扮して女子高での日々を過ごすことを決意する。

最初はクラスメートたちと距離を置き、目立たないように過ごしていた真一だが、次第にクラスの中心人物である由香から嫌がらせを受けるようになる。いじめはエスカレートし、孤立感を深めていく中、真一は少しずつ心の支えを見つけていく。そんな彼を支えてくれたのが美沙と彩音だった。二人に真実を打ち明けたことで、真一は初めて心から救われた気持ちを味わう。

クラスメートたちの中でも、由香がいじめの行動を見直し始め、真一に謝罪することで少しずつ関係が変わっていく。真一の勇気がクラスに影響を与え、やがて彼は自分の居場所を見つけることができるようになる。最終的に真一は、新たな希望を胸に抱きながら、これからも前に進んでいくことを決意する。

1. 新たな転校生

新学期の初日、真一は思わず深呼吸をしてから、女子高の校門をくぐった。白い制服に、三咲の名札が揺れる。それが彼女の代わりであることを、誰も知らないままだった。

三咲、彼の双子の姉は、完璧な成績と容姿で、学校内で一目置かれる存在だった。その完璧さは周囲に強烈な印象を与え、学校の中心人物として、輝かしい日々を送っていた。しかし、そんな輝きが、次第に嫉妬の対象になっていった。誰かがその輝きを嫌うように、陰でこっそり足を引っ張り、最初は些細な噂話や無視から始まり、次第に陰湿ないじめへとエスカレートしていった。三咲はその苦しみに耐えながらも、友達を作ることができず、心の中で孤立していった。どんなに頑張っても、周囲の冷たい視線からは逃れられなかった。

「もう、こんな日々には耐えられない……。」三咲はついに転校を決意する。新たなスタートを切りたかった。だが、彼女にはどうしても手放せないものがあった。それは、何よりも真一、双子の兄としての役割だった。三咲は真一に、自分の代わりにこの学校に通うように頼んだのだ。真一はその依頼を受け、何の躊躇もなく、姉の背負ってきた重荷を肩代わりする覚悟を決めた。

制服を着るとき、真一は一瞬、自分が男であることを忘れそうになった。しかし、鏡の中に映るのは、しっかりと三咲そのもので、髪型も姉のものに合わせ、まるで姉がそのまま入学したような姿だった。彼は男子であることを隠し、姉のように振る舞うことで、少なくとも彼女が過ごした最初の数週間に耐えた辛い出来事を繰り返さないように心に誓った。

「これで、姉の代わりになれるんだ……」真一はそう思いながら、校門をくぐった。だが、胸の中には不安がひしひしと湧いていた。彼は姉が感じていた孤独を背負い、無理をしてでも乗り越えなければならないと感じていた。しかし、周囲の目がどうしても気になった。

初めての教室では、すでに他の生徒たちが席に座っており、真一はその視線が一斉に自分に集まるのを感じた。彼は一瞬のうちに緊張し、どこかぎこちなく教室の一番奥の席に座った。周囲の女子たちは、真一の姿に対して、どこか期待しているような目を向けているようだったが、彼はそれに答える余裕もなく、ただじっと机に目を落としていた。

その瞬間、「新しい子?」と声をかけてきたのは、由香だった。彼女は、クラスの中心で、誰もがその言葉に従うような存在だった。

「よろしくね、三咲ちゃん。」由香は薄く笑いながら、わざと大きな声で言った。彼女の表情からは、真一を試すような、少し興味深げな色が滲んでいた。

その笑顔の裏には、三咲が何もかも完璧だったからこそ、嫉妬心を抱く一部の生徒がいるという事実があった。真一はそのことを無意識に感じ取り、心の中で決意を新たにした。「この学校で、絶対に姉の過去を繰り返させない……」

昼休み、真一は一人で弁当を食べようとしたが、無意識のうちに周囲を気にしていた。女子たちは他の席で楽しそうに話しているが、真一の存在にはあまり関心を持っていないようだった。それがまた、彼にとってはどこか寂しさを感じさせた。

「だめだ、こんなことで負けちゃだめだ……」真一は心の中で自分を奮い立たせる。だが、周りの視線がじわじわと感じられる中で、真一はどうしてもその壁を突破する勇気が出なかった。彼は心の中で、次第にこの状況が長く続けば、姉と同じように孤立してしまうのではないかという恐怖を抱えていた。

その日、真一は帰り道でふと立ち止まり、思った。「でも、姉が経験したことは、もう繰り返させない。僕がここで、何とかしなければ――」

そして、彼は深く息を吸い、校門を出るときに決意を新たにした。明日からは、少しずつでも、自分を出していく覚悟で――。

2. いじめの兆し

最初のうちは、真一は目立たないように、ただ静かに過ごしていた。教室では、できるだけ他の生徒たちと関わらないようにしていた。周囲の視線を避けるため、なるべく目立たない位置に座り、昼休みも一人で過ごすことが多かった。しかし、その静けさが逆に目立つのか、やがてクラスの中心人物である由香が彼に目をつけるようになる。

由香は、三咲が転校してきたときから、なぜか三咲に冷たい態度を取っていた。三咲が完璧で、皆に好かれていたからこそ、由香は三咲を避けていたのだろう。その冷たい目線は、今度は真一にも向けられるようになった。最初は、ただ無視されている程度だったが、やがてその態度は次第に激しくなっていった。

「あなた、どこから来たの? こんな学校で何ができると思っているの?」由香は授業の後、真一に対して冷徹な視線を投げかけた。真一はその言葉の意味がわからなかった。なぜなら、彼が三咲の代わりに来たことを由香が知らないはずだからだ。しかし、由香の目にはすでに嫌悪感があふれており、その冷たさに真一は少しずつ心が痛くなっていった。

最初は無視したり、わざと冷たくあしらったりするだけだった由香の態度。しかし、次第にその行動はエスカレートし、真一の筆記用具を授業中に隠すようになった。最初は気づかなかったが、後になって真一は気づいた。由香が誰かに合図を送り、その後ろで他の女子たちが彼のペンを隠したり、ノートをひっくり返したりしていたのだ。

それだけではなく、休み時間になると、由香は意図的に真一の周りで大声で騒いだり、わざと近くに座ったりして、彼を目立たせることに楽しさを見出すようになった。それを見ていた他の生徒たちも、由香の行動に次第に従い始めた。最初は誰もが見て見ぬふりをしていたが、次第にその無視や冷たい視線が常態化していき、真一は完全に孤立していった。

ある昼休み、真一はいつものように一人で静かに食事をしていた。周りの女子たちが賑やかに話している中、彼はあえてその輪に入らず、弁当を広げて黙々と食べていた。しかし、そのとき、由香が他の女子たちを引き連れて、真一の前に現れた。真一は彼女たちの足音に気づくと、無意識に顔を伏せ、視線を合わせないようにしたが、由香はその隙間を見逃さなかった。

「ねえ、三咲ちゃん、こんなところで一人で何してるの?」由香の声は、明らかに挑発的だった。周りの女子たちは何も言わず、ただ笑いながらその様子を見守っているだけだった。

真一が何も言わずに食べ続けていると、由香は不意に彼の弁当をひっくり返した。「どうせ、こんなの食べても意味ないよね?」と冷たく言い放つと、周りの女子たちは一斉に笑い声をあげた。真一は驚き、弁当がひっくり返ったことで、全てが台無しになったことを理解したが、何も反応できなかった。気まずさと屈辱感が胸に広がり、ただただ目の前の光景に呆然としていた。

「おい、なんで反応しないの? まさか、本当に何も感じてないわけじゃないよね?」由香の挑発は続く。真一は立ち上がりたかったが、男子であることを隠している自分には、反撃する勇気がなかった。彼は無言でその場を立ち去り、弁当が台無しになったことを何とか誤魔化すため、食堂の隅にあるゴミ箱に捨てて、さらに教室を離れた。

「こんなこと、もう我慢できない……」真一は心の中で、何度も繰り返した。しかし、女子として振る舞う自分には、今の状況で反撃する手段はない。男子であることがバレれば、姉の代わりに来たことが露見してしまい、さらに孤立してしまう。その恐怖が、彼の胸を締めつけていた。

その日も、真一は言葉少なく学校を終え、誰とも話さずに帰路についた。心の中では、もう耐えられないという気持ちと、ただ黙っているしかないという気持ちが交錯していた。しかし、真一は決してあきらめることなく、どこかでこの状況を乗り越える方法を探している自分を感じていた。

3. 心の支え

真一は、由香からのいじめがますますエスカレートし、孤立感が深まる中で、少しずつ心の支えを見つけていった。初めてできた友人、それが美沙と彩音だった。最初は、クラスで話すことも少なく、ただ気づかれないように過ごしていた真一。しかし、どこか不自然な彼の振る舞いに、次第に二人の目が留まるようになった。

美沙は、真一が他のクラスメートとは少し違うことに気づき始めていた。彼の視線の使い方や、微妙にぎこちない動き。それは言葉では説明しきれない違和感を伴っていた。ある日、美沙は真一が昼休みに一人でいるのを見かけ、思い切って声をかけた。

「ねえ、真一、なんかあなた、どこか隠してることがあるんじゃない?」美沙の言葉は、ずっと感じていた小さな疑問が口に出た瞬間だった。真一は驚いて、美沙の目を見つめた。まさか自分の秘密を見抜かれたのかと思ったが、思い切ってそのまま話すことに決めた。

「実は、僕は男なんだ。三咲の代わりにここに来たんだよ。」真一はその瞬間、言葉を絞り出すように話した。美沙と彩音は、一瞬その言葉を理解するのに時間がかかった。二人は黙って真一を見つめていたが、すぐにその沈黙は温かな反応へと変わった。

「それなら、ずっと気づいてたよ。なんとなく、男の子っぽさが見え隠れしてたから。」彩音が微笑みながら言った。美沙も頷き、「それにしても、ずっと苦しんでたんだね」と言った。二人は、真一が何ヶ月もの間、どれだけ辛い思いをしてきたのかを感じ取っていた。

「私たち、あなたの味方だよ。秘密も守るから、大丈夫。」美沙のその言葉は、真一にとってどれほど心強かったか計り知れなかった。今まで孤独だった自分に、ついに理解者が現れた。真一はその瞬間、感情がこみ上げてきて、涙をこらえるのがやっとだった。

「ありがとう、ほんとうにありがとう。」真一は心の中で何度も呟いた。涙が目に浮かんだが、初めて誰かに心から救われた気がした。その温かな言葉と、二人の真摯な表情が、彼の胸を熱くした。まだ何も解決していない、どんなに厳しい状況が続いても、少なくとも今は、自分の中で一番重荷に感じていた孤独感が消えたような気がした。

その後も、美沙と彩音は変わらず真一を支えてくれた。休み時間になると、必ず声をかけてくれるようになり、彼の心の中に少しずつ明かりが灯っていった。由香や他の女子たちの冷たい視線は依然として続いていたが、美沙と彩音がそばにいることで、真一は一歩一歩強くなっていった。彼は今、ただ耐え続けるだけではなく、少しずつその苦しみを乗り越える力を得ていた。

そして、最も重要なのは、真一が自分の秘密を誰かに打ち明けることで、初めて本当の意味で「自分」を取り戻したことだった。以前は男であることを隠さなくてはならない恐怖に囚われていたが、今は二人の友人がいるという安心感が彼を支えてくれていた。

――続く――

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