
運命の再会①
あらすじ
海斗と琴音は、幼少期から共に過ごしてきた深い絆で結ばれた兄妹だった。しかし、家族を襲った悲劇によって、その絆は試練を迎える。父親が経営していた小さな会社の倒産、母親の病気の悪化と重なる中で、海斗は家族を支えるため、養子に出されることとなる。琴音はその決断を受け入れられず、兄を失う恐怖と悲しみを抱えながらも、海斗との再会を信じて待ち続ける。海斗もまた、琴音を忘れることなく、再会を誓う。しかし、時間が経つにつれて二人の記憶は薄れ、心の中でそれぞれ新たな道を歩み始める。
海斗は養父母に育てられ、医師としての道を歩み始めるが、心の中には常に琴音との絆と、真の自分を見失った感覚が残る。成績は順調であっても、心の孤独感が深まり、自己疑念に苛まれ続ける。一方、琴音は地元で画家としての夢を持ちながらも、兄を失った空虚感を抱えながら静かな町で過ごしていた。彼女は絵を描きながら、海斗との再会を願い続け、その想いを絵の中に込めていた。
海斗は医師としてキャリアを積んでいく中、ある日、琴音と偶然再会することになる。琴音は健康診断を受けるため、海斗が勤務する病院に訪れ、二人はまるで運命に導かれるように再び出会う。初めはお互いに気づかないものの、どこか懐かしさを感じながらも、その正体を確信できない二人。琴音は心の中で再会を信じ、海斗もまた何かが引っかかる感覚を覚えていた。二人の間に再び芽生える絆が、次第に二人の未来を動かすことになる。
第一章: 別れの時
海斗と琴音は、物心ついたときからお互いにとって欠かせない存在だった。二人は幼少期からずっと一緒に過ごし、時には喧嘩しながらも、常にお互いの背中を支え合ってきた。海斗はおっとりとした性格で、琴音は少しお転婆だが、二人の間に言葉にできない強い絆があった。お互いの笑顔が世界の全てのように感じていた。
しかし、ある日突然、家族を襲った悲劇が二人の世界を変える。父親が経営していた小さな会社が倒産し、母親が長年患っていた病気が悪化し、医療費がかさんでいく。両親は必死に生活を立て直そうとするが、状況は悪化の一途を辿る。家を失い、生活基盤も崩れ、ついには父親が絶望的な決断を下す。
「海斗、お前は遠くの町に行って、別の家で育ててもらうんだ。」
父親は何度も頭を下げながら、涙を堪えて言った。海斗は最初、意味が分からず立ち尽くしていた。しかし、父親が言う「養子」という言葉に、次第にその理由を理解していく。家族を養うためには、もう一人の手助けが必要だった。だが、海斗は両親の決断に胸が痛んだ。それでも、父親の顔を見て、彼がどれほど苦しんでいるのかを感じ、何も言えなくなった。
琴音もまた、その知らせを受けてショックを受けた。海斗を手放すという父母の決断を、なぜ自分の兄だけが遠くへ行かなければならないのか、理解できなかった。母親は涙ながらに、「海斗を養ってくれる家があるんだ」と説明するが、琴音はその言葉が信じられなかった。
「お願い、海斗はどこにも行かないで。私たち一緒にいるんだよね?」と、琴音は必死に海斗を引き寄せて抱きしめた。しかし、海斗はその手を振り払うことができなかった。兄妹の絆は深く、どんなに辛くても、それが現実であることは否定できなかった。
夜、家族全員で食卓を囲んで最後の晩餐を共にした。その日は、何も言わずに静かに食べる時間が流れたが、誰もが胸の奥に深い痛みを抱えていた。海斗と琴音は、今まで通り一緒に寝ることを選んだが、目を閉じてもその恐ろしい現実が頭から離れなかった。
翌朝、海斗が荷物を持ち、出発の準備をしているとき、琴音は彼を見つめながら涙をこらえていた。海斗は、わずかな勇気を振り絞り、琴音に言った。
「琴音、待ってて。必ず、僕は戻ってくる。どんなことがあっても、僕たちはまた会うんだ。」
琴音はその言葉を信じたかったが、胸の中で何かが壊れていくような感覚を覚えた。それでも、彼女は静かにうなずき、「うん、待ってるよ」と答えた。
海斗が家を出るその瞬間、二人は目を合わせ、何も言わずに握手を交わした。それは約束だった。再会の日を信じて、決して忘れないという強い誓いのようなものだった。
家を離れる海斗の背中を見送る琴音は、どれほど涙を流してもその痛みが癒されることはなかった。海斗もまた、琴音のことを思いながら涙をこらえていたが、心の中で「また必ず会おう」という希望を持ち続けた。
時間が流れるごとに、家族の状況は悪化し、琴音は両親と共に日々の生活をなんとか支え続けた。だが、海斗との思い出が彼女の心の中で色あせていくことはなかった。時間が過ぎ、海斗も琴音もそれぞれの生活を歩み始め、次第に記憶が薄れていく。しかし、心のどこかに「兄」と「妹」の絆が確かに存在していた。
ここから先は
¥ 200
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?