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酒池肉林の王 〜億万長者の夢と破滅~①
あらすじ
IT業界で成功し、巨万の富を築いた三崎大輔は、**現代版「酒池肉林」**を作り上げる。東京郊外の山奥に秘密の楽園を築き、ワインの泉、高級料理、美女たちを揃え、政治家や財界の大物を招く。彼は「王」としてその頂点に君臨した。
しかし、ある夜、一人の女性がパーティーの映像をSNSに流出させたことで楽園は崩壊する。違法行為の疑惑が浮上し、警察の捜査が始まる。側近たちは次々と彼を裏切り、最愛の女・美咲までもが証言台で彼の罪を暴露した。
逮捕された三崎は、独房の小さな窓から夕日を見つめながら思う。
「俺は王になれたのか?」
答えは、虚無だった。
プロローグ:夢の始まり
「金があれば、すべてが手に入る」
三崎大輔は、これまでの人生でその言葉を何度も証明してきた。
欲しいものはすべて手に入れた。
超高層マンションの最上階。東京の夜景を見下ろすリビングで、三崎はグラスの中のウイスキーを揺らしていた。
壁一面がガラス張りになった窓の向こうには、無数のビルの灯りが広がっている。
静かな夜だった。
耳に響くのは、高級時計の秒針の音だけ。
この部屋には、大勢の客をもてなせるようにデザイナーが手掛けた広々としたダイニングスペースがある。
だが今、そのテーブルには誰も座っていなかった。
成功者の家は、時に孤独の箱になる。
彼は43歳にして、IT業界の巨万の富を築いた男だった。
20代で起業し、SNSアプリの開発で大成功を収める。
事業は急成長し、投資家たちが群がるようになった。
30歳で年収1億円を超え、35歳で会社を上場させた頃には、彼の資産はすでに数百億円に達していた。
高級車、プライベートジェット、世界各国の一流ホテルでの滞在。
あらゆる欲望を満たすための金を持ち、あらゆる場所に行き、あらゆる女を抱いた。
それでも、満たされなかった。
彼の幼少期は、貧しさに彩られていた。
小さなアパート。壁の薄い部屋の向こうから、隣人の怒鳴り声が聞こえてくる。
母は昼も夜も働き詰めで、家にいる時間はほとんどなかった。
「お母さん、今日も遅いの?」
「ごめんね、大輔。冷蔵庫におにぎりがあるからね」
母の笑顔は、いつも疲れていた。
それでも、彼にだけは優しく微笑んでいた。
そんな母を救うには、金しかなかった。
金さえあれば、母はこんなに苦しまなくて済んだ。
金さえあれば、すべてが変わるはずだった。
だから、彼は金を求め続けた。
若い頃から、友人と遊ぶ時間さえ惜しんで仕事をした。
努力は実を結び、彼は財を築いた。
だが、その母はもうこの世にいなかった。
莫大な資産を手に入れた時、彼が最初に買ったのは母のための豪邸だった。
しかし、母はその家に住むことなく、癌で亡くなった。
「お母さん、見てくれよ。俺はこんなに成功したのに」
誰に向けたものとも分からぬ独白が、広いリビングに虚しく響く。
金で買えないものがあることを、彼はとうに知っていた。
それでも、彼は信じ続けた。
「金さえあれば、まだ足りないものを埋められる」
グラスの中の氷がカラン、と音を立てた。
その時だった。
何気なくつけたテレビから、「酒池肉林」の言葉が流れてきた。
歴史の特集番組だった。
画面には、古代中国の暴君・紂王(ちゅうおう)が作り上げた宮殿の映像が映し出されていた。
酒で満たされた池、果てしなく続く肉の饗宴。
美女たちが戯れ、王の気まぐれ一つで誰もが歓喜し、また絶望する。
「究極の快楽に溺れた男の末路は——」
ナレーションがそう締めくくった時、三崎の口元がわずかに歪んだ。
「ふん……快楽に溺れた? 違うな」
彼は、薄く笑った。
「これは、人間が手にすることのできる最高の幸福だ」
心の奥底で、何かが疼いた。
酒池肉林——。
歴史上の暴君だけが享受した、究極の享楽の場。
それを、現代に甦らせたらどうなる?
三崎の胸の内で、ある野望が生まれた。
「俺が、王になる」
そう呟いた時、彼の目にはかつてないほどの光が宿っていた。
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