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カンニングバトル:裏テスト

あらすじ

センター試験を控えた健一と美咲は、それぞれの事情から試験に挑むが、実力だけでは勝てないと感じ、カンニングを駆使することを決意する。健一は、試験開始と同時に周囲に気づかれぬよう、隣の受験生と巧妙に協力し、デジタルデバイスを使って答案を交換。美咲も、事前に準備したスマートウォッチや隠しデバイスを駆使し、他の受験生と情報を交換しながら解答を盗んでいく。

しかし、試験官は次第に異常な解答パターンに気づき、調査を始める。健一と美咲は、それぞれの戦術を駆使して試験官の目を逃れながら、カンニング合戦を繰り広げるが、この勝負は単なる試験の結果以上のものに発展していく。

試験終了後、二人は合格を果たすが、カンニングによって得た「勝利」の裏には後悔が残り、社会的な影響や人間関係の変化に直面する。最終的に、二人は「真の力」こそが重要であることを悟り、成長を誓う。試験を通して、カンニングの危険性と、本当の意味での力について深い洞察を得る物語である。

第一章:異常な緊張感

センター試験当日、朝日が街を染める中、健一は駅のホームに立っていた。周囲は受験生たちで溢れ、誰もが試験という重圧を感じながらそれぞれの目的地へと向かっている。健一はその中で、どこか浮いているような気がしていた。頭の中で試験の内容を思い返すが、どうしても不安が拭いきれない。勉強してもすぐに忘れてしまい、答えに辿り着くことができない自分が情けなく感じる。試験を受ける意味がわからなくなってきていた。

「また、この時間が来てしまった…」

健一は深く息をつき、目の前を歩く人々に目を向ける。彼らの中には、真面目に参考書を広げて最後の確認をしている者もいれば、無言でスマホをチェックしながら歩く者もいる。その中で健一は、どうしても「勝たなければならない」という思いに駆られていた。試験の成績で自分の価値が決まるような気がして、何としてもこの状況を打破しなければならないという焦燥感が心を支配していた。

しかし、健一は勉強をしてこなかった自分をもう一度取り戻せるのだろうか。試験会場に着くと、それはますます強くなる不安のようなものに変わった。もはや、試験の点数を取るためではなく、何としてでも「勝つ」こと、誰よりも上手く試験という試練を乗り越えることこそが目的になっていた。

その背後に、彼の心の中ではもうひとつの戦いが繰り広げられている。試験会場では、受験生たちがさまざまな方法で勝ち上がろうとしている。健一はそれを知っていた。試験の内容を理解することが難しくても、試験に「勝つ」方法なら、いくつも思い浮かぶ。それは、あらゆる手段を使って、試験を超えてみせることだった。

一方、美咲は静かな自信を胸に、試験会場へと向かっていた。彼女の手には、計画通りに準備された参考書と、試験直前の確認ノートが収められた袋が握られている。少し緊張はしていたが、それはどちらかというと「普通の緊張」であり、健一のように焦燥感に駆られることはなかった。彼女は、目の前の試験を、あくまでも「通過点」として捉えていた。計画的に努力してきた結果が、必ず実を結ぶと信じているからこそ、無駄な不安に惑わされることはなかった。

試験会場に到着した美咲は、少しの間立ち止まり、周囲を見回した。会場の空気が何となく異様で、いつもと違う緊張感が漂っているのを感じ取った。それは試験本番への緊張ではなく、まるで試験を「超える」何かが起きそうな予感がしたからだ。

会場内に足を踏み入れると、無言のうちにカンニングを仕掛ける準備が進んでいるのがわかった。どこか違和感を感じた美咲は、その場で何かが起こりそうな予兆に警戒心を抱いた。視線を移すと、他の受験生たちが一斉に携帯電話をカバンに忍ばせていることに気づく。その瞬間、美咲の中でひとつの考えが浮かぶ。それは、まるで競技を前にした選手たちのように、周囲もまた一つの「戦場」として意識しているということだった。

健一もまた、同じようにその異常な雰囲気に気づいていた。試験の内容に向き合うべきなのに、彼の目には周囲の受験生たちの動きがやけに気になって仕方がない。隣の席の受験生がちらりと視線を向け、微妙に手元を動かしているのが見える。それは、何かを隠しているような、不自然な仕草に感じた。試験の場に来ているはずの自分が、どうしても不正行為に触れたくなっていることに、健一は驚愕する。

その時、美咲もまた同じことを思っていた。周囲が次第に不穏な空気を醸し出していることに気づくと、彼女は冷静に身の回りを見渡しながらも、一歩引いて考える。誰もが必死に「正攻法」を求めているが、その裏では、別の方法を試みる者がいることを知っていた。

試験が始まる前、教室内で一瞬の沈黙が広がり、全員が自分の席に着いたその瞬間、誰もが一つの思いを胸に抱えていた。それは、単なる「合格」ではなく、最も巧妙に試験を乗り越えた者だけが手に入れることのできる「勝利」という名の報酬だった。

健一は心の中で決意する。「これで、勝ちたい。」そして、美咲は心を無にして、静かに試験に臨む覚悟を決めた。

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