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恋のラップバトル

あらすじ

春の陽気の中、放課後の校庭で、クラスメートたちの注目を集めながらラップバトルが始まる。提案したのは、明るくおっちょこちょいなミユキ。対するは、冷徹でクールなアイリ。二人の性格は正反対で、普段はほとんど接点がないが、このラップバトルをきっかけに、互いに強く惹かれ合っていく。

アイリのラップは、恋愛を冷静に分析し、心の隙間や恐れを鋭く突く。ミユキはその言葉に反応し、自分なりの視点で恋を楽しむ重要性を力強く歌い上げる。最初はバトルの一環として始まった言葉の応酬だが、次第に二人はお互いに隠された感情や価値観を感じ取るようになる。

ラップを通じて互いの本当の気持ちに触れ、二人は恋愛に対する考え方を徐々に変えていく。アイリは自分の冷たさの裏に隠れた温かさを認め、ミユキは恋愛を恐れずに楽しむ力強さを再確認する。

バトルの終わりには、互いに新たな理解と友情を深め、これからも共に成長し続けることを誓い合う。二人は、恋愛に限らず、様々なテーマでお互いに影響を与えながら歩んでいくことを決意する。

第1章: 放課後の約束

春の風が校庭を吹き抜け、教室の窓を開け放すと、ほんのりと甘い香りが部屋を満たす。桜の花がまだ薄紅色を残しているこの季節、放課後の時間が静かに流れ始めていた。

放送室に集まったクラスメートたちの中で、ひときわ声が大きいのはミユキだった。いつものように明るく、ちょっとしたことで大笑いしている彼女は、教室に響く笑い声の中心にいた。その日も彼女は、ちょっとした悪戯心でみんなを集めていた。

「ねぇ、みんな! 面白いことしようよ!」

ミユキの言葉に、クラスメートたちは興味津々に耳を傾け、顔を見合わせる。彼女はいつも予測できないことを思いつき、みんなを驚かせるのが得意だった。

「ラップバトルしよう! アイリと!」

突然、ミユキは言い放った。その一言に、教室は一瞬の沈黙に包まれた。アイリ、という名前は、彼女のクラスメートたちにとってはあまりにも特別なものだった。アイリは、いつも冷静で、どこか遠くを見つめるような目をしている。彼女が何かに熱中している様子はあまり見たことがなく、むしろ誰もがその存在に圧倒されていた。クールで、孤高で、どこか神秘的なアイリ。

そして、ミユキはまったくその逆だ。誰とでもすぐに打ち解け、周囲に笑いをもたらす明るい存在。そのギャップこそが、クラスメートたちの間で期待と興奮を呼び起こした。

「は? ラップバトル?」
アイリは無表情のまま、冷ややかな目を向けた。しかし、その目の奥には少しだけ興味を引かれたような光が見えた。普段は無駄な時間を過ごさないアイリが、この場で手を動かすことなく無言でいるわけがないと思ったミユキは、すかさず続ける。

「うん、だってアイリ、いつもかっこいいこと言ってるし、リズムとか絶対合うでしょ? 勝負しようよ、私と!」

その言葉に、周りのクラスメートたちは一斉に笑い、拍手を送る。しかし、アイリは動じることなく、ただ無言でその場に立っていた。その冷静さが、逆にみんなの好奇心を駆り立てる。誰もが、この意外な組み合わせがどうなるのか、興味津々で見守っていた。

「別に、いいけど。」
アイリはゆっくりと口を開き、淡々と答えた。いつもの冷静さを崩さず、ただ一言だけ言って、マイクを手に取った。

ミユキはその一瞬を待っていた。アイリの意外な反応に少し驚きながらも、その心の中では嬉しさがこみ上げてきた。アイリが自分に反応した、というその事実が、少しだけ誇らしい気持ちを呼び起こしていた。

「じゃあ、やるぞー!」
ミユキは嬉しそうに笑いながら、次々と集まる仲間たちに準備を指示した。放送室のドアを開けると、すでに何人かのクラスメートが校庭に集まり始めていた。バトルが始まる場所は、放課後の静かな校庭。桜の花びらが風に舞うその場所は、まるで戦いの舞台として最適な場所だった。

アイリとミユキは、校庭の中央に立ち、無言のまま互いに向き合う。周りのクラスメートたちは、次々と集まり、わくわくした表情で二人の戦いを見守ろうとしていた。

「さぁ、始めようか、ミユキ。」
アイリはマイクを軽く握りしめ、リズムに合わせて軽く首を振る。

ミユキは自信満々に、さらに前に出てきて言った。

「おっけー、アイリ! 今のアイリの冷たい顔、ぜったいこっちの勝ち!」

そして、ラップバトルは始まった。

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