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祈りの雨、約束の虹

序章:干ばつの村

村は赤茶けた空気に包まれ、陽炎が地平線を歪めるほどの暑さが続いていた。風が吹けば、砂埃が舞い上がり、枯れた畑をさらに傷つけるだけだった。村人たちは朝早くから井戸に並び、わずかな水を分け合う生活を強いられていた。井戸の底が見え始めたとき、人々の目には恐怖と絶望が浮かび始めていた。

子どもたちの笑い声は消え、代わりに空腹を訴える泣き声が響いていた。小さな手で握られた器には、とうに乾いた土しか残っていない。母親たちは子どもたちを宥めながら、「もう少しで雨が降るから」と繰り返していたが、その声は震えていた。

村の中心に立つ祈りの広場では、若きシャーマン、**凪(なぎ)**が儀式の炎を灯していた。凪は、空へと手をかざし、祈りの言葉を紡いでいた。しかし、その声が届く先に答えはない。祈りの合間に目を開けると、彼の視界に入るのは村人たちのやつれた顔ばかりだった。

「シャーマン様、あなたの祈りでは足りないのでしょうか?」

ある村人が意を決して問いかけた。彼の声には責める気持ちはなかったものの、その目には焦りと失望が混じっていた。

凪は答えられないまま、手のひらを強く握りしめた。心の中では、祈るだけでどうにかなる状況ではないと分かっていた。しかし、シャーマンとしての立場が彼の口を閉ざしていた。「祈りだけでは何も変わらない」――その冷たい事実が彼を苦しめていた。

夜が訪れると、村はさらに静まり返った。 乾燥した大気は冷気をまとい、土から立ち上る匂いがかすかに鼻を刺した。凪は星空を見上げながら、思い出の中にある「水音」の記憶を探していた。遠い昔、この村には川が流れ、恵みの雨が大地を潤していたはずだ。その記憶を胸に抱えたまま、凪は村の古老がかつて語った話を思い出す。

「昔、この地には雨を司る精霊がいた。しかし、人間たちの欲望がその力を恐れ、精霊を封じ込めてしまった。封印された精霊は今も山奥の洞窟で眠っているという。」

古老の言葉が脳裏によみがえるたび、凪の中で抑え込んでいた衝動が大きくなっていった。

「もし精霊を解放できれば、雨が戻るかもしれない……。」

その夜、凪の中に眠っていた決意が目を覚ました。 祈りだけでは変わらないなら、自らの足で精霊に会いに行くしかない。封印の場所とされる山奥の洞窟は、村人たちから「呪われた地」として恐れられていた。誰も近づこうとしないその場所に向かうことは、自分の命を捨てる覚悟が必要だった。

しかし、凪の脳裏には、泣き叫ぶ子どもたちや、疲れ果てた村人たちの姿が浮かんでいた。彼らのために、シャーマンとして自分ができる最後の役目を果たすと心に誓う。

翌朝、凪は太陽が昇る前に旅の支度を整え、洞窟を目指してひっそりと村を出た。地平線がわずかに赤く染まり始める頃、凪は背後を振り返ることなく、砂塵舞う道を一人歩き始めた。

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