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サラリーマン、異世界で英雄になる②

第4章: 忘れられた力

慎太郎は異世界で過ごし始めてから、日々少しずつ変わっていった。初めは、魔法の力や肉体的な能力に憧れ、戦士として一人前になろうと必死に訓練を重ねていた。しかし、次第に彼は気づく。彼が今まで培ってきたもの、それは、この異世界では非常に「地味」だと思われるスキルや能力こそが、実は最も重要な武器であることに。

異世界での最初の数週間、慎太郎は魔法や戦闘の技術に関して遅れを取っていた。エリオやリリスのように、何か特別な力を持った者たちには到底及ばないと感じていた。しかし、戦いの日々が続くうちに、彼は何か他の形で役立つ道を見つけ始めた。

「慎太郎さん、今日は何を考えているの?」
ある日、リリスが尋ねた。慎太郎は仲間たちと一緒に、次の戦闘に備えて作戦を練る時間を取っていた。

「作戦?うーん、みんなが魔法で攻撃したり、力任せに戦うのが得意なのはわかっているけど、僕にはその力はない。それでも、僕にできることがあるはずだ。」
慎太郎は、今まで会社で身につけた「計画力」をふと思い出していた。忙しい仕事の中で、限られた時間をうまく使うために緻密にスケジュールを立て、効果的に仕事を進めること。それが慎太郎の得意分野だったのだ。

「みんながただ力任せに突っ込むのではなく、それぞれがどこでどんな役割を果たすべきか、状況を見ながら細かく指示を出すことが、もっと効率的だと思う。」
慎太郎はその提案をリリスに伝えると、彼女は少し驚いた様子で答えた。

「でも、この世界では力がすべてだってみんな思っている。でも、あなたの言う通りかもしれない。細かく計算し、予測し、動くことができれば…戦いを有利に進めることができるかもしれない。」

その瞬間、慎太郎は自分の直感が間違っていないと感じた。この異世界で必要とされるのは、力や魔法だけではない。しっかりとした計画を立て、それを着実に実行していく力こそが、この世界を救う鍵になる。彼が得意とする「地味な努力」が、この新たな世界での真の力となる瞬間だった。

その日の晩、慎太郎は仲間たちに向けて初めて本格的な戦略を提案した。彼の計画は、まず敵の動きを予測し、最も効果的なタイミングで攻撃を仕掛けることから始まった。細かい段取りをつけ、誰がどのタイミングで何をすべきかを一つ一つ決めていった。リリスやエリオは、その計画に不安を感じながらも、慎太郎の冷静な判断に次第に信頼を寄せるようになった。

次の戦闘が始まると、慎太郎の作戦は次々と功を奏し、仲間たちの動きも見事に調和し始めた。魔法使いたちは慎太郎の指示で適切なタイミングで攻撃を加え、戦士たちは敵の弱点を突くことができた。慎太郎が提案した方法は、力を持っている者たちの能力を最大限に活かすものであり、少しずつ戦局が有利に進展していった。

その戦闘が終わった後、エリオは驚いたように慎太郎を見つめて言った。
「お前の言う通りだったな。力に頼るだけじゃなく、戦略がこんなに重要だなんて。」

慎太郎はただ笑った。「僕が言っていた通りだろう?だって、普段から仕事で計画を立てて、うまくいかない問題を解決するために頭を使ってきたからね。」

その言葉を聞いたリリスもにっこりと笑いながら言った。
「確かに。あなたの考え方は、魔法使いとしても素晴らしい。普通のサラリーマンだったのに、まるで天才みたいね。」

慎太郎は少し照れくさそうに笑った。「天才だなんて、そんな…ただの地味な努力が、こうして役立つなんて思いもしなかったよ。」

その時、慎太郎は確信した。この異世界では、魔法や戦闘能力がすべてではない。むしろ、自分が平凡だと思っていた「地味な努力」が、逆にこの世界を救う力になるのだと。彼は今、ただのサラリーマンではなく、戦略家としても異世界の運命を変える存在になりつつあった。

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