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最後の狩人 〜文明を討つ野生の王~①
あらすじ
旧石器時代の狩人が現代に転生し、文明に汚された森を目の当たりにする。川は毒され、獣は減り、人間は自然を支配しようとしていた。
「この世界は間違っている」
狩人は森に生きる者たちと出会い、開発を阻止するために動き出す。罠を仕掛け、機械を破壊し、政府や企業と対立するうちに、彼は**「山の王」**と呼ばれるようになる。
やがて政府は彼を**「環境テロリスト」**と断定し、特殊部隊を投入。森は炎に包まれ、壮絶な戦いの末、彼は姿を消す。
彼の消滅後、開発計画は中止され、森は息を吹き返す。しかし都市では文明の限界が露呈し、人々は問い始める。
「人間は本当に、このままでいいのか?」
そして伝説は囁かれる。
「山の王は、今も森のどこかで生きている」
序章:目覚める狩人
闇の中で意識が浮上する。冷たい大地の感触が背中に染み渡り、湿った空気が鼻腔を満たした。男はゆっくりと瞼を開いた。
見慣れない光景が広がっていた。
天は漆黒に染まり、星々が瞬いている。だが、そこには見慣れぬ光が混じっていた。まるで空を裂くように一本の線が走る。光は静かに動き、次第に消えていった。男は息を呑む。――流れ星ではない。そんなものを、自分は知らない。
耳を澄ませる。夜の闇に響くのは、遠くの梟の声、風に揺れる木々のざわめき。しかし、その奥に不吉な音が混じっていた。重低音が響き、空気が振動する。まるで巨大な獣が空を裂いて飛んでいるかのような、異様な音。
男は反射的に身を伏せた。草の匂いが鼻を打ち、冷えた土の感触が手に伝わる。鼓動が早まる。狩りの最中、獲物が自分よりも大きな捕食者に気づいたときの――そんな感覚が、男の中に湧き上がった。
彼は自らの手を見つめた。指を動かし、握りしめる。そこにあるのは、まぎれもなく己の肉体。しかし、何かがおかしい。違和感があった。
記憶が流れ込んでくる。
広大な草原。仲間とともに獲物を追う日々。石槍を握りしめ、獲物の息遣いを感じ、地を蹴って走った。焚火を囲み、肉を焼き、長老の話に耳を傾けた。冷たい風の吹く洞窟の奥で、次の狩りに備えて眠りについたはずだった。
だが――
「ここは……どこだ?」
自分は確かに眠りについたはずだ。だが、目覚めた場所はまるで違う。これは、己の知る世界ではない。
男はゆっくりと立ち上がり、あたりを見回した。高くそびえる木々は見覚えがある。だが、その向こうに見える鉄の塔は、まるで意味がわからなかった。まっすぐに天へと突き立ち、頂から赤い光が瞬いている。稲妻でもないのに、一定の間隔で光る赤。
さらに遠く、谷を見下ろせる場所へ足を運ぶと、そこには信じがたい光景が広がっていた。
谷を流れるはずの川が、巨大な壁によって堰き止められている。水は異様なほど静かで、巨大な湖のように広がっていた。かつて知っていた川の姿はそこにはなく、人工の手が加えられていた。
男は息を詰まらせた。
「こんなもの……知らない」
目を凝らす。湖の端には、人工の光が灯り、小さな家のようなものが並んでいる。その周囲を、獣のような黒い影が走っていた。
いや――違う。
それは獣ではなく、異様な動きをする何か……車輪を持つ獣。人間が乗り、火を灯しながら動き回っている。
ぞくり、と男の背筋が凍った。
これは、己の世界ではない。
「何が起こった……?」
自身の名すら思い出せない。だが、ひとつだけ確かなものがあった。
身体に刻み込まれた野生の本能。狩人の感覚。どんな環境でも生き抜く術を知る者の、血の記憶。
男は深く息を吸い込んだ。空気には、見知らぬ臭いが混じっている。火の匂い、鉄の匂い、腐った水の匂い――。だが、それでも森はまだ生きていた。
彼は考えるより先に動いた。
森の奥へ。
己が何者かを知るために。
そして、この世界が何なのかを知るために。
狩人は、闇の中へと消えた。
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