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星屑の咆哮 -アストレイナーの軌跡-第1章:黎明の火種②

第3話:重力を操る力

1. 新たな戦闘の幕開け
コロニー「ネメシス」は、瓦礫と化した街区から立ち昇る煙と炎の中で、かつての平穏の面影を完全に失っていた。生存者たちは、わずかに残った安全な区域に身を寄せ、恐怖に怯えながらカイとアヤ、そして少数のレジスタンスにその命を託していた。だが、カイ自身は、自分が「守る力」として頼られていることに、かえって重い責任を感じていた。

「カイ、敵が南側のルートに回り込んでるわ。あんたが引きつけてくれなきゃ、避難ルートが完成する前にこっちまで来ちゃう!」

アヤの焦った声が通信越しに響く。

「わかった……やるよ。」

カイは冷静に答えたつもりだったが、その声にはどこか不安が混ざっていた。アストレイナーのコックピット内で、彼の手はすでに汗で湿り、操縦桿を握る力もやや弱まっていた。

敵の先頭には、リースのフォールン・ヴァイスの姿はなく、量産型のモビルスーツが整然と並び、進行してくる。その様子はまるで機械そのものの冷徹さを象徴しているようだった。

「……くそ、量産型でもこんなに動きが洗練されてるのかよ……。」

敵機が次々と隊列を組み、アストレイナーを包囲するように迫ってくる。カイはなんとか攻撃をかわしつつ応戦するものの、次第に追い詰められていく。

「これじゃ、俺ひとりじゃどうにもならない……!」

その時、AI「ルクス」の冷静な声がコックピット内に響いた。

「カイ、機体の重力場制御システムを使用する準備が整いました。」

「……重力場制御? それがどうにかなるのか?」

「アストリアム動力炉に蓄積されたエネルギーを解放することで、周囲の重力場を操作可能です。ただし、このシステムにはリスクがあります。」

「リスクって、どんな……?」

「過剰使用すれば、パイロット自身の身体に深刻な負担がかかります。また、エネルギーの放出が周囲に甚大な影響を与える可能性があります。」

カイは逡巡した。だが、遠くに避難ルートを整備するアヤたちの姿を思い出し、自分の胸に問いかけた。

「俺がここで動かなければ、みんな死ぬ……!」

「ルクス、やってくれ!」

2. 初めての「重力場制御」
カイの言葉に応じて、アストレイナーの装甲が淡い光を帯び始めた。その光は徐々に機体全体に広がり、空間そのものを歪めるかのような波動を生み出した。

「これは……!」

目に見えない「重力場」が形成され、周囲の空間が揺らめくように歪む。その瞬間、敵機が一斉に動きを止めたかのように鈍くなる。重力の波動が敵の進行を封じ込めたのだ。

「……これがアストリアムの力……!」

カイは驚愕しながらも、ルクスの指示に従い、周囲の敵機に向かって重力場を集中させる。すると、複数の敵モビルスーツが重力場に飲み込まれ、地面に叩きつけられるようにして次々と倒れていった。

「す、すごい……こんな力が……。」

だがその力は圧倒的だった。敵を一掃するたびに、カイの手足に激しい疲労感が走る。まるで重力場そのものが自分の身体にも影響を及ぼしているかのようだった。

「これが……俺の力……。」

地面に叩きつけられた敵機たち。その周囲には、まるで巨大な見えない手で押しつぶされたかのような歪みの痕跡が広がっていた。瓦礫の一つひとつが重力場の影響を受け、異様な形状に変形している。

「これが……俺のやったことなのか……?」

破壊の爪痕を前にして、カイは息を呑む。守るために使った力が、逆に新たな破壊を生んでいるという事実。その矛盾が、彼の心を深くえぐった。

3. ルクスの問いかけ
戦闘後、アストレイナーのコックピット内でカイは呆然と座っていた。敵の部隊を退け、避難は成功した。しかし、目の前に広がる破壊の爪痕が、カイの脳裏から離れなかった。

「カイ、今の戦闘で使用した重力場制御は、非常に効果的でした。」

ルクスの静かな声が響く。その言葉を聞いた瞬間、カイは拳を強く握り締めた。

「お前にとっては『効果的』かもしれないけど……俺にとっては違う……。」

「それはどういう意味ですか?」

「俺は……守りたかっただけだ。でも、誰も殺したくないのに……こんな力で破壊するしかないなんて……。」

カイの声は震えていた。

「戦争において、力を行使することは必然です。しかし、その力をどう使うかは、パイロット次第です。」

ルクスの言葉に、カイは答えられなかった。だが、その言葉が心の奥に刺さるように響いた。

4. アヤとの会話
その夜、避難民たちが身を寄せる廃墟となったドーム街区の片隅で、カイは小さな焚火を見つめていた。やがて、隣に座るアヤが口を開いた。

「カイ、ありがとうね。あんたのおかげでみんな助かったよ。」

「俺の……おかげ……?」

カイはアヤの言葉を否定するようにうつむいた。

「俺がやったのは、ただ破壊しただけだ。守ったって言えるのかどうかもわからない。」

アヤは少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しい目でカイを見つめた。

「カイ、確かにあんたは破壊もしたかもしれない。でも、それで救われた人たちがいるのも事実じゃない? 大事なのは、自分の力で誰かを守ろうって気持ちだと思う。」

「でも……俺には、まだよくわからないよ。」

「それでいいんじゃない?」

アヤは微笑みながらカイの肩を軽く叩いた。

「わからなくても、答えを探し続ければいい。戦う中で、自分の答えを見つけてよ。」

彼女の言葉に、カイはほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。

5. 次なる戦いへの決意
翌朝、カイとアヤ、そしてレジスタンスの仲間たちは、政府軍の包囲を突破する準備を進めていた。新たな目的地は、近隣の独立コロニー「アクシオン」。

アストレイナーに乗り込むカイは、自分の中で再び問いかけた。

「俺は……何のために戦うのか……。」

そして、初めてほんの少しだけその答えが見えた気がした――「守るために戦う」。

「それを見つけるために戦うのも悪くないかもしれないな……。」

カイはアストレイナーを起動し、前方を見据えた。その目には、迷いの中にわずかな決意の光が宿っていた。

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