約束
今でも覚えている。一番古い記憶は乳幼児。ようやく首がすわってきた0歳4ヶ月頃だ。私を父が喜んでタカイタカイとほうりなげる。落下してきた時に脇の下に父の親指が当たる。父は武術家だった為、これが非常にゴツゴツしており、痛くて不快だった。
その頃の私。残念ながらまだ言葉を覚えていなかった。そりゃあそうだ。生まれたてだ。その為、痛いですよ!と父に伝えることができなかったものだ。そう。つまり何が言いたいのかと言うと、私は記憶力が非常に良いのだ。えへん。
今でも覚えている小学生の約束が1つだけある。
小学生の頃になり、私も大きくなったのだが、3年生になってもお漏らしは治らなかった。また、授業を聞こうと黒板を見ている時は口を閉じる事を忘れてしまう。すると隣の席の学級委員の男子生徒のカキ山くんが必ず、
『イカちゃん、机の上がよだれでビチャビチャになっているよ』
とありがたい指摘をくれる。ありがたいが、こちとらデフォルトだ。拭くという方法を私は知っているんだぞ。
周りの皆は先生を含め、そんな私に非常に優しかったのだ。
大丈夫?って何百回言われたんだろう。
クラス対抗のドッチボール大会の決勝でクラスが負けた事がある、皆が悔し涙を流している。でも私はドッチボールが大嫌いだ。よしトーテムポールに登ってみんなを見張ろう。こんな思考の私にも、皆は非常に優しかったのだ。
なぜいじめられなかったのかの答えは、一つしかない気もするが・・・。
さて、ある日の全校朝礼で校長先生が非常に長い話をした。どうでもいいおっさんのギャグをこめてだ。
前に並んでいたリンちゃんが、いきなり後ろを振り向く。
『イカちゃん、私ね、大人になったら総理大臣になる。それでイカちゃんみたいな子を養ってあげるんだ。』
今思えば失礼な話だ。周りの小学生とは異なり、その子だけ、はっきりと言ったのだ。私は将来生きていけないから、生活の面倒を見てやると。どういう意味だ。
だが、私だって子供だったんだ。
ただただ、衝撃的だった。
なんでそんなことを私に言うんだろう?という疑問が湧き上がるも、
『そうか、リンちゃんは私が大人になったら面倒見てくれるんだ。』
と純粋に信じてしまう。
そんなワケないと思っても、リンちゃんはいつか迎えに来てくれるんだとなんとなく数十年が過ぎる。
そんなリンちゃんがウーマンオブザイヤー2015の大賞に選ばれており、思わず叫んでしまった。
『りんちゃんだ!!!』
と。そして当然ながら私の生活は彼女に保護されているわけではない。