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「タイの電柱は四角い、一方日本の電柱は丸い。」


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 「タイの電柱は四角い、一方日本の電柱は丸い。」

 長かったタイでの留学生活で学んだことは、これっぽっちである。そしてこのマガジンを通じて言いたいこともこれだけ、以上である。

 タイのバンコク、留学生として僕は暑い東南アジアにやってきた。大学2年生の後期、「熱帯水産養殖を学びたいです!」と面接官に堂々と告げたからには、マジメに勉学に励まねばならない。奨学金も貰っている。帰国後「タイで何を学びましたか?」なんて聞かれれば、何時間でも喋ってやるのだ。「これっぽっちしか学んでません」なんて事は、決してあってはならないのだ。

 「我よ、グローバル人材たれ!」と意気込み、僕は日々研究室に通っていた。

 ある日、新しく始める研究テーマが決まらず悩んでいた時、水産学部の教授に呼び出された。どうやら、悩んだ時に役立つヒントをくれるらしい。彼はまだ若いのに教授になった切れ者で、時折人生の本質を突いたような名言を言うので生徒から尊敬されていた。僕ももれなく尊敬していた。

 今回はどんな名言を授けてくれるんだろうと期待して研究室に向かうと、先生は散歩に行こうと言った。

 キャンパスは溶けるように暑かった。まるで岐阜のようだ。先生は僕を一本の電柱の前に案内した。この暑いのに電柱がどうしたというのだ。
 「何を研究したらいいのか分からないんだろ。研究だけじゃなく、何を選択すればいいか分からない瞬間は人生に何回もある。そんなときは電柱を見るといい。よく見たらこの電柱は君の国の電柱と違う。タイの電柱は四角いけど、日本は丸い。そうだろう。」

 意識したことなんてなかったけれど、確かにそうだ。タイの電柱は日本よりも細くて、短く、角ばっている。

 「この違いはアプローチ、そして選択の違いだ。"電線をつなぐ"という問題は同じでも、それを解決するために選択したアプローチが違う。なんでタイの電柱が四角いか、それはたまたまそれがタイに合っていたからだ。日本のように高い電柱は、この雷の多い国には合わないかもしれない 」

 先生は電柱にもたれながら続ける。

 「周りをよく見れば、日本とタイは違うことが山ほどある。それは全部、選択の違いだ。それはどっちが良い、悪いっていう話じゃない。だから何を選択するか悩んでるんだとしたら、違いを楽しむといい。良い選択をしよう、悪い選択を避けようなんて考えるのはもったいない。その違いを楽しめば面白いよ。選択の理由を考えれば、その国の深いところが見えてくる。」

 名言だ。これは名言だ。電柱が偉大で、非常に深いものに見えてきた。

 なんだか鳥肌が立つほど感動した僕は、帰宅するなりすぐに、この話をルームメイトの八畑に話したのだった。


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 確かに、今まで考えたこともなかったが、タイの電柱は四角い。ルームメイトの酒井からこの話を聞いて、初めてタイの電柱を見た。電柱なんてあって当たり前のもの、だからそれが円柱だろうと、四角柱だろうと、関係ない。だってここはタイ。日本ではないのだから。

 でもなぜ、タイの電柱は四角いのか。

 先生が言うように、電柱が円柱だろうと、四角柱だろうと、どちらが優れているとか、劣っているとか、そういう議論はない。四角柱だろうと、円柱だろうと、その役割は電線をつなぐことなのだから。
 おそらく日本の電柱が円柱なのは、その昔、電柱を最初に作った人が、何らかの根拠を元に、円柱を採用したからなのだろう。タイもまたそうだろう。もしかしたら、根拠すらなく、ただ偶然にそうなったのかもしれない。

 しかし一つだけ確かなことがある。先生が教えてくれた「違った方がおもしろい」ということだ。

 なぜこの違いが生まれるのだろう。この違いの背景にはどんな現実が、どんな人の想いが隠されているのだろう。そう思うことで、この世界はもっとおもしろくなる。

 そして私が思うに、これはただおもしろいだけに留まらない。「日本の電柱は本当に円柱でなければいけないのだろうか?四角では?三角では?星型では?」そう考えると、選択肢は無限にある。日本は数ある選択肢から円を選んだ。タイは数ある選択肢から四角を選んだ。しかし円でなくては、四角でなくてはダメということはないはずだ。円柱がベスト!それしかない!というわけでもなさそうだ。

 自分が当たり前だと思っていたことを疑えば、今まで見えていなかった選択肢が見えてくる。そしてその選択肢は、未来の選択肢でもある。この先もし仮に円柱の電柱が使えなくなっても恐れることはない。電柱は四角柱でも良いことをタイから学んだからだ。

 「違い」がある、それは当たり前だ。

 しかし我々は、その「違い」のほとんどを「当たり前だから」という理由でスルーしている。それを「違う!」と気づければ、世界はおもしろいだろう。それを「違う!」と気づければ、未来の選択肢は増えるだろう。

 「違う!」のマガジンは、この「違う!」という感覚の案内人になりたい。もしかすると「四角い電柱」から始まるこの試みが、何十年後の日本を創るヒントになるかもしれない。でもそんなことよりまずは、少しの発想の転換で世界を楽しむための「違う!」を一つずつ探していこう。

 「違う!」はおもしろい。

(前半の文・絵:酒井,後半の文:八畑)

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