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vol.007 天の川

今年は、台風到来が通常より遅かった。7月の台風発生数は観測史上初の0だったそうだ。私の暮らす八重山では、8月に入ってすぐに台風4号がその強い風で島々とそれを囲む海をかき混ぜていった。 

台風が八重山に接近すれば、石垣島と離島を結ぶ高速船や大型フェリーの運航は止まってしまう。離島の人々は台風が通り過ぎるまで家にこもって待つ。待つと言ってもそれぞれで、ひたすら眠る人もいれば、家仕事をする人、子供とゲームをする人、大人同士で集まり飲む人、我が家はWi-Fiが使える内はネットで映画を観たり、私は写真の編集作業をしたりもする。Wi-fiが使える内は、と書いたが台風がくれば電波が悪くなりネットが繋がらなくなったり、停電することも度々ある。 

私は今この原稿を書きながら、今年二つめの台風8号が窓の外でゴーゴーと風をまわし、ザブザブと雨を降らしているのを感じ、通り過ぎるのを待っている。台風は農作物に被害をもたらしたり、庭の木を倒したり花をちらせてしまったりもするけれど、自然界には必要な役割を持っている。海をかき混ぜ、海水の温度を下げてくれたり、雨の少ない夏にたくさんの水を運んできたりしてくれる。 

時には、風と雨で砂地に自然の作品を残していってくれることもある。数年前の台風では、その強い風でキャンギ(イヌマキ)の実を落とし、その大量の雨で実を流し、庭に鮮やかな自然の絵を描き残していった。

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その台風が来る前日の朝、穏やかな朝の光が、散ってしまうであろう庭の木の葉や花々を照らしていた。 見納めにと花の咲く庭で娘を撮影した。

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台風が通り過ぎた後は庭の大掃除が待っている。首に汗拭きタオルを巻き外にでた。湿った空気が台風が降らしていった大量の雨の存在を漂わせていた。 

案の定、前日に撮影した花々は跡形もなく散りさっていた。そして庭の西側には、濡れた砂地の上に色とりどりのキャンギ(イヌマキ)の実の道ができていた。

私は箒を壁に立てかけ、台風の粋な置き土産をしゃがみこんで見入ってしまった。それはまるで虹色の天の川のように庭を飾っていた。

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【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。


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