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vol.037 ボーイフレンド

昨年末に、久しぶりに会う友人と石垣島でランチをした時のこと。

友人「私、好きな人ができたの」

私「えっ?!」

恋愛とか、付き合うとかそんな言葉からかなり離れたところで生きている私にとっては、なんだか違う国の言葉を聞いた気分になったが、抑えきれないような溢れる笑顔で話す彼女を見ていたらなんだかこちらまで一緒に浮き浮きした気分になってしまった。

5年ほど前に前夫と別れて以来初めて恋に落ちたらしい。

私「どこで出会ったの?」

友人「マッチングアプリ」

私「えっ!」

次から次へと変化球を投げつけられている感覚だった。

私「マッチングアプリって…登録して好きなタイプの人を探してくれるサービスなのかな?」

友人「そうそう」

私「そうなんだ。で、マッチする人がいたのね」

友人「うん。運命の人って感じだよ」

私は、マッチングアプリという言葉と運命という言葉の不思議なアンバランス感を楽しみながら彼女の照れたような笑顔を眺めていた。

私「登録後はたくさんの人からアプローチがあったの?」

友人「うん、結構あったよ。沖縄島の人も居たんだけど、同じ沖縄県でも八重山の離島と知るとすぐに会えないことが理由で無理だと言われたり」

私「今の彼は、どこの人なの?」

友人「東京」

私「そっか。東京だとなかなか会えないね」

友人「うん、でも離れているからお互いに本当に会いたくて会いに行く努力をするし、離れている時間がとても長く感じて、会いに行く日を決めたら『あと何日』って毎日カウントダウンしちゃうの」

純粋に幸せそうな友人を見ていて、そうだった恋をするってこんな感じだったなと懐かしいようなくすぐったい気分になった。常に恋愛を楽しんでいるフランス人の友人にそんなことを言ったら、「君は今、恋をしていないのかい?なんて人生だ!」ってきっと嘆かれるだろう。

友人には娘がいて、私の娘の5歳ぐらい上だ。

私「Mちゃんは、どうしてる? 将来やりたい事とかあるの?」

友人「元気だよ。特にまだないみたいだけど。私はMに心から愛する人と出会って毎日幸せに暮らしてほしい。それが1番だと思うから」

私は言葉が出なかった。自分の娘のことを考える時に、誰かと出会って愛し愛されて幸せになって欲しい。なんてことをまだ1度も考えたことがなかったから。娘には、どんなシチュエーションでも1人で乗り越えられる知力と体力を育んで欲しい、と常々考えていたので、誰かと一緒に幸せになって欲しいという考えがとても新鮮に感じられた。娘には、独立した1人の人として独立した誰かと出会い幸せになって欲しいと思う。

私には、ボーイフレンドもガールフレンドもいないけれど、人を撮影する時、恋とは違うけれど同じような情熱でその都度向き合う人に自分の全てを捧げている。基本惚れっぽい性格で、すぐに人を好きになる。それも年齢や性別も関係なく。撮影する人の醸し出す空気感と一体化できるように呼吸を合わせたり、その人の仕草を注意深く観察したりする。シャッターを切るごとに、恋に落ちる瞬間とはまた別の満たされた感覚を味わっている。

いつか、「私のボーイフレンドだよ」って娘が紹介してくれる人が現れ、「そこに2人で立ってごらん、撮影するから」って言う日がくるのだろうか。私は2人を前にした時、何を感じ、どんな写真を写すのだろう。


【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。


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