vol.039 工房風花
北海道出身の中里ゆきさんは20代の頃、農業に携わる仕事をしていた。西表島との最初の出会いも、サトウキビ刈りのアルバイトで来島したことがきっかけだった。
20代後半の頃、腰を痛めたことがきっかけで、働き方について考えるようになったゆきさんは、以前から興味のあった陶芸への道を歩むため、益子にある職業訓練校へ通い、陶芸の経験を積んだ。
2年ほど経験を積んだのち、沖縄県読谷村の窯元へと弟子入りして本格的に陶芸と向き合う日々を過ごした。
5年半ほどたった頃、独立を考え始め、読谷村の窯元を後にした。地元の北海道へ戻り工房をつくる場所を探したが、良い条件とめぐり会えず思い悩んでいると、昔のサトウキビ刈りのバイト仲間に声をかけられて再び西表島へと向かった。その時、ゆきさんは改めて八重山の良さに気づき、この土地で工房を構えたいと思うようになった。
その後、移住することを決め、以前キビ刈りバイト時代にお世話になった農家さんの土地の一部を譲り受け、2019年に工房を建て「工房風花(かざはな)」として独立した。
「工房を建てた時は、大工が本職ではない親方や仲間たちが当たり前のように集まってくれて、私も手伝いながら皆んなで完成させたんです。皆んな技術もすごいんだけど、ハートがすごくて。あの時は、本当に皆んなにたくさんお世話になったから、今でも恩返しをする気持ちで、人手が足りない時は、サトウキビ刈りの助っ人に行っているんですよ」と工房の前に広がるサトウキビ畑を眺めながら話してくれた。
ゆきさんの口調は、どこかのんびりしていてマイペース。会話をしていると肩の力が抜け、心が柔らかくなっていく。焦ってもしょうがない、自分のペースで前進するしかないのだと気づかされる。
彼女の作る器は、柔らかくやさしい印象でゆきさんの雰囲気そのままな感じだ。
自然とたどり着いたこの土地、過去の全ての行動から導かれた先にあった場所。
「縁があったということでしょうね」とゆきさんはお茶を飲みながらつぶやいた。
「工房風花」
【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。