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アオタケプロジェクト 採択者紹介⑩ 田中海斗さん
アオタケプロジェクトは、青森、秋田、福島地方の若手人材を対象として起業家を発掘・育成しています。採択を終え、現在アイディアを磨き上げている採択者の姿をご紹介します今回ご紹介するのは…
田中海斗さん
八戸工業高等専門学校
電気情報工学コース4年生
VRを活用した脳卒中リハビリシステムの開発
>>アオタケプロジェクトで進められている事業内容について教えてください。
田中:現在、アオタケプロジェクトでは、「VRを用いた脳卒中リハビリシステムの開発・運用・調査」を主なテーマとして活動しています。
まず、脳卒中の患者さんについてですが、脳卒中は致死率が高い疾患ではあるものの、命を取り留めても後遺症が残ることが多いです。その代表例が「半身麻痺」で、体の半分が麻痺する状態です。このプロジェクトでは、こうした後遺症に対応するためのリハビリソフトを開発しています。
特に近年問題視されているのが「若年性脳卒中」です。これは50歳以下の方に発症する脳卒中を指します。若年層の患者さんは、高齢者と比べてリハビリによる回復の可能性が高い傾向にあります。しかし、後遺症による精神的な消耗やリハビリには根気が必要である点から、途中でリハビリを諦めてしまう人が多いのが現状です。
そこで、私たちはVR(仮想現実)を活用することで、楽しく継続しやすいリハビリを目指しています。VRは主にゲームやエンターテイメントで使われる技術ですが、これをリハビリに応用することで、ゲーム好きの若年層に親しみやすいリハビリ環境を提供できるのではと考えています。
現在の状況としては、プロダクトの開発を進めている段階です。ヒアリングについては、ほぼ完了していたため、すぐに開発に取りかかることができました。
そして、来年1月には、提案をいただいた団体の方々に、これから作る予定のプロダクトの簡易版を実際に試していただく機会を設ける予定です。
きっかけと当事者との対話から見えてきた課題
>>この事業テーマに至ったきっかけはなんですか?
田中:もともと、私はVRや3D開発に強い興味がありました。そんな中で、リハビリソフトの開発について提案をいただいたんです。正確には、私とアオタケプロジェクトのメンバーのもとに、青森県にある脳卒中当事者団体から「こうしたリハビリソフトを作ってくれませんか?」という依頼がありました。
そのお話を受けて、「ぜひやってみたい」という流れになり、私が担当することになりました。ちょうどVR開発に興味を持っていたタイミングだったこともあり、当事者団体の方々とお話ししながら構想を練る中で、「このソフトが世の中の役に立つ」という実感が湧いてきました。それが、このプロジェクトを本格的に進めるきっかけになったんです。
>>ありがとうございます。当事者の方と直接お話しされたことで、具体的な課題を見出し、そこからプロジェクトが始まったんですね。当事者の方とお話した中で感じた課題はなんですか?
田中:脳卒中リハビリにフォーカスすると、現状の問題点がいくつかあります。脳卒中を発症した場合、最初は入院しながらリハビリを行いますが、退院後は施設でのリハビリや在宅療養に移行します。その際、療法士さん(リハビリを指導する専門家)を呼んでリハビリを依頼する必要があります。ただ、この費用が非常に高額で、月に10万円以上かかることも少なくありません。
さらに、現在主流のリハビリ方法である「ミラーセラピー」にも課題があります。この方法では、体の中央に鏡を置き、麻痺していない側を動かしてその動きを鏡に映し、麻痺している側が動いているように見せて脳を錯覚させることで訓練を行います。しかし、この方法には、鏡を正確に設置する必要があるため手間がかかることや、そもそも効果が十分に得られているのか疑問視されている点があります。
主に、費用面の負担とリハビリ方法の有効性、この2つが現状の大きな課題です。
>>これまでアオタケプロジェクトで活動してきた感想を教えてください。
田中:ミーティングを通じて、PM(プロジェクトマネージャー)の方や運営の方々とのコミュニケーションを深められるサポート体制がとても助けになりました。また、多くの学びも得られたと感じています。
私は現在学生ですが、この活動を通じて社会に出た後の大人との話し方や、プレゼンテーションで他の方を納得させる方法について学ぶことができました。また、製品を作る際に、その製品をどのように紹介していくかといった手法についても多く教えていただきました。
さらに、スケジュールの管理方法やゴール設定の仕方など、多岐にわたる知識や経験を得ることができたと感じています。
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医療プロダクト開発の責任
>>現在感じている事業の課題はありますか?
田中:医療分野のプロダクトを担う以上、責任を感じます。先ほど少し触れたように、脳卒中のリハビリでは、脳に錯覚を起こさせることで訓練効果を高める方法が主流です。そのため、VR空間内でもある程度の現実味を重視しないと、脳がうまく錯覚してくれない場合があります。
そのため、クオリティをどこまで高められるかが鍵になると考えています。
プロジェクトが目指す現在のゴールと今後の展望
>>今後の展望を教えてください。
田中:アオタケプロジェクトで終了する時点での目標についてですが、現在のゴールは、表示しているような麻痺側の手の映像――つまり、麻痺しているはずの手がVR空間内ではしっかり動いているように見える――というインタラクション機能を実装することです。そして、その機能を実際に人に試してもらい、感想を得ることが目標です。
アオタケプロジェクト終了後の展望については、かなり具体的に考えています。最終的には、このプロダクトを職業訓練の要素も兼ね備えたリハビリ用ソフトとして発展させたいと考えています。
具体例としては、脳卒中患者向けにキーボードのタイピング訓練を取り入れたいと考えています。この機能は、映像を利用して脳に錯覚を起こさせるという前提に基づいており、より高品質な映像と現実に近い動きを実現することで効率的に錯覚を促し、脳を訓練しながらリハビリを進めるものです。最終的には、指先レベルまで精度を高めることで、キーボードのタイピング練習ができるプロダクトに仕上げることを目指しています。
インタビュアーによるまとめ
田中さんは、VR技術を活用した脳卒中リハビリの可能性を広げるべく、このプロジェクトに取り組んでいます。特に、脳卒中当事者団体との直接の対話を通じて、現場の声を深く理解し、その声を具体的なプロダクトに落とし込んでいることが素晴らしいと思いました。
田中さんは、このプロジェクトを通じて、技術的なスキルだけでなく、プロジェクト運営やコミュニケーション能力など、多くの学びを得たと仰っていました。「製品を通じて地域に貢献したい」という思いの実現にむけて挑戦しています。
話を聴いた人
佐々木栞
宮城大学事業構想学群2年 宮城県仙台市出身