鉄オタ 国境を越える ②タイ国鉄北線の夜行列車 ~チェンマイ行き13列車編~
夜行訪ねて4000km
2016年3月、日本から定期客車夜行が姿を消した。
最後に乗車したのは青森・札幌間の急行「はまなす」だった。
それから6年、客車夜行での旅を求め、日本から南へ4000㎞のタイへ。
今回、旅の舞台となるのはタイ国鉄北線。バンコクからタイ北部の町チェンマイへと夜汽車で向かい、またバンコクへ折り返す行程を組む。
切符は出発直前に駅で買うことを考えたが、席が空いているかどうかわからないし、何としても寝台での旅を楽しみたいので事前に予約する。
旅行会社を通してなど様々な方法があるようだが、今回は国鉄のHPから直接予約してみる。
余談だが、旅行というのは予約の時が一番楽しいかもしれない。どこから、何時にどの列車に乗るか、頭の中で妄想旅行をしながら旅程を立てていると、気付かぬうちに時計の針が進んでいる。
国鉄のサイトはどうにも評判が悪く、予約ができなかったなどトラブルが多いとの紹介が目立つ。しかし、今回使ってみたところ、英語にも対応していること、しかも座席表を見ながらの指定でが可能で、使い勝手が良いのではないかと思う。
予約確定後は、送られてくるメールに添付されている旅程表を印刷して、乗車時にそれを車掌に提示すればよい。
今回はアユタヤー観光後にチェンマイへ、またチェンマイの次にフアヒンへ向かう旅程を立て、特急13列車ならびに特急14列車を選択する。
北線の夜行特急は他にも9/10列車というものが走っている。13/14列車が古い韓国製の寝台車で3等車も併結している一方、9/10列車は中国製の新型客車を連結し、Wi-Fiや車いす対応トイレなどより快適な旅が楽しめるようだ。
ちなみに数年前までは、JR西日本から譲渡されたものも走っていたが、新型に淘汰される形で定期運用から外されたらしい。
主役は遅れて登場?
さて運命の夜がやってきた。
アユタヤ―観光を終え、はやる気持ちを抑えつつ駅へと向かう。が、電光掲示板には”Delay”の文字。駅員に尋ねてみると、約1時間遅れているらしい。
まあ急ぐ旅ではないので、駅前の屋台で一杯ひっかけることにする。食堂車が営業を休止していること、車内でのアルコールが禁止されていることを考えれば、旅立つ前の補給としてよかったのかもしれない。日が沈んでも熱気を帯びた空気に冷えたビールが美味しい。
改めて駅へと向かう。が、1時間経ってもまだ来ない。仕方がないので、ちょうど入線してきたバンコク行きのディーゼル特急を撮影する。多くの乗客からの視線を背中に受けながら”撮り鉄”する。野犬も"Japanese-tetsuota"に興味津々のようで近くで寝そべりながら視線をこちらに向けている。
チェンマイ行き13列車
定刻から遅れること約1時間20分。ついにチェンマイ行きの放送がかかる。
鋭い警笛と共にヘッドライトが近づいてくる。黄色と赤色に塗られた機関車を先頭に3等車、2等寝台、1等寝台と続く。銀と紫の客車が寝台車だ。
車掌に印刷した切符を渡していざ車内へ。今宵の宿は2等寝台車。通路を挟んで両側に2段の寝台が並ぶ。いわゆるプルマン式と呼ばれる形で、日本では寝台特急「日本海」を最後に姿を消した。
アユタヤー到着が10時を過ぎていたこともあって、カーテンが閉まっている寝台も多い。ベッドは横になるには十分な広さで小さな手荷物を置いても広さに余裕がある。背負ってきたバックパックは寝台横の手荷物スペースに置いておこう。
シャワーはついているが…
と、デッキのドアを開けて下着姿の青年が歩いてくる。
髪が濡れているのでどうやらシャワーに行ってきたようだ。さてどこにあるのか。青年が来た方へ探しに行ってみる。
銀色の扉を開けてみると、和式便所にシャワーが付いている。タイ式のハンド・ウォシュレット(タイでは紙で拭くのではなく、便器横の小さなシャワーで洗う)ではなく、しっかりシャワーヘッドが付いている。これはなかなか面白い。
またとない機会なので日本から持参したJR浴衣に着替えていざ突撃。垂れ流しのトイレということで少々臭いがきつかったが、便器をシャワーで洗い流すとましになった。(あるいは鼻が慣れただけかもしれないが)
サンダルを履いたまま上は裸になって体を洗う。
本線と言えども揺れるので注意は必要だが、半開きの窓と便器から外を眺めつつ、そして列車のジョイント音を聞きつつ入るのはなかなか楽しい。
これからは乗り鉄あらためシャワー鉄になろうかなどと考える(嘘)
思いがけず楽しい”アクティビティ”を体験した後はいよいよ寝台へ。
カーテンを閉めればそこは自分だけの空間。体を横たえると、全身に単調な揺れが伝わってくる。せっかくなら持ってきた本を読もうかとも考えたが、いつの間にか夢の世界へと誘われていた。
下段ベットで朝を迎える
起きると、列車は山岳地帯を走っているようだ。時間は午前8時前。現在地を見てみるとクンターンという駅の手前のようだ。いつの間にか10分ほどの遅れに回復している。終着チェンマイ到着まではあと1時間ほどだ。
上段がまだ寝ているので寝台は解体してくれないが、カーテンから顔を出すとスタッフがコーヒーを持ってきてくれると言う。無料かと思ったがしっかり20B(バーツ)取られる。
せっかくならと相方と連れ立って車内をうろついてみる。今回乗車したのは2等寝台で、他にも個室の1等寝台、座席の3等車が連結されている。とりあえず先頭へ。前方は3等車だが、冷房が装備されていないので、窓のみならずドアまで開け放しだ。
どこかで朝食でもとも思ったが、タイ国鉄では食堂車が営業を終了したとのこと。ただ、途中の駅から弁当や飲み物を両手に抱えた人が乗り込んでくるので心配はいらない。今朝は”つくね”のようなものを買ってみる。ラップにくるまれたタイ米と合わせて30B(バーツ)。食べ終わった頃には次は終着チェンマイだと車掌が教えに来てくれた。
アユタヤーから約11時間。タイ北部の街、チェンマイへとたどり着いた。駅舎自体は大きいが、ホームは2つと少し小さめ。反対側のホームからはバンコクへと向かうディーゼル特急が出発していった。
今日はここチェンマイで1泊。明日の夜、14列車でバンコクへ戻る。
後編へ続く