初心者のためのベンチャーデット解説ーーSiiibo証券代表 小村和輝
ここ数年、様々な金融機関・事業者が登場している「ベンチャーデット」。スタートアップの調達環境が二極化し、必ずしもすべてのスタートアップにおいて好況とは言えないなか、エクイティファイナンスと並行してデットファイナンスを組み合わせ、戦略的な資金繰りを行うことは極めて重要になっています。一方で、いざ検討するにあたっては、それらベンチャーデットをどのように活用するべきか、どのような条件に留意するべきかなどを、しっかり勉強しておくことが大切です。
初めてベンチャーデットを検討するシードスタートアップ経営者に向け、SPROUNDで勉強会を開催しました。ゲストには、スタートアップに「社債」という調達手段を提供する Siiibo証券の代表小村和輝さんをお招きしました。ベンチャーデットを学びたいというみなさん、ぜひご覧ください。
スタートアップ、ファイナンスの手法
初めまして、Siiibo証券代表取締役CEOの小村です。
スタートアップには他の企業と比べて、ファイナンスにいくつかの選択肢があります。次々に新しい手法も登場しており、ベストプラクティスも常に変わっています。
資金調達とは、貸借対照表(バランスシート)の右側における戦略のことを指し、負債(他人資本ともいう)と自己資本(株主からの調達や利益を積み上げたもの)によって構成されています。ここ数年の間でなぜ負債性調達に関心が高まっているのか、そして、資金調達手段の選択肢についてご紹介させていただきます。
負債と自己資本は手段によってグラデーショナルな性質を持ち、負債性が高いほど返済すべきリターンが一定で、負債性が低い(つまり資本性が高い)ほど、業績によってリターンが変動します。
資本領域には普通株、種類株などがあり、CB等(コンバーティブルボンド:債券の一種だが株式への転換、コンバートも可能なもの)も含まれます。負債領域では、大きく分けると、弁済順位が高く、企業が解散したり債務不履行を起こした時に最初に保全されるものと、弁済順位を劣後させたものがあります。例えば日本政策金融公庫等が提供している資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)は後者に該当し、弁済順位は一般的な借入よりも劣後します。
2022年3月頃からは、ベンチャーデットについての勉強会や登壇機会をはじめ、社債発行を検討される企業様からのお問合せも増えました。丁度米国マーケットのクラッシュのタイミングです。エクイティだけでは希薄化が大きくなってしまう、或いは資金調達額が伸びづらい環境になったことでデット調達を併せて考える必要性が認知され、特にミドルからレイターステージの企業様からのお問い合わせが増えました。シード期寄りの企業にも新しい選択肢が出てきている傾向があります。
ベンチャーデットとは
「ベンチャーデット」とは、新興企業がデット調達(借入)を行うことを指します。キッカーとも呼ばれる「新株予約権がついたもの」を狭義には指すこともありますが、純粋なデット調達も含まれます。
同じデット性調達手段である銀行融資との主な違いは、現時点での担保価値や資産よりも、将来性を評価する点です。伝統的な融資審査基準からすると、創業年数の浅いスタートアップは与信が付きづらく、積極的には融資しづらい分野です。一方、欧米ではエクイティラウンドの調達額の2〜3割の額をデットで追加調達するのが主流です。米国では、ベンチャーデットプレイヤーが、将来のエクイティ調達を返済原資と見込んで貸付したり、ステージが進めば直接金融で投資家向けに社債を発行することもあります。現時点での金利は10%〜18%程度です。
ベンチャーデットの起源は?
ベンチャーデットは、遡ること米国の商業銀行シリコンバレーバンクがスタートアップに向けて特有の融資プランを提供したことで広まりました。シリコンバレーバンクは、主にベンチャーキャピタルやベンチャーを中心とした革新的な企業に資金提供や金融サービスを提供してきました。ところが2023年、資金繰りの問題と投資の失敗が取り沙汰され、預金者の信頼を失い取り付け騒ぎが発生。結果として、資金流出が止まらず破綻に至りました。
▼シリコンバレーバンク破綻については以下の記事でも詳しくお話ししています
デット調達の種類と特徴
エクイティではなくデットで資金調達する分かりやすいメリットは、「株式持分が希薄化しない」点です。
利上げ等を機に上場マーケットが不安定になったことによって、市場では多くの投資家のリスクテイク意欲が減り、エクイティによる資金調達が難しくなる可能性があります。一方でベンチャー企業にとっては資金調達をしてRunway(成長にチャレンジできる猶予期間)を伸ばす必要があります。この需要を満たす資金提供者としてデットのプレイヤーが増えました。
デットのプレイヤーにも、複数の手法があります。
まず、一種業者(第一種金融商品取引業者)、つまり証券会社として未上場の企業様に社債によるデットファイナンスを、個人を含む投資家様に投資機会を提供しているのが弊社Siiibo証券で、現状では唯一となっています。
従来から行われている銀行融資によるものや、それに株式(新株予約権)を加えたスキームも一般的です。また、RBFやファクタリングといった別の手法等も活用され、新興業者も増えています。
「ソーシャルレンディング」と呼ばれる手法が用いられることもありますが、このご説明にあたっては、一種業者/二種業者(第一種金融商品取引業者/ 第二種金融商品取引業者)の違いについて触れておきたいと思います。
二種業者が扱っているのは「二項有価証券」で、ファンドもここに含まれます。マス層ユーザによるクラウドファンディングと同様に裏側の資金の出し手が多数の一般投資家で、創業年数が浅いスタートアップの事業を理解いただくハードルは高い傾向にあります。
「RBF(Revenue Based Financing)」は、主にSaaS企業を中心に利用されているもので将来の売上価値を売掛債権として流動化するような商品や、そこに金利を連動させた商品など、将来の企業価値向上に対してファイナンスを行うスキームです。
公庫は「劣後債、資本性ローン」も提供しており、「新株予約権型」の新興業者では、銀行資本が基となっている企業様も一定数いらっしゃいます。
デットにおいてはプレイヤーごとに特徴や得意分野があるので、資金調達を計画する際は、一社に絞らずに幅広く情報を集めて、自社のニーズに合うプレイヤーを探されると良いと思います。
社債投資とは
弊社Siiibo証券が提供している「社債」は、企業が投資家から資金を借りる際に発行される有価証券です。借りる側にとっては融資と概ね同じ借入の一種ですが、異なる部分もあります。一番の違いは、裏側にいる資金の出し手のファンディングストラテジーです。社債の場合、資金の出し手はリスクとリターンのバランスに基づいて投資判断をし、リスクマネーを提供する投資家になります。弊社Siiibo証券ではリテラシーの高い個人の投資家が多いです。一方銀行融資では、資金原資の一部は預金となり、毀損できないため、大きなリスクを取りづらい傾向にあります。
返済方法にも差があります。社債は元本一括返済が一般的で、期中は利息だけを返済します。銀行融資では元本も段階的に返済するケースが多いので、実際に期中に利用できる資金は元本一括返済と比較すると少なくなります。
社債は長く使われている伝統的なスキームなので、過去の発行実績や商品設計の事例が豊富にあります。弊社では、優待付きや業績連動型のものなど、発行企業のご相談に乗りながらニーズに合わせた商品開発を行っています。投資家様にとっても、債務不履行が起こらなければ一定のリターンを定期的に得られるシンプルな投資商品としてご利用いただいております。
ベンチャーデットのようにリスクをきちんと理解した上で資金提供を行う市場は、社債をはじめとする「直接金融」の得意分野です。資金の出し手である投資家様と、企業様とがダイレクトにつながる仕組みですね。
一方銀行融資など、資金の出し手(原資)の一部が預金といったリスクを取っていない間接金融の場合、金融機関側は分散投資や流動性の管理等でリスク分散する仕組みとなっています。資金の出し手に預金者がいる場合、構造上どうしても大きなリスクは取りづらい上、行内格付けの仕組みも複雑で厳しく、その他ベンチャーデット業者との大きな違いとなっています。
ベンチャーデットを使いこなすには
デット調達は、エクイティ調達と比較してタイミングを調整しやすい特徴があります。エクイティではバリュエーションの議論もあり短期間で複数投資家の方に意思決定をいただくことが一般的ですが、デットの場合はDDしながら適切なタイミングで発行・調達することも可能です。
好条件を引き出しやすいのは、エクイティ調達を行った直後の信用力が最も高いタイミングです。その他にも、エクイティ調達に向けて活動しているタイミングでブリッジファイナンスとして使われるケースもあります。この場合金利は高くなりますが、エクイティに対して交渉力を持つことができます。
予め備えておくことで自社のニーズに合わせて活用できる手段なので、目先のニーズが無くても、様々なデットプレイヤーと日頃からコミュニケーションを取っておき、情報を集められると良いと思います。
いかがでしたでしょうか。
後編では、小村さんとDNX高岡の対談を通じて、国内ベンチャーデットのシリコンバレーバンク破綻の影響や、その後のグローバルマーケットの変化について解説しております。ぜひ合わせてご覧ください。
Siiibo証券
(文・國分 輝歩(SPROUNDコミュニティマネージャー) / 編集・上野なつみ(DNX Ventures))