副業人材を巻き込んだ組織運営と開発人材採用|SPROUND x overflow
SPROUNDでは定期的にテーマを決めて座談会を開催中。今回は、HR Techスタートアップ企業で、副業・複業人材のマッチングプラットフォーム「Offers」を提供する株式会社overflowの代表 鈴木裕斗さんをSPROUNDにお招きし、副業人材を巻き込んだ組織運営と開発人材採用についてお話をいただきました。座談会の様子をご紹介いたします!
井無田(DNX):本日はoverflowの鈴木さんと辻さんにお越しいただきました。3年前にサービスをはじめてから、既に今、会員2万人を集めたのは本当にすごいことだと思います。コロナ禍に人を集め始め、コロナでまさに「副業」がホットになりました。そういったポイントに目をつけられたのも先見性が高いなと思います。
鈴木(overflow):会社によって人の考え方や組織、採用の考え方はさまざま。だからこの仕事やっていて飽きないし楽しくて。私はかつて、金融や仮想通貨の事業の立ち上げもやってきました。そのため私自身は、採用やHRの素人でしたが、この事業を始め、現在では500社の企業と取引をするまでに。そのそれぞれ考え方やカルチャーが違っており、全てのお客様に学ばせていただいています。本日は「副業人材を巻き込んだ組織運営と開発人材採用」についてお話しさせていただければと思います。
overflow社の7割が業務委託・さらにその半分が副業転職
鈴木:2017年創業、6期目。DNXにはシードで投資いただきました。
私自身は、2009年にサイバーエージェントに新卒入社。広告事業を担当しました。その後スマホアプリの開発を担当し3つほどサービスを立ち上げました。その後転職し、2014年iemoを共同創業しCOOを勤め、その後DeNAに子会社化。その後2018年から2020年まではエキサイト株式会社の社外取締役もやらせていただきました。
私たちは「Offers」というサービスを通じて「人材循環型社会」をつくることを掲げています。いつでもどこでも誰とでも働ける社会「人材循環型社会」の流れは、私たちがいてもいなくても勝手にそうなっていくものだと思います。ただ、それを短縮することが「Offers」のやりがいであり、10年後の当たり前を実現する組織実験をしています。
また、「フレキシブル経営」と名前をつけて、overflow自体が現在150名のうち、正社員が40名、業務委託が110名といった組織構成を取っています。創業当時から3:7程度の割合でスケールしてきています。正社員と業務委託で何が違うのか、正社員と業務委託にそれぞれ何を期待するかなどの知見を溜めています。
そのフレキシブル経営の入口が「副業転職」です。正社員のうち51%が副業から正社員化した方です。シリーズA調達した頃までは、副業からの正社員化率が90%でした。事業のペースに人材が追いつかなくなり、シリーズAからシリーズBの間でその比率が大きく変わってきました。
転職マクロトレンド
最近世の中では、人にまつわる課題やキーワードが増えています。
2018年当時は「働き方改革」くらいでしたが、現在では「多様性」「雇用の流動性」「リスキリング」「ジョブ型雇用」「DX」「AI」「リモートワーク」といった人の課題が出てきました。背景には、労働人口の減少があります。直近技術系の求人倍率はこの12月9倍から12倍に拡大し、エンジニアの採用が難しくなっています。12倍の数字の根拠は、年間1.3万人の転職希望者を12万社が取り合っていることからきています。
我々Offersが狙っているのは、12倍の転職市場を狙うのではなく、「良い会社があればor副業なら転職を考えます」という転職潜在層50万人を狙い、将来的な市場をつくりにいくことです。
こちらのグラフは、過去の論文などを読み漁って作った「人材歴史マップ」です。
法令制度も変わり、インターネットの登場で採用手法が変わるなど、過去を振り返ると採用のトレンドは大きく変わってきました。2030年以降は、「超売り手市場」に突入していきます。
これを言い換えると、働くという主権が、企業から個人に寄ってきたと言えます。そういう背景もあり、「事業成長のために人が必要」と思っているけど「人はどんどん減っていく」という状況で、人材の取り合いは活発化している。経営においてヒト・モノ・カネ全て大事ですが、とりわけヒトについて経営課題になっていくと予想されます。
副業転職がいよいよ一般的になりつつある
そんななか、エンジニアを中心に「副業転職」が一般的になりつつあります。副業転職をすることでリスクを極限まで下げていると考えられる方が増えています。面接だけではその会社のことがわからない。一方副業転職であれば、一度副業を通じて会社理解を深めてから転職をすることができます。一度この転職を経験し「今後副業しないと転職は考えたくない」という人が増えています。
また、エンジニアの副業の目的にも変化が生まれています。昔は「報酬」がずば抜けていましたが、今は①スキルアップ、②キャリアアップ、③社会貢献につながる仕事をしたい、と可能性を広げる活動に転職の目的が変わってきています。
副業転職のメリット
①カルチャーマッチと技術力の判断確度が高い
副業転職のメリットは明らかです。「カルチャーマッチの判断」と「技術力の判断」が、明確に副業を挟んでからの方が確度が高い。従来の採用では3回の面接・3時間というスタンダードは、いにしえが作り上げてきたものですが、実際に副業転職をスタンダードにしてしまった私たちは、今いわゆる従来型には戻れません。
②経済効果・ROIもよし
経済効果・ROIの観点ですと、採用単価は1/3に抑えられそうです。かつ、カルチャーフィットも抑えられているので、定着率は倍に増えている(離職率は1/2)。人的資本に対する投資の考え方でいうと、5倍くらい効率の良い投資ができていることになります。
フレキシブル経営の理念に沿った70のチェックリスト
実際に副業を受け入れていこうと取り組んでいくと、コミュニケーションの課題や情報の透明性をどこまで担保するかなど、細かい実務部分が重要になってきます。70の項目でチェックポイントをまとめています。本日はその中から参加者の方のお悩みに合わせていくつか紹介していきたいと思います。
まずは、フレキシブル経営実現のために意識するべきポイントについてアウトラインをご紹介したいと思います。従来の採用と一緒ですが、画像に記載のとおり5つのポイントがあります。従来の採用と異なるのは、「アトラクト」が業務委託期間中のアクションとなっていることです。
①受け入れ体制
順番としては、いきなり業務委託の採用から動かない方が懸命です。まずは先に業務委託を受け入れられるような組織の器を作ってから採用に動き始めた方がいいと思います。受け入れ準備をせずに、パフォームできずに終わってしまうケースも散見されます。なぜ業務委託として採用されたかミッションが不明確だと、お互い良くない方向にいってしまうことも。一度うまくいかないという体験ができてしまうと、社内で「副業はダメだ」というヒストリーが刻まれてしまいます。副業転職にはポテンシャルがあります。そのためには組織が順応していく必要があるので、きちんと受け入れ準備をすることが大切です。
では何を準備するか。まずは、「情報を管理すること」です。もちろんセキュリティは大事ですが、基本的に社員と業務委託の情報を切り分ける必要はありません。事業を進めていく上で必要なものはできるだけ開示した方がいい。むしろ開示しない情報だけ決めておけばいいと思います。出してはいけない情報は、「IR情報」「給与情報」「正社員へのオファーレター」くらいですね。
②選考フロー
あとは選考フローも変える必要があります。副業・業務委託期間中も採用期間であるという認識でいたほうがいいと思います。入社まではカジュアルに見ていただく。実際に手を動かしていただくと見極めもしやすくなります。
③オンボーディング
副業・業務委託の方にも、できるだけ正社員と同じオンボーディングを行うことをおすすめします。業務委託だからといってオンボーディングを簡易化すると、情報が足りずパフォームできないことがあります。パフォームしないということは、せっかくの選考プロセスなのに見極めることができないということになります。
④パフォーマンス
アジャイルで開発されていく場合、2週間に一度のSplint Meetingにできるだけ参加してもらいましょう。とはいえ副業の方は本業があってミーティングに参加できないケースもあると思います。そういうときは議事録や決まったタスクの共有はもちろん、定期的な1on1を上手に使うことをおすすめします。定例は参加しづらい可能性があるので、ひとりにつき最大3人の業務委託をつけてメンターになってもらっています。
また、アジャイルのなかのチケット管理で大事なのは、チケットの書き方です。「WHAT」の部分、つまりその機能が何に使われるのか、ユーザーがなんでこれが必要なのか、その価値がわからない。だからこそ、「WHY」が重要です。ユーザーが困っていること、それをどのように解決するかを伝える。すると、業務委託の方から「それならばもっとこうしたほうがいいのではないか」と提案が来るようになります。私たちの選考の中でも、「この人いいな」と思えるきっかけになる。WHYを中心にしたコミュニケーションを図っていただくと、その人の良さが発見しやすくなると思います。
Q:メンターにはどのような能力が求められますか?
A:実はメンターは、誰でもいいんです。業務委託などフレキシブルな方に対して、私たちは「マネジメントをしない」というスタンスをとっています。タスクベースの話しかしない。キャリアの話などはしないわけです。タスクの話なら誰でもできる。逆に、採用やアトラクトのために必要なタイミングを見失わないよう、質問すべきことは明確にしています。私たちの場合は転職しそうというときに「転職アラート」を上げてもらえるように、転職しそうな人のポイント・行動パターンを共有してもらい、マネジメントが出ていくようにしています。
⑤アトラクト
業務委託の方とは、1on1を定期的にやっています(1ヶ月に1〜2回で十分)。これが、アトラクトに効いてきます。業務委託は初回3ヶ月で契約することが多いと思います。採用は恋愛ともほぼ一緒で、「タイミング」がとても大事です。ジャストのタイミングを逃さない。業務委託が良いのは、3ヶ月間その人の機微をずっと見続けること。気持ちの揺れや、本業でどんなことがあったか見えると、より良い環境の提案もできるようになります。
参加者からの質問
副業・業務委託の報酬設計
ーー報酬金額は透明性を持った方がいいのでしょうか。
鈴木さん:結論としては、正社員は業務委託の方の報酬を全部見れて、その逆は見れないようにしています。正社員はパフォーマンスを四半期ごとに見ながら、最終的に時給換算せざるを得ないので、月額の報酬を時給ベースで上げていく。副次的な効果としてあるのは、正社員が自分の給料のロジックを分かっていないケースも多いと思います。業務委託の方々にどんなアウトプットに対していくら払っていくかを社員に見せることで、ビジネス感覚を養ったりROIを学ぶ機会となり、社員教育に繋がっていることもいいなと思っています。
ーー業務委託の方の報酬は月額ベースと時給ベース、どちらがよいのでしょうか。
鈴木さん:業種やパターンによって異なります。マーケティングなど記事を書く場合は記事単価で決めます。エンジニアの場合、「固定は危ない」と直感が働く時は時給にして、きちんと報告してもらうことをお勧めします。信用が担保されている時は月額にしています。時給換算が難しい場合は、たとえばCASTERに依頼した場合の報酬金額と比較して安いかどうか判断するのがいいかもしれません。ビジネスサイドは、市場に大体・比較できるものがありますね。
ーー正社員に転換する時は報酬から給与への転換をどのように考えたらいいのでしょうか。
鈴木さん:業務委託の方々は、正社員給与の120%を設定しています。転職の時の規約を見てみても、業界的にそうなっているかと思います。社会保険料を会社が代替しているのが20%程度であるのが算出根拠となっています。正社員採用するときには、それをきちんと説明しています。ここから先は各社様々だと思いますが、弊社の場合はフェアバリューが決まっているので、3ヶ月のパフォーマンスと、出したバリューからフェアバリューを明示し、金額を提示しています。
ーー業務委託の契約や報酬の見直しはどの頻度で行っていますか。
鈴木さん:プロフェッショナルな方はお金のために働いていないというのが私の感覚ですが、本人の希望があれば半年に一度見直すようにしています。逆に6ヶ月に一度と見直しのタームを設定しておくと、期待に達していない人が浮かび上がってきます。私たちは業務委託の方をプロとして扱っているので、定期的な見直しの機会があると「契約を継続しない」といったこともシビアに判断できます。
副業人材のコミット・マインドシェア
ーー副業の方の実力は、「本業が忙しくなければ」「コミットしていれば」といった条件を考慮すると判断が難しいように思います。コミットやモチベーションをどのように見れば良いのでしょうか。
鈴木さん:モチベーションの議論は基本的に「たられば」の議論なんです。私たちが決めているのは「不確実性・コントロールができないところに投資をしない」ということ。モチベーションってブラックホールだと思っていて。だから私たちは事業のために、ソースコードを1秒でも早く書くことを前提・基準にしています。ただし、それを上回るくらい魅力的な人が出てきた時は、色気を出していきますね。
一方、正社員はポテンシャルを雇用したと認識し、しっかりマネジメントをします。キャリアを描くし、キャリアに伴走するところまで経営が責任を持つ。これが正社員と業務委託(フレキシブル)の境目です。また、業務委託にはSOを出さないと決めています。
ーー副業の方の正社員化・アトラクトに重要なことがあれば教えてください。
辻さん(overflow):その方によって、働き方を求める方、丸っと任せてもらうことを求める方など、何を求めるかが異なりますね。
鈴木さん:副業市場も取り合いになっているので、より自分の事業に時間を使ってもらおうと考えると、様々な働き方の要望に対してどれだけ融通を利かせられるかもポイントになると思います。
辻さん:お忙しい方であれば、マインドシェアをどう獲得するか考えながらアトラクトすることが大事になることもあります。100%ではなく、少しでも多くのマインドを割いてもらう。
鈴木さん:マインドシェアをとるために有効なのは「大きいボールを投げる」ことです。それを望んでいない方は、そもそもパフォーマンスしないことが多い。人間は大きいボールを投げられると好奇心が沸く。人は考えている時間にその会社にのめり込み始めます。だからこそ、なにかを丸投げする。たとえば広報さんなら「広報のこと全然わからないので、戦略から考えてほしい。考えて1ヶ月後に教えてほしい」など。1ヶ月間いろんなひとにヒアリングをしたりして提案をまとめてきたりする。その間マインドシェアが取れていたのではないかと思います。
(文・上野なつみ / DNX Ventures)