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定本作業日誌 —『定本版 李箱全集』のために—〈第四十三回〉

 前回の作業日誌からだいぶ期間が空いてしまった。毎週書くとNoteが「○週間連続投稿!」と褒めてくれるのだけれど、前回何曜日に書いたか忘れてしまってから、連続記録が途絶え、モチベーションが下落した。それとほぼ同時に集中力と気力も低下。こんな言い訳をしても誰も怒らないし、給料が減るわけでもないが、自分が自分に激怒しているので一応書いておこう…
 ちょっとマシになったら改めて記事更新曜日を決めて書こうと思う。改善策がほしい。

 作業日誌は途絶えたが、定本作業は基本的に毎日行っている。できない日もある。ふわふわとした抑鬱状態がつづいているが、寝て起き上がれない症状などはなく、散歩もできている。ただし本はあまり読めず一日10頁進んだら上出来、という具合だ。
以上は、自分の近況について。


〈現在の作業〉
1931年、雑誌『朝鮮と建築』に掲載されていた《異常ナ可逆反應》のテキストデータを作成中だ。
テキストに使用されている文字フォントは、活版印刷のためIllustratorで再現することは難しかった。よって、ひらがな・カタカナ・漢字・句読点・括弧のフォントを制作した。現在は、そのフォントを採寸済みのデータに当てはめている最中である。


作成したフォントの一部


およそ650文字以上くらいあるのだろうか。正確に数えてはいないが、それらを一文字一文字配置し、文字サイズを調整していくので時間がかなりかかってしまう。フォント化したはずの漢字がない…もう一回作らないと…というミスも出てくるので、さらに時間がかかる。


左:自作《異常ナ可逆反應》専用フォント
右:Oradano-mincho-GSRR
注視してみると、「カ」「ガ」のかたちが異なっているのが確認できる


 だが、これまで使用していた「Oradano-mincho-GSRR」や「GL-築地四号」「GL-築地五号」と比較すると大きく進歩した。これらのフォントも活版印刷を元にしたフォントで、再現したと言うに足るフォントではあったが、その確率は75パーセントほど。データを見せると「すごいね」と言ってもらえたが私の目には、「別物」だった。
一文字ごとのかたちの異なりはもちろん、原文テキストにある文字の掠れや歪みなど。一度これらに気がついてしまうと、むやみに「再現できている」とは言えなかった。

〈《異常ナ可逆反應》専用フォント作成作業の手順について〉

 先述したように、全てのテキストに対してそれ専用のフォントを作成するのは現実的ではない。だが念の為、未来の自分のためにも作成手順を記しておくことにする。



①フォント作成したいテキストを撮影or画像選ぶ

 フォントを作成する元画像を選定する段階。画素数が高い方がもちろん良い。画像を選択したら、画像加工を簡単に行うとよい。画像加工は一手間だが、この作業をすっ飛ばすと余計に時間がかかる。比較してみよう。

Aが画像加工なし
Bが画像加工あり

A 画像加工なし:撮影環境や印刷状態がそのまま写っている


B 画像加工あり: モノクロのコントラスト強め


 そして実際に、透明化アプリを使って「文字のみ残す」ために文字以外を透明化する。ワンタッチで自動透明化する広範囲を認識し、その後細部を手動で透明化していく。この作業の効率は、ワンタッチで自動透明化でどれだけ正確に透明化できるかにかかっている。AとBの結果が以下の通り。

A 画像加工なし:文字の色も薄く、A画像よりも掠れた箇所が増えている
B 画像加工あり;白黒のうち白い部分は綺麗に透明化されている。残すは「細かい透明化のみ」の状態にまでもっていくことができている

 一目瞭然で、Bの画像加工ありの方が綺麗に透明化されている。細いが必須の作業なのだ。ちなみに私はIllustratorしか契約していないので、フォトショップでもっと簡単にできそうなこの作業を未だにスマートフォンで行っている。



②calligraphrを使用してのフォント作成

 透明状態になった文字をフォント作成するために、まず「calligraphr」のサイトからテンプレートを作成する。
大まかに説明すると「緑」「戯」「科」の文字をフォントにしたい場合、calligraphrで「緑」「戯」「科」を入力し、専用のテンプレートを作成する。


専用テンプレート

 この上に、透明化した文字を一つ一つ配置していく。


サイズを合わせて配置

 こうして、「calligrapher」で制作したフォントをmacに取り込んで終了。ちなみに「calligrapher」は無料版だと一度につき75文字までしか作れない。詳しい使い方は以下で確認できる。


③計測済みデータをトレースする

 原典誌面の縦横サイズにそって制作したデータが、レイヤー1。
これは、原典誌面の文字サイズや誌面サイズを再現したデータであり、もう絶対に動かしてはならないデータである。これを複製し、レイヤー1にした。

 レイヤー3は、「作成した専用フォントを乗せていく」作業場だ。以下の写真のように、文字サイズを合わせて一文字一文字配置していくのがこのレイヤーの役割だ。こうすることで、計測データを混乱させることなく、専用フォント配置による計測データの変動も最小限に減らすことができる(フォントが変わるということは寸法変動の可能性がある)。
あとはこの作業を全ての文字や図形に対して繰り返すだけだが、ものすごい集中力と体力、時間を要するため現在私は大苦戦しているというわけだ。


 〈フォント作成やトレースに関する著作権について〉
 フォント作成や、フォント作成不可能な文字や図形は、透明化して配置するかトレースして対応することにしている。すると、その元となる素材はデジタルデータや複写物に頼ることになってしまう。ここで衝突するのは著作権問題だ。図書館に通い、著作権について本を読み勉強しようとしたが、極めて限定的な使用方法なのでそれはやめて、面識のある司書さんに相談した。相談室もあるが、資料調査の能力も低く、対応が不誠実な相談員に頼るよりもこの司書さんに頼る方が断然良い。
相談した結果。

トレース使用、透明化しての使用に際して、

・デジタル化されている資料は全て韓国内で著作権が切れているため、複写もデジタルデータも自由に利用しても良い(ただし国立中央図書館所蔵という出典明記が必要)
・デジタル化されていない資料はまだ著作権が切れていないか、作業が追いついていないか。雑誌によって著作権期限が異なるためどちらなのかは不明。この場合も国立中央図書館所蔵の出典明記、加えて、出版社や雑誌名などの出典明記も必要。
・ソウル大学で確認した「原本資料」においても、ソウル大学と出版社や雑誌名などの出典明記をすればよい。

2024年3月 国立中央図書館 連続刊行物室職員に質問

 著作権に関しても、込み入った手続きはなさそうでよかった。国立中央図書館の職員さんが調査して、回答してくださったので大丈夫だと思う。


今日はここまで。次は、この作業に対する金先生の反応と意見を書いてみようと思う。


漢江を散歩したときの写真を。
ばあちゃんが好きな花が桜だったのでみにいった。

二〇二四年、四月、九日執筆、四月、一一日更新。




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