見出し画像

『あつ森』HHPL EX vol.03 思考を紡いで 伝承に耽込む(前編)

 当記事は、集森出版HappyHomeParadiseLetterハピレタ編集部の編集長である春山が、自身の作成した別荘を取材という形で紹介していく記事になっております。

 本記事は本誌14/17号に関連した内容になっていますので、詳細はTwitterの@hal3486の投稿をご確認ください。
https://twitter.com/i/events/1477232985653092358?s=21

 前回までの登場キャラクター説明

春山:集森出版HHPL編集部の編集長。愛猫の失踪を調査してもらうためにサルモンティ氏の探偵事務所を訪問したが、猫の首輪としてつけていた雫の宝石(レイナモンド)が事件の発端のようで調査に協力している。前回は情報屋兼運び屋のチーフ氏から、かねてよりレイナモンドが多くの人に狙われていた事と、その生成に関わる都市伝説のような情報を手に入れた。話の続きを聞こうとしたところでドンちゃんファミリーの魔の手がせまり、一転して追われる立場となってしまう。

サルモンティ:春山が相談に訪れた探偵事務所の主。受付も部下もいないが、相棒の忠犬ワンモンティと日々悩める人のために、多くの事件を解決に導いている。現在は春山と別行動中だが、お互いに情報交換をしつつ事件の解決に向けて動いている。真面目さゆえに調査に前のめりになってしまうのが心配なところ。

チーフ:サルモンティ氏の信頼する情報屋兼運び屋(タクシードライバー)金額や対価は十分もらうが、それに見合った働きもすることに定評がある。一見すると愛想のなさに印象は悪いが、自分の好きなことを語ったり、心を許した相手には時おり笑顔を見せることもあるとか。今回はお気に入りのガレージを取材してもらうという対価で春山に重要な情報を提供した。はたしてドンちゃんファミリーの追跡から逃げられるのか。

ワンモンティ:春山を嫌う犬。サルモンティ氏とは深い信頼関係にあって、まさに忠犬と言える。

 ありふれた修羅場

 ファミリーの追っ手から逃げ続けること数日。どのくらいの峠を過ぎ、どのくらいの街並みを抜けたのか、途中で数えるのをやめてしまった。

 チーフ氏がタクシードライバー(彼は運び屋と言い直すが)として腕が立つのは明らかで、そのおかげで多くの難所を乗り越えられたと言っても過言ではないだろう。2,3台の車にヒヤヒヤするような追跡をされても気さくなトークをやめないあたり、肝が据わっている。

 逃走する道中でチーフ氏からは、雫の宝石(レイナモンド)に関わるとされる数々の強盗事件のあらましを聞かされた。1番大きなものとしては、昔レイナモンドを所有していた富豪が宿泊したホテルで起きた強盗事件らしい。ちょうど部下が疲れ切っていたので、そのホテルで骨を休めるように指示を出したあたり有能な上司と言えるだろう。

 サルモンティ氏にはそのつど知り得た情報を留守電という形で伝えてはいるが、まだ返事は返ってこない。

私とチーフ氏の温度差はだいぶあるようだ

 運び屋と追跡者の交錯

 チーフ氏は追っ手を避けながら、以前話していた考古学者をおろした場所まで運んでくれることを約束してくれた。取材の対価としての情報には足りないだろうとの心意気のようだが、ちゃんとタクシーのメーターが回っているあたり安心はできない。

 いつになったら家に帰って、暖かい暖炉の前で愛猫を撫でる日常に戻れるか、ため息をつこうとしたところに大きな衝撃が後ろから入って変な声が出てしまった。どうやら今まで追跡してきたものとは違う、大きな車がこのタクシーに追突したらしい。

 バックミラーから覗くチーフ氏の眼光が鋭い。「ダンベルだ、厄介な奴が出てきた」とぼやくと、ギアのレバーを軽やかにあげていく。今まで比べ物にならない急激な速度上昇に椅子から体が離れない。ダンベル氏の運転も巧みで焦らされる場面もあったが、数時間におけるカーチェイスの隙間を縫って茂みへとタクシーは身を隠した。

2人のカーチェイスには二度と遭遇したくない

 秘宝への足跡

 車のエンジン音と大きな声がまだ聞こえるあたりダンベル氏は血眼になって私たちを探しているのだろう。「あんたを乗せてると気をつかっちまうからな」と後部座席の扉が開く。山に捨てられるのかと覚悟を決めたが、地面に足を下ろすとヒカリゴケがふわっと輝き、一本の道を指し示しているようにも見えた。

 「そういえばあの学者が、光の先に道があるとか言ってたな」とチーフ氏は道なき道を指差した。お礼を言おうとしたが、彼はそれを聞くことなく走り出していってしまった。窓から手を振ってくれてはいたが、メーターが回り続けていたのが懸念点ではある。そろそろ猫の心配よりも経費の心配をした方がいいかもしれない。

またチーフ氏にも会えるだろうか

 妖しげな遺跡からの誘惑

 夜明け前の薄明かりではあったが、淡く光る道は迷うことなく私を案内してくれた。鬱蒼とした森を抜けると雷雨に照らされた遺跡のような場所が見えてくる。ヒカリゴケと不気味なキノコが妖しい光でこちらを誘ってくる。近くの小屋を覗いたが、誰かが食糧を備蓄しているのみで生活感は感じられなかった。おそらくあの洞窟のような場所が遺跡の入り口なのだろうが気がひける。

森を抜けた先の妖しげな遺跡

 虹色の泉の秘密

 近くには鮮やかな泉があったが、激しい雨が振り込む中で、ときに紫色になる時もあれば、緑や赤色に変わる時もあった。虹色の泉のそばには出来合いのもので作った簡易的な椅子が備えられており、おそらくこの場所に滞在している者が泉の変化を調査していることを伺わせた。

 手前の石碑にはまだ新しい削り跡で泉の色合いの変化の傾向について記載されていた。興味本位で泉に触ってみようかと思ったが「決して触らないように」との最後の一文のおかげで命拾いをした。

淡く輝く虹色の泉

 真相へと続く洞窟

 洞窟の中からはかぼそい隙間風がすすり泣いていた。周囲のヒカリゴケやキノコの光で淡く照らされているが、それは洞窟の入り口を照らすのみで内部の闇を晴らすことはなかった。時々落ちる雷の光で不気味な雰囲気すら漂っており、侵入にはそれなりの覚悟を要するのは明らかであった。

 おそらくこの先にチーフ氏が話していた考古学者がいるのだろう。おそるおそる入り口に近づくと、隙間風だった音が突如として轟音に変わり、奥から一つ目の光がこちらに迫っていることに気がついた。不甲斐ないことに酷い叫び声をあげて後ろに倒れてしまったが、それを聞いてか、一つ目モンスターは一定の距離で止まるという優しさを見せてくれた。

完全な闇に包まれた洞窟は遺跡を隠したいのか

 私が腰を抜かして起き上がれないでいると、洞窟の奥から出てきたピロンコン氏が「ぬかるんで滑りますよね、大丈夫ですか」と私に手を差し伸べてくれた。どうやら彼は広い遺跡内をスクーターで移動しているようで、それが私には一つ目モンスターに見えたようだ。

 そんな恥ずかしい話は出来ないのでひとまずこれまでの経緯を話すと、彼は熱心に相槌を打って話を聞いてくれた。ちょうど食糧を持ってまた遺跡に籠るところだったようで、その後に遺跡内を案内してくれることになった。彼は久々に誰かと話したようで嬉しそうではあったが「私もこの数ヶ月間ずっと調査をしているんですが、まだこの遺跡と宝石の関係を解明できていないんです」と申し訳なさそうに頭を掻いた。

 この遺跡の中に雫の宝石に続く何かが隠されているのか。それはまだ分からないが、真相に向けて私は歩き続けるしかないのだ…(後編へつづく)

       文責: ハピレタ編集部 編集長 春山

本記事の著作権は集森出版にあります

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?