ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』の衣装に宿る神(乃木坂46"5期生"版を主に) #乃木坂46版セラミュー
乃木坂46"5期生"版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』の開催が告知された瞬間はもとより、キービジュが公開された時もまた大変な衝撃を受けたものである。
誰が誰役、誰と誰が一緒のチーム、という点も大事だが、今はそこじゃない。画像の細部に驚いたのだ。
「ムーンスティックを持ってる!」と。
月野うさぎ/セーラームーンをWキャストで演じる井上和ちゃんと菅原咲月ちゃんのどちらもが、しれっとムーンスティックを手にしている。
これまでの乃木坂46版セラミュでは、変身コンパクトや変身ペンこそあれどムーンスティックはオミットされていた。変な話、そこに寂しさを感じていた、という程に重視していたかというとそうでもないのだが、いざ今回その存在が見受けられたらそれがとても嬉しかった。
「ちゃんと取りこぼさず要素として含まれた」という作品ファン的な目線と、更に広げれば、特撮ヒーロー好きとしては「なりきり」ないし「おもちゃ」的な要素が見出だせれば見出だせるほど興奮するのである。
そして、そこからしばらく経ったあとで更に思った。
「2人が持ってるムーンスティックってPROPLICAじゃね?」と。
つまりはBANDAIが贈る「大人向けハイクオリティ(なりきり)玩具」のシリーズである。
2024年、このシリーズが発足してから10周年を迎え、その記念として『ムーンスティック -Brilliant Color Edition-』の発売が告知されていたのだ(PROPLICAシリーズ、セーラームーン玩具がやけに充実しているのだ)。
発売日はちょうど4月20日であり、この書いている段階(4月19日。シークカバブの日)では予約購入者の手元に届いているかいないかくらいのタイミングだが、つぶさに見れば見るほど完成度が高く、そして和ちゃんと咲月ちゃんが持ってるそれと同一品であるように思えて仕方がない。
決定的な証拠がある。今回のパンフレットだ。中々攻めたデザインであり、表紙には出演者の姿は一切なくムーンスティックのみが鎮座している。
個人的には大好きなレイアウトだが、ともかくこれで比較できる。細部を見比べると、やはりPROPLICAムーンスティックだとしか思えない。パンフレットに使われ、キービジュに使われ、そして間もなく発売されるのだ。
これもひとつの宣伝としてサンプルを使ったりしたのかな? と想像するに留まるが、公演を控えているところに商品発売を控えているというタイミングだからこそ成しえたコラボレーションである。
こうして「おもちゃ」が小道具としてセラミュの世界にも顔を出してくると、幼い頃からBANDAIに命を救われてきた身からすると非常にテンションが上がるのだ。
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さてここまでは前置きなんだけれども、こうして小道具や衣装に注目してみると、そこには幸福が潜んでいるのだ。
まず取り上げたいのが、彼女らが額に装着しているティアラである。
この↑ポストの(特に川﨑桜ちゃんの)写真でもおおむね確認できるが、もし五百城茉央ちゃんのメッセージを取っていたとしたら、4/13 16:36のアップ自撮りを見てみてほしい。そうして気づくことが出来る。
ティアラがワッペンみたいな素材してる!
カーペットのような繊維を編み込んだ質感、縁の部分の布を断ち切った感じの僅かなほつれなどが見受けられ、完全にワッペン的な素材である。つまりこのティアラ柔らかいのだ。
てっきり、アクセサリー類はすべてがプラスチックやアクリルのような硬質な素材だと思っていたので(実際イヤリングとかはそうだろうが)、驚いた。肌に張り付けるように装着することを思うと、繊維で出来ている方が負担が少なそう。なるほどよく考えられていて、よく出来てる。
歴代のセラミュでも同様だったのかは定かではないが、いつか調べてみたいところである。2018年・2019年での乃木坂46版の画像をいくつか遡ってみたが、ストーンなどの装飾が多くて判別が出来ず。セーラームーンミュージアムで衣装展示がされてたので、その時にもっとよく見とけばよかった……! あでもティアラは無かったわ……!
思えば、仮面ライダーなど特撮ヒーローの撮影に使われるスーツは、アーマー部分が一見防御力が高そうで実はウレタン製だったりする。その方が動きやすさにも繋がるし、軟性があるとむしろ壊れにくいだろう。何より軽い。通気性も固い材質と比べればずっと良い(この辺りはホビージャパンより刊行されている『特写写真集』シリーズに詳しい)。
そう考えれば、セラミュの衣装にも、あえて軟性のある素材をチョイスして衣装・小道具類が製作されているあたり、ヒーローものとしての精神が一周回って現れている、と言えなくもない。舞台上ではアクションを行うことも多いので必然性がある。
いやむしろ、コスプレに明るい人からしたら、こうした装飾品が繊維製なのは当たり前だったりするのかな……?
(知人のコスプレイヤーに聞いてみたところ、自分が使ったのは木製だったらしい。なるほど木のパターンもあるのね!)
いずれにしても、衣装・小道具類を製作された方の明確な意図が宿っていることがわかり、感服するばかりなのである。
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そしてそう、上でチラッと書いたが、これまでの乃木坂46版は衣装にしてもアクセサリー類にしても、装飾が多かったりそもそものつくりが派手だったりして、とてもゴージャスなのだ。
逆に今回の"5期生"版は非常に「削ぎ落されている」。これは単に地味というわけではないが、それについては後述する。
2018・2019年の乃木坂46版セラミュは、90年代のバンダイ版・2010年代のネルケ版と比べてもゴージャスである。スカートや襟などは生地全体のラメ(?)の輝きが凄く、リボンもなんだかメタリックだし縁がフリルで金、スカートの裾からも金色が覗いていてとても派手なのだ。2018・2019共に共通したデザインである。
スカートのパニエ?ペチコート?を重ね履きしたようなスタイルは、そもそもバンダイ版からの伝統的な手法。いやもっと言えばこうした舞台衣装としてはそうすることも多いもんだろうから、セラミュだけのアレンジですらない。
にしても5人全員が金色があしらわれているし全体がラメだしで、はっきりと「派手」であるのが乃木坂46版の特徴と言えそうである。個人的には『超力戦隊オーレンジャー』を連想する金の使い方。
(これはネルケ版4作目)
一方、今回ラメは無くなっており、キラキラ感もそれほど出ていない厚みのあるカーテンみたいな素材感。しかし実はラインストーン(?)が紋様のようにあしらわれていて、派手一本ではなく見応えにメリハリがある。そういう意味での「削ぎ落されている」なのだ。
この中西アルノちゃんの写真が正面を向いているのでわかりやすいだろう。スカートの端っこやリボンの角にストーンが貼り付けられており、紋様を描いている。
生地の(相対的な)マット感は21年・22年版のチームが着用したスーツから見受けられ、前回までの乃木坂46版から変わった点であった。こちらはそこにスパンコールを散りばめているので、細かい処理の部分が異なると言える。
(こちらの戦士たちも最高なのである……外部戦士もいるぞ……。)
21年・22年版、"5期生"版のどちらも派手さやわかりやすいキラキラ感が無く、ぺたっとつるっとした色味である。また布地がふわっとした手触りの良い感じというよりも、レザーっぽい素材のようで直線的なラインが目立つ。これらがある意味で記号的なようにも見え、総合して「アニメっぽい」印象を受ける。
これによってコスプレっぽさが増しているとも言えてしまいそうだが、装飾過多からの脱却という舵取りなのかなと個人的には思う。「アニメっぽく見えるようにしよう」といった意図でやっている、とまでは言い切れないのだ。
とはいえ、実際の印象としてゴージャスすぎずアニメ(≒イラスト)っぽく思えるのは主観とは言え事実で、それが原点回帰的に作品の環の中に還ってきているようにも思える。より「マンガ・アニメの中から飛び出してきた」感として受け取ってしまったのだ。
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そんなことを考えながら改めて今回のキービジュを振り返ってみると、気付くことがある。拡大してみて。
ジュピターとヴィーナスが、腰にチェーンベルト的なアクセサリーを付けてる…!? よく見たらマーズのおヘソあたりにも宝石がくっついてる……!!
これらは原作やアニメはもちろんのこと、今までの乃木坂46版にも過去のセラミュにも見られなかった装飾である。
そしてすぐに種を明かしてしまえば、これは2003~04年放送の実写ドラマ版で行われたアレンジの引用と思われる。以下の記事で画像を確認してみてほしい。拡大してみて。
(上のいかにも「フィルム撮影」という質感がゼロ年代すぎて大変興奮する。)
更にもうひとつ種を明かすと、既に公演を重ねているレポート等を確認する限り、今回の舞台上においてはこれらは身に着けておらず、あくまでキービジュのみの演出である(ただしマーズは付いてる!)。
推測になるが、昨2023年はドラマ版の放送開始から20周年というタイミングであり(キャスト再集合の特番が放送・現在はU-NEXTで配信されたり)、そのことを祝う意味をこっそり含めた、ファンに嬉しいイースターエッグな仕込みなのかもしれない。
今や「北川景子さんのデビュー作」として語られることの多い実写ドラマ版だが、こうしたイースターエッグによって、これもセーラームーン作品世界における一つのユニバースとして重なっている実感が得られて、なんだか幸福になれる点だ。
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ってな感じで、衣装や小道具を細かく見ていくと、いろんな発見や見い出しがあって楽しいという話でした。
ティアラがワッペンのような素材だったり、ドラマ版に準拠したアクセサリーを付けていたり、ムーンスティックがPROPLICAか否かということは、キービジュを流し見たり客席から舞台を観ただけではきっと気付くことが出来ないし、はっきり言って「当然見落とす」ようなごく小さな点である。
しかし今回、ひょんなことから「それ」に気づき、そして感動した。「知った」「気づいた」という獲得が確かにあった。
解像度が上がるわけである。「そうである」と知った上で観れば、客席から0.1以下の視力で見ても「そうだ」と細部まで認識しながら劇に入り込むことが出来る。
そして「神は細部に宿る」を実感した次第である。偶然そうなるようなものではない、その筋のプロの手による一つ一つの細かなこだわりやアイディア、あるいは策略がすべてに宿っているのだ。
TVプロデューサー・佐久間宣行さんのAD時代のエピソードがある。氏はドラマの小道具として、「サッカー部の女子マネージャーが手作りしたお弁当」を用意することを命じられた。いったん普通に作ってみたものの、あまりにもそう見えなかったので再度それらしく工夫を足して作り直したところ、その出来の良さが監督の目に止まり、お弁当がシーンの中心として使われることになった。小道具ひとつがドラマ自体に変化を及ぼしたのだ。
神は細部に宿るし、「宿す」ことが出来るのだ。そして宿ったそれは、誰かに幸福をもたらしうる。
これは『映像研に手を出すな!』にて水崎ツバメがアニメーションについて語った言葉であるが、俺はセラミュの衣装における「チェーンソーの振動」に気づいて幸福になった。細部は見れば見るほど気づけて、気づけば気づくほど幸福で埋め尽くしてくれる。
何の話か分からなくなってきたけど、要は細かい部分に注目すると楽しいし、それは必ず誰かがこだわりを持って作っている「神」なのだということでした。
この平日を乗り切ったので、やっとセラミュ観れる~。
以上。
明日飲むコーヒーを少し良いやつにしたい。良かったら↓。