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No.29 部分的睡眠剥奪条件下では、PVTはMSLTやMWTと同等に睡眠不足の影響を検出する

必要な睡眠時間は一人一人違いますし、どの程度睡眠不足に弱いのかも人によって違います。
そこを踏まえると、睡眠不足による害を研究するためには、睡眠不足の度合いを数値にして測れる検査があるに越したことはありません。

今日取り上げる論文に出てくるPVT (psychomotor vigilance test, 日本語では精神運動覚醒検査と言われることもあります)は、睡眠不足の影響を測ることを目的としペンシルバニア大学のDinges先生らによって開発された検査です。
この検査では、小さな画面に数字があらわれます。画面の数字は1ミリ秒ごとに1ずつ増えていくカウンターとなっています。ボタンを押すとそのカウンターが止まる仕組みで、被験者は数字を見たらできるだけ早くボタンを押すようにと指示されています。つまり、ボタンを押して止めた時に見える数字が被験者の反応速度です。2秒~10秒ごとのランダムな間隔でまた同じように数字の増加が始まるので、数字を確認次第ボタンを押します。これを、標準的な方法では10分間繰り返します。

私も受けたことがありますが、数字を見たらボタンを押すという単調な動作を10分間も繰り返していると、途中で集中力の切れる瞬間が訪れます。そのためうっかり数字のカウンターが回り始めたのを見逃し、反応時間がやたらと長くなってしまう時が出てきたりします。そこを挽回すべく一時的に集中力が戻ったり、また緩んでしまったり…と反応速度は10分間を通して変動します。

検査全体の結果としては、反応時間の平均値や、反応するまで0.5秒以上かかってしまった回数を見ることが多いです。
そうやって、睡眠不足から来る「ぼんやり」や「うっかり」を拾い上げるわけですね。

というわけで論文です。

"Quantifying the effects of sleep loss: relative effect sizes of the psychomotor vigilance test, multiple sleep latency test, and maintenance of wakefulness test"

https://doi.org/10.1093/sleepadvances/zpac034

これは、PVTの効果サイズを、MSLT (multiple sleep latency test 反復睡眠潜時検査)やMWT (maintenance of wakeful test, 覚醒維持検査)と比較した研究のシステマティックレビューです。

検査に使う機器さえあれば簡単にできることが売りであるPVTですが、「日中の眠気の検査としてゴールドスタンダードであるMSLT や、MSLTほどではないけどよく使われるMWT と比べれば劣るのでは?」という疑いもつきまといます。
とは言えMSLTもMWTも、ベッドのある検査室およびモニタ室や専門的な知識を持つ技師さんが実施に不可欠なので、なかなか気軽にできない検査です。これらの検査とPVTの結果にそう違いがないことをもし示せたら、睡眠不足などの睡眠の問題による影響を調べるためにはとても良いですね!

この論文で最終的に解析にまわったのは、PVTとMWTの結果を比べた11論文と、PVTとMSLTの結果を比べた13論文です。研究デザインとしては、3から6時間程度に数日間睡眠制限された状態について調べたもの、24時間~36時間の全睡眠剥奪の結果を調べたもの、アルコールやカフェイン、覚醒刺激薬、運動などの影響を見ているものなどありました。
各検査の効果を比較するために、検査の結果として出ている数値から重みづけされた効果サイズを計算しました。

結果として以下のことがわかりました(他のことも結果には書いてありますが私にとって難解だったので割愛します)。

  • 全睡眠剥奪(24時間以上まったく眠らせない)実験では、PVTよりもMSLTやMWTの感度が高かった

  • しかし、部分的な睡眠制限(たとえば、数日間毎日4時間睡眠)の条件では、PVTとMSLT、MWTの効果サイズは同等だった

というわけで、強いて言えば やはりMSLTが強いけど、PVTだって部分的な睡眠不足に対する感度は悪くないし、検査の簡単さを考えるとこちらに軍配が上がる場合だってある! という感じでした。
これを念頭においてPVTを使ったデータを読み解いていきたいものです。

とはいえPVTって、人によって検査結果の個体差が激しかったり、たぶんそれもあって正常かどうかの基準値が存在しなかったり(もしかして作った人もいるかもしれませんが、私はまだ見たことがありません)することから、病気の検査としてのわかりやすさには欠けるところがあります。おそらく今後も、主に研究用の検査として使われていくことになるでしょう。

参考文献

  1. Chaisilprungraung T, Stekl EK, Thomas CL, Blanchard ME, Hughes JD, Balkin TJ, et al. Quantifying the effects of sleep loss: relative effect sizes of the psychomotor vigilance test, multiple sleep latency test, and maintenance of wakefulness test. SLEEP Advances. 2022 Jan 1;3(1):zpac034.


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