No.5 高齢者に対しても基本的にCPAP治療は推奨される
睡眠医療に携わる方々は、睡眠時無呼吸症候群がある高齢患者さんにどこまで積極的にCPAP治療を勧めたものか、悩むことはありませんか?
そのような場合の参考となるのが、International Geriatric Sleep Medicine Task Forceによる推奨です(発表されたのが2016年と、もうあまり新しくないのがちと難点ですが)。
https://publications.ersnet.org/lookup/pmid/27471200
このタスクフォースでは、2015年3月までの12年間に出版された高齢者(65歳以上)の睡眠時無呼吸に関する論文178本を詳しく調べ、質の評価を行い、その結果をまとめています。
けっこう長大なのでCPAPの効果に関連する推奨まとめから抜粋してご紹介いたします。なお、PAPとあるのは、CPAPとbi-level PAP両方を含んだ概念としてだと思われます:
睡眠呼吸障害のある高齢者および虚弱な高齢者に対してルーチンでPAP治療を行うことは推奨される。
特に、脳卒中後かつ駆出率45%以下となる心不全を合併していない高齢者にPAP治療は推奨される。
アルツハイマー病やパーキンソン病のある睡眠呼吸障害患者でもPAPを使うことはできるので治療を検討すべきである。
睡眠呼吸障害とCOPDを合併している場合、PAPは酸素化を改善させるのでルーチンで用いるべきである。
駆出率45%未満の心不全がある患者については、現時点(この推奨が発表された2016年時点)でPAPを推奨することができない。
この推奨部分には細かく書かれてはいませんが、本文中には、PAP使用によって眠気や夜間睡眠、QOL、感情が改善するという話も記されており、そうしたメリットも期待できます。
感想
若年発症の睡眠呼吸障害の方が高齢発症よりも予後がよくないという話もありますし、働き盛りの年代で発症する睡眠時無呼吸については積極的に治療しなくてはという気構えで私は診療に取り組んできました。
一方で高齢者の場合はどこまで治療が必要なのだろう、医療費や本人および周囲の手間暇をかけてまでCPAPを着けるほどの理由があるのだろうか…?という迷いをどこかで感じてもいました。けれども、今回ご紹介したような話を知ってからは、迷いが減りました。
超高齢者でご本人が嫌がっていたりあまりCPAPを着けられないような場合にゴリ押しするものでもないとは今も思っていますが、はっきりと睡眠時無呼吸があり、ご本人の既往歴や症状からCPAPを使うことによるメリットが考えられる場合は積極的にお勧めするようにしています。
参考文献
Netzer NC, Ancoli-Israel S, Bliwise DL, Fulda S, Roffe C, Almeida F, et al. Principles of practice parameters for the treatment of sleep disordered breathing in the elderly and frail elderly: the consensus of the International Geriatric Sleep Medicine Task Force. Eur Respir J. 2016 Oct;48(4):992–1018.