No.25 睡眠時無呼吸症候群は、女性の方が診断や治療に結びつきにくい
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、成人だと男性に多い病気です。
定義や検査方法によって有病率はだいぶ変わってきますが、
いろいろな研究結果をまとめている「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」には以下のようなステートメントが出ています。
実際に私が診療している現場でも、SASの人は確かにそのくらい、女性が男性の半分強くらいの男女比か、もうちょっと男性が多いかなという感覚です。
ところが最近、これまでと全く違う病院のSAS外来を見る機会があったのですが、なぜか女性の患者さんが非常に少ない。なんでかな、と考えました。そこが男性の先生がメインの外来だったから? 睡眠障害全般を診る外来だと女性も抵抗なく受診するけれど、SAS専門だとなんとなく女性にとって受診しにくくなる? これまで私が診療してきた病院だと健診でひっかかった人を受け入れていたから男女差が少なかった?
ちょうど私の外来を訪問してきたCPAP業者さんにそんな話をすると、「女性の患者さんは、CPAPのマスクに対する抵抗感を表に出す人が多い」と言われ、単に受診のハードルが高いだけでなく治療のハードルも高い可能性があるのかなあ…となりました。
そんなところから、女性の方がSASの受診率や治療率が低いという論文も確かあったような…と気になって探してみたところ、見つけました。
"Women with symptoms of sleep-disordered breathing are less likely to be diagnosed and treated for sleep apnea than men"
https://doi.org/10.1016/j.sleep.2017.02.032
ヨーロッパ北部の5か国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランド、エストニア)7施設が地域住民に対して実施した質問票調査の結果集計です。
この論文では、1999-2001年のベースライン調査と2010-2012年のフォローアップ調査の両方を受けた人を解析対象としています。なお、ベースライン調査以前に睡眠時無呼吸症候群の診断を受けている人は対象から除外されました。
対象者は男性4962名、女性5892名、合計10854名でした。その中から、大きないびきを週3回以上、かつ日中に眠くなることが週に3回以上ある人を「睡眠呼吸障害(注:この場合はSASと同じ概念だと思われるので、以下SASと書きます)の症状がある」と定義しています。
SASの症状のある人は男性の7.3%、女性の4.5%にいました。女性の有病率が男性の半分強という、これまでの話と一致しますね。
ところがです。ベースライン時にSASの症状が認められた600人を追跡調査したところ、フォローアップの調査までに病院にて閉塞性睡眠時無呼吸があるという診断を受けた人の割合が男性で症状のあった人の25%弱、女性で症状のあった人の14%ほどと、明らかな開きがありました(グラフから読み取るしかないので正確な数字が示せずすみません)。
また、閉塞性睡眠時無呼吸の治療を受けた人も、男性有症状者の 約16%、女性有症状者の9%ほどでした。
なぜそのような開きが生じたかについての著者たちによる考察を以下にメモしておきますなお、本文中では睡眠呼吸障害という表現が主に使われていますが、ここではSASと書いています。
はっきりとした理由はわからない(と、考察の最初に書いてある)
いまだにSASが主に男性の病気と思われているため、女性はSASの症状について相談したり病院を受診したりすることが恥ずかしいのかもしれない。
女性も男性同様加齢によってSASは悪化するし、閉経するとさらに悪化するので、フォローアップ時点で女性のみSASが改善していたということはないだろう。
医療従事者もSASを男性と結びつけていて、睡眠の症状を女性にあまり聞かない傾向があるのかもしれない。
しかしながら本研究の(このnoteでは紹介しなかった部分の)結果によると、男性でも女性でも、ベースラインのSASの症状がフォローアップ時の高血圧や糖尿病発症に結びついている程度は変わらない。
という分析でした。
結局、なぜ女性でSASのある方が治療に結びつきにくいのかはっきりしたことは分かりませんでしたが、少なくともそういう傾向が遠い北欧で21世紀初めに認められたということはわかりました。日本でもそういう傾向は存在していそうな気がなんとなくします。
当たり前の話、女性でもSASの治療によって恩恵を受ける人はたくさんいるので、必要としている人たちが全員無事に医療までたどりつけるようになれば良いなと思います。
参考文献
Lindberg E, Benediktsdottir B, Franklin KA, Holm M, Johannessen A, Jögi R, et al. Women with symptoms of sleep-disordered breathing are less likely to be diagnosed and treated for sleep apnea than men. Sleep Medicine. 2017 Jul;35:17–22.