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No.9 モディオダール服用が胎児に及ぼす(かもしれない)影響の話
今回は、モダフィニル(商品名モディオダール)の妊娠・出産に対する影響について書いた記事です。
もともと、 「ブログでも作って載せたろかー」と思って書きつつ発表の時期を逃していた(ブログを立ち上げて発表するハードルが高かったともいう)ものの再利用なので、いつもよりちょっと手間がかかっており、かつ雰囲気が違います。
主な対象はモダフィニルを服用している若い女性ですが、モダフィニル服用中の方とかかわることのある医療者の方も、あまり馴染みのない内容であった場合は読んでいただければ幸いです。
はじめに:妊娠と薬について基本的な考え方
まず、このあとで記載する薬ごとの赤ちゃんに対する影響について理解していただくためにも、妊娠中、あるいは妊娠を考える方が薬を使うにあたっての一般的な考え方(過眠症の薬のことに限らない)をご紹介します。
多くの薬は、お腹の赤ちゃんにとってそこまで危険なものではありません。
お母さんが健康を保つことがお腹の赤ちゃんにとっても大切なことなので、病気や症状、おかれた状況によっては妊娠中に薬を飲むことが必要な選択となる場合もあり得ます。
薬を飲まない状態であっても、流産の自然発生率は15%、先天異常の自然発生率は2-3%と言われています。
参考にしたページ:
妊娠・授乳とくすり(くすりの適正使用協議会):一般の方向けのわかりやすい説明です。
妊娠と薬(厚生労働省):一般の方と医療者両方に向けての情報があります。
妊娠と薬(日本産婦人科医会):医師向けの説明です。
つまり、妊娠中に薬を飲むことは頭ごなしに否定されるべきものでは ありません。
ただ、お母さんが飲む薬はお腹の赤ちゃんまで届くので、薬を使うかどうか、使うとして何を使うか、慎重になった方が良いことも確かです。
モダフィニル(モディオダール)と妊娠
ところで、薬の名前は、慣れている人の多い商品名(モディオダール)の方でここまで書いてきましたが、論文などでは薬のことが一般名(モダフィニル)で書かれているため、ここからは一般名のモダフィニルと書かせていただきます。わかりにくいかと思いますがご容赦ください。
モダフィニルは、 眠気を覚ます効果がある他の薬と比べて問題となる副作用が出るリスクが低く依存性も少ないことから、眠気のある患者さんに対してよく使われている薬です。
ただ、残念ながら妊婦さんが使うことはおすすめできません。
妊娠初期にモダフィニル使用した影響を扱った研究は、2019年から2020年にかけて相次いで3つ発表されました。その結果は、モダフィニルが赤ちゃんの大きな先天異常(心臓病など)を起こしやすいようだとする研究とそういう証拠はないとする研究とで分かれています。
それぞれの詳しい内容を知りたい方は、下のボックスをご覧ください。
「どうしたらいいの?」という部分だけ知りたい方は、ボックスは飛ばしていただいて大丈夫です。
まず、デンマークにおける国民健康保険データベースを調べた研究では、2004年から2017年の間に登録された妊娠から、妊娠期間が18週未満や催奇形性が明らかな薬剤を服用していた事例、染色体異常が見られた例などを除外した約83万件のデータが解析に使われ、そのうち49件がモダフィニルを服用しながらの妊娠でした。妊娠期間の最初の91日間にモダフィニルが処方されていたケースが、「モダフィニルに曝露された妊娠」であると定義されました。結果、モダフィニル曝露群では大きな先天異常が6件(12%)に見られ、一方でモダフィニルに曝露されていない828,644件の妊娠で大きな先天異常が見られたのは32,466件(3.9%)でした。モダフィニルに曝露された群の方で、大きな先天異常が見られた率は明らかに高かったわけです。(参考文献 1)
また、 アメリカの研究で、妊娠が成立する前後にモダフィニルもしくはアルモダフィニル(モダフィニルとよく似た性質の薬で日本では認可されていない)を服用していた女性を被験者として募ったものがあります。妊娠が分かる前、もしくは胎児の異常が分かる前に登録しかつ出生した102例中、大きな先天異常が見られたのは13例(4人に先天性斜頸、2人に尿道下裂、3人に先天性心疾患、残りについては論文に記載なし)でした。率として13%と、デンマークでの研究とほぼ同じでした。(参考文献 2)
ただし、モダフィニルが先天異常のリスクであるということを支持しない報告もあります。ノルウェーおよびスウェーデンの出生登録のデータを用いた研究では、約192万件の妊娠中、妊娠初期にモダフィニルを服用した女性は133人(0.007%)おり、そのうち3人(2.3%)の乳児に大きな先天異常が認められました。モダフィニルを服用しなかった妊婦における大きな先天異常の発生率は2.1%であり、大きな差はないようでした。とはいえ、この論文を書いた研究者たちは、この研究での解析結果からは統計学的に、モダフィニルを服用した妊娠で大きな先天異常が実際のところは増えるという可能性は残っていると述べています。(参考文献 3)
妊婦さんはモダフィニルを服用しない方が良い
上の研究結果を見ると、モダフィニルが赤ちゃんに害をなす可能性は否定できません。私としては、妊娠初期の妊婦さんは、できるだけモダフィニルの服用を避けた方が良いと考えています。できれば、妊娠を計画した段階でモダフィニルを中止することが最善です。
なお、イギリスの政府機関や、世界的に有名なアメリカのマサチューセッツ総合病院からの情報発信でも、妊娠中にモダフィニルを控えるようにと呼び掛けています。
もっとも、患者さんが薬を飲まなければならなくなった事情や症状に一番詳しい医療者は、ふだんから診ている医師です。薬をやめるかどうかについては、ここで紹介している情報も踏まえてその医師と相談してから決めることが良いでしょう。
妊娠判明前にモダフィニルを服用してしまっていた時は、どうする?
とは言え、思いがけないことがあるのが人生です。
「妊娠がわかる前に薬を服用してしまっていた! どうしよう」
ということも当然起こりえると思います。
その場合どうするか?
妊娠が判明した時点で薬を止めましょう。あとは気にしすぎないようにしましょう。
さきほど紹介した研究で、妊娠初期にモダフィニルを服用していた妊婦さんから生まれた赤ちゃんの13%に大きな先天異常があったというデータはありましたが、裏を返せば8割以上は大きな問題なく生まれたわけです。
また、そもそも薬を飲まない人が妊娠した場合でも、先天異常が発生する確率が3%ほどあります。
仮に赤ちゃんに何か問題が生じたとしても、薬を飲んだせいだとは限りません。
それに、モダフィニルを飲まずに問題なく生活ができるなら、妊娠と関係なくとっくに薬をやめられていたはずです。
生活のために必要な薬を続けてきたのは、なんら責められるべき行為ではありません。
おまけ:妊娠と薬についての相談窓口
なお、妊娠中の薬について主治医に相談したが、主治医にもよくわからない様子だ…など、相談相手がいなくて困ってしまう場合もあるかもしれません。そんな時に頼れるかもしれない相談窓口についてご紹介しておきます。
日本を代表する小児病院である国立成育医療センター内にある「妊娠と薬情報センター」 を見てみましょう。
ここのぺージによると、妊娠・授乳中の薬物治療に関して不安を持つ方からの相談に対応するため、全国47都道府県の拠点病院に「妊娠と薬外来」を設置しているということです。拠点病院のリストもあります。
ただし、病院ごと値相談できる曜日や時間帯は限られているようであり、なおかつ相談の費用はどこも自費負担となっていることにご注意ください。
参考文献
Damkier P, Broe A. First-Trimester Pregnancy Exposure to Modafinil and Risk of Congenital Malformations. JAMA. 2020 Jan 28;323(4):374.
Kaplan S, Braverman DL, Frishman I, Bartov N. Pregnancy and Fetal Outcomes Following Exposure to Modafinil and Armodafinil During Pregnancy. JAMA Intern Med. 2021 Feb 1;181(2):275.
Cesta CE, Engeland A, Karlsson P, Kieler H, Reutfors J, Furu K. Incidence of Malformations After Early Pregnancy Exposure to Modafinil in Sweden and Norway. JAMA. 2020 Sep 1;324(9):895.