見出し画像

No.10 睡眠覚醒相後退だけなら学生生活への悪影響は小さいが、そこに睡眠不足が重なると一気に状況は悪くなる

本日ピックアップした論文は、日本の大学生において睡眠の問題が学生生活に及ぼす影響を調査したものです。

睡眠の状態が悪いことが学生生活に悪影響を及ぼすというのは患者さんを診ているとひしひしと感じることですし、おそらく一般的な肌感覚としても異議を唱える人は少ない部分ではないとは思うのですが、「何が」「どう」悪影響を及ぼすのか、はっきりとデータに示してもらうと問題認識と対策がやりやすくなりますね!

"Impact of sleep problems on daytime function in school life: a cross-sectional study involving Japanese university students”

方法

この研究では、共同研究者の先生方がそれぞれの所属する大学で質問紙による調査を実施したということです。調査した学部の内訳として看護学が4つ、医療技術が2つ、小児の発達と教育(教育系の学部でしょうか?)が1つ、科学が1つということでした。1つを除いて全てが関東にある大学でした。

質問票としては、以下のものを用いたということです。

睡眠評価のための質問

  • この研究のために作られた質問紙(授業の開始と終了時刻や一人暮らしかどうか、通学時間、部活やアルバイト、運動習慣、飲酒や喫煙習慣、健康状態やストレス、睡眠薬の使用、睡眠時間平日休日それぞれの起床時刻昼寝、パラソムニア症状について尋ねている)

  • エプワース眠気尺度(自覚的な眠気を測る)

  • 朝型夜型質問票(朝型か夜型か、はたまた中間型かを測る)

  • アテネ不眠尺度

学校生活評価のための質問

  • 欠席や遅刻、授業中の居眠り、それらが成績に影響しているかどうかについて

結果

回答した学生は全部で1034人でした(平均年齢19.7歳、男性21.8%)。

本題の解析結果を見る前に、質問票の単純集計を眺めるだけでもなかなか興味深かったです。

通学時間は平均59.6分…大変だなあと、大学時代の通学時間が10分でそれでも疲れ切っていた人間としては思いました。
平日の平均睡眠時間は5.9時間で、週末は8.0時間…。週末にとる睡眠時間が平日の睡眠時間より2時間以上多いと平日に睡眠不足であるというのが一つの考えでして、それにのっとるとこの集団は平均的に睡眠不足ですね(もっとも、私も自分が大学生の頃のことを思い出すとそんなものではあった気がします)。
クロノタイプが夜型の人は16.2%と、若い人の集団と言えど極端に多いわけではないですね。
で、病的な眠気のカットオフ値とされる11点以上が全体の56.1%ですか…やはり睡眠不足だよ皆さん。

とは言え、質問票の回答から行動誘発性睡眠不足症候群(behaviorally induced insufficient sleep syndrome、BIISS)の基準を満たすとされた人は全体の6.6%と、パッと見の印象よりは少ないです。そして、極端な夜型とも言える睡眠覚醒相後退(delayed sleep-wake phase, DSWP)の基準を満たす人は全体の5.8%でした。不眠症の基準を満たす人は24.9%いました。

診断別に集計されなおした表を見ると、行動誘発性睡眠不足症候群の人の平均通学時間が85.4分(可能性として、通学時間が長い結果睡眠不足になりやすい?)、睡眠覚醒相後退があるの人の平均通学時間が23.2分(朝起きられないことへの対処法として大学の近くに住む選択をしている? あるいは大学の近くに住むことによって夜更かし朝寝坊になりやすい? 論文の中でも言及されているように、どちらも考えられる)と、この2群だけは通学時間がだいたい60分前後である他のグループと際立って違うことが面白かったです。
そして表をよく見ると行動誘発性睡眠不足症候群+睡眠覚醒相後退(つまり、両方持ってる)というグループも設定されていました。その人たちの通学時間は平均66.2分。夜更かしはしているけれど通学のために割と普通の時刻には起き、結果として睡眠不足となっている人々でしょうか。

で、本題は睡眠の問題による学生生活への影響の話ですよね。
不眠症の群は睡眠の問題のない群と比べて遅刻がむしろ少なく(オッズ比 0.8)、居眠りは多い(オッズ比1.6)という結果でした。
睡眠覚醒相の後退を伴っていない睡眠不足症候群では、遅刻が多く(オッズ比1.5)、学業成績に対する支障も出ていました(オッズ比1.9)

そして、睡眠不足を伴っていない睡眠覚醒相後退については、特に学生生活への睡眠問題による支障は出ていないようでした。一瞬意外に思いましたが、考えてみれば当たり前でした。睡眠覚醒相後退の人は、寝て起きる時間が人並みより後ろにずれている以外は正常です。睡眠覚醒相後退の人が眠気などの日中の症状で困るのは主に睡眠不足のせいなので、そもそも睡眠不足にならなければ、夜型であろうが生活に支障は出ない道理です。

一方で、学生生活への睡眠問題による悪影響が際立っているのは、睡眠覚醒相後退と行動誘発性睡眠不足症候群の両方の基準を満たす人々のグループでした。
この群では、欠席となるオッズ比 3.4 、遅刻をするオッズ比 2.7、授業中の居眠りのオッズ比が2.6、学業成績に悪影響が出ているオッズ比が2.6でした。
つまり、単なる睡眠不足よりも、単なる夜型よりも、睡眠不足と夜型の両方を併せ持っている人の方が学生生活への支障が大きいということが明確に示されたわけです。

感想

著者の先生方の言いたいこととは違うかもしれないんですが、これを読んでの私の最大の感想としては、「通学時間は短い方がいいんだな」ということです。
通学時間が長いと睡眠不足になりやすいのは自然の成り行きです。しかもこの論文を読んだ限りでは、たとえ睡眠覚醒相が後退している人であっても通学時間が短かい方が、学生生活への影響は出にくいように見えます(睡眠覚醒相が後退しすぎていて、通学時間が短いことで補えないほど起きる時間が遅れれば結局支障は出ることでしょうが…)。

とはいえ私自身、中学高校では片道1時間半かけて通学していたので、通学が長くならざるを得ない人の事情や気分もある程度はわかります。関東の大学を中心とした調査ということで、特に東京エリアや実家暮らしだと、大学至近に住むのもなかなか難しいことなのでしょう。

選べるものなら、自分の子どもたちが大学に通うようになる場合は、通学時間があまり長くならないよう配慮しようと思いました。

参考文献

1.Kayaba M, Matsushita T, Enomoto M, Kanai C, Katayama N, Inoue Y, et al. Impact of sleep problems on daytime function in school life: a cross-sectional study involving Japanese university students. BMC Public Health. 2020 Dec;20(1):371.




いいなと思ったら応援しよう!