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No.22 抗ヒスタミン薬のヒスタミン受容体占拠率について、記事紹介をしつつ論文を読んでみた

というわけで、前回の記事にてアレルギー性鼻炎が睡眠に及ぼす影響は大きいということを書きました。

ところで、アレルギー性鼻炎の治療にはよく抗ヒスタミン薬が使われます。近年、だいたいの人は副作用としての眠気が出にくいタイプの抗ヒスタミン薬を処方されているのですが、強い日中の眠気を訴える人でたまに、眠気が強く出るタイプの抗ヒスタミン薬を何年間も処方されている人もいます。

というわけで今回は、どういう抗ヒスタミン薬ごとのヒスタミン受容体占拠率について語りたいと…思っていたんですが…いざ検索してみると、プロのアレルギー医や耳鼻科医の先生方がすでにそのあたりの良質な解説記事を作っていらっしゃるので、私ごときの出る幕ではないと気が付きました。

そのあたりの情報を知りたい方に、「私の出る幕ではない」と思わされた記事2選をご紹介しておきます。

わかりやすい記事のご紹介

まず、ほむほむ先生(うちの子がアレルギー持ちなのもあって、日頃からフォローさせていただいています!)によるXでのツリー。ここでの引用にはヒスタミン受容体占拠率について画像が出ているポストをもってきましたが、ツリーの最初から読んでいただくのがおすすめです。

https://twitter.com/ped_allergy/status/1635522991277891585


次に、池袋ながとも耳鼻咽喉科さんによる解説記事です。語り口は優しく読みやすいですが、内容は私も勉強になるレベルで専門的です。抗ヒスタミン受容体占拠率のグラフがこの記事では日本語かつ商品名も付記されているのでわかりやすくなったことが一番のおすすめポイントです。

というわけで抗ヒスタミン薬の中にも眠くなりにくいものはあるし、眠くなりにくいからと言って効果が劣るとも限らないよ! というのは以上のような情報源から知っていただきたいところです。 

実際に論文を読んでみた

で、人様の記事をお勧めするだけで終わるのもなんなので、せっかくだから、ヒスタミン受容体占拠率の図が載ってる論文の元ネタを読んで見ることにしました。

”The clinical pharmacology of non-sedating antihistamines”

https://doi.org/10.1016/j.pharmthera.2017.04.004

2017年に出た日本発の総説です。
読みながらのメモを以下にまとめていきます。

ヒスタミンが良い物質であるという側面

  • ヒスタミンは一定の条件では食中毒を引き起こすこともあるが、薬剤として有用なこともある。ヨーロッパ諸国とイスラエルでは、急性骨髄性白血病の再発予防のためにヒスタミンが認可されている。

  • ヒスタミンを生成するアミノ酸であるヒスチジンは、魚肉に多く含まれている。

  • ヒスタミンによる大脳皮質の活性化は覚醒を維持するために重要である。従って、脳血液関門を突破する第一世代の抗ヒスタミン薬は、眠気を引き起こす。

  • アルツハイマー病の薬はヒスタミンニューロンを活性化させる。

非鎮静の抗ヒスタミン薬の開発

  • 古典的な第一世代の抗ヒスタミン薬はアレルギー症状に有効であったものの、鎮静作用も強かった。眠気やパフォーマンス低下だけでなく、口渇、尿閉、頻脈を引き起こすことも多かった。

  • そこで、第二世代の抗ヒスタミン薬が作られた。脳血液関門を通りにくく、半減期も長いものが。

  • 第二世代抗ヒスタミン薬の方が抗炎症作用が強く、臨床的な効果は第一世代と第二世代の間でほとんど変わらない

  • カルボキシル基型の第二世代抗ヒスタミン薬はH1受容体に特異性が高い。アミノ基型はH1受容体により特異性が低く、ムスカリン受容体などほかの受容体もブロックすることがある。

PETを用いて抗ヒスタミン薬の鎮静作用を評価する

  • この総説の著者らは、脳のH1受容体占拠率をPET(陽電子放出断層撮影)を用いて非侵襲的に評価する手法を開発した。この検査を用いて、健康な若い男性に抗ヒスタミン薬を投与した後の状態を評価した。

  • この実験では、フェキソフェナジンとビラスチンは全く脳血液関門を通過せず、H1受容体を占拠しなかった

  • 抗ヒスタミン薬による鎮静作用は個人差がある。この差は、遺伝子多型というよりはヒスタミン受容体占拠率や、主観的経験に対する感受性の違いで説明できるのではないか。

  • 鎮静系の抗ヒスタミン薬が睡眠誘導のため用いるのは、翌朝に持ち越すリスクがある。

臨床に非沈静抗ヒスタミン薬を用いる

  • 多くの国際的なガイドラインが、非鎮静系抗ヒスタミン薬をアレルギー疾患の第一選択としている。

  • 抗ヒスタミン薬の効果が不十分な際に、非鎮静系カルボキシル基型抗ヒスタミン薬を増量することは理にかなっている。

  • ひとりひとり薬物動態が違うので、同じ量で同じ効果が出るとは限らない

  • 小児では抗ヒスタミン薬の鎮静効果が成人よりも表れやすく、鎮静系抗ヒスタミン薬によってけいれんが誘発される子もいる。2歳未満を対象とした市販薬には抗ヒスタミン薬を入れないことが勧められている。

感想

畑違いの分野でしたが、まじめに論文を読んでみると、知識の曖昧だった部分がだいぶ整理できて面白かったです。

むかし定期的に外来見学させていただいていた皮膚科の先生が、抗ヒスタミン薬について「眠気が出にくい薬でもパフォーマンスが低下する」と言われていたことが心に残っていました。でも、影響が理論的には出ないと思われる薬も、特に最近は、少数ながらあるわけですね。

とは言え、占拠率の実験に使われた若い健康な男性たちと患者さんとで反応に差が出る可能性も考えられますし、眠気が少しでも増すと困る人に対する抗ヒスタミン薬の使用は引き続き慎重に考えようと思います。

参考文献

  1. Yanai K, Yoshikawa T, Yanai A, Nakamura T, Iida T, Leurs R, et al. The clinical pharmacology of non-sedating antihistamines. Pharmacology & Therapeutics. 2017 Oct;178:148–56.

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