No.6 眠らないのにベッドにいる時間は最小限にした方がいいという話
最近、睡眠休養感についてもっと知らなければならないと思っています。
「睡眠によって休養がとれている」という主観的なフィーリング、実はこれが睡眠と健康の関連を考える上でけっこう重要なのではないかという話になってきているためです。
私が睡眠休養感の重要性を認識したきっかけは、2023年に厚生労働省から出された「健康づくりのための睡眠ガイド2023」です。
個人的に衝撃が大きかったのは、「睡眠時間の長すぎることがなぜ健康に悪いのか」という大きな謎が、睡眠休養感というキーワードを用いれば説明可能になるかもしれないと感じられたことです。
どういうことか、説明します。
まず、大人の場合は睡眠時間7-8時間程度の人で色々な健康に関連する問題のリスクが最も低くなります。これは、このnoteをわざわざ読みに来られるような方にとってはすでに常識であろうと思います。
そして、それより短い睡眠時間は色々と健康に良くありません。誰しも睡眠不足で調子を崩したことはあるでしょうから、これは直観的に理解しやすいことですね。
睡眠の業界に入って間もない頃は、睡眠時間は長くとればとるほど良いのだろうと無邪気に信じていました、
そのため、長すぎる睡眠時間の場合にも色々な健康関連のリスクは上昇する傾向があると事実を知った時は驚きでした。さまざまな研究で繰り返し表れる傾向なので、認めないわけにもいきません。
睡眠時間と生活習慣病の関連であろうが、総死亡率であろうが、グラフを描いてみると、短い睡眠時間だけでなく長い睡眠時間でもリスクの上がることがくっきりと出てきます。一応その理由として様々な説明が考えられてはいますがどれも決定的なものではありません。そのことにずっともやもやした思いをかかえてきました。
しかも、睡眠の診療をしていると「並の人よりも長い睡眠時間をとらざるを得ない人」を診る場合がしばしばあります。長い睡眠時間と健康リスクが関連しているという疫学研究のデータが頭にあると、このような人に「あなたが満足するまで長く寝ることに何も問題はない」と言い切ることはどこまで正義なのか? と悩む場合もありました。
もっともそのような方の場合、睡眠時間を世間並にすると日中の眠気や朝の起きにくさで生活が立ち行かなくなるので、「だいたいは健康な集団のデータを解析したものが、睡眠の病気があり少数派とも言えるこの人個人にあてはまるとは限らない、この人にとっては長い睡眠が必要なんだ」と割り切るようになったわけですが。
私にとって、そのあたりの葛藤をある程度解決してくれたのが、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の指針だったのです。
「長時間の睡眠による健康リスク」については、この指針の「高齢者版」において正面から取り上げられています。
ここでは、以下のような研究結果が示されています。
高齢者は暇になるのでベッドにいる時間が増えやすいが、加齢に伴い眠れる時間は逆に減るので、「眠れないままベッドにいる時間」は年を取るごとに増える傾向がある。
高齢世代では、睡眠時間と総死亡率の関係はハッキリしないが、ベッドにいる時間が8時間以上だと死亡率は増加する。
つまり、睡眠時間の長いことそのものが悪いわけではなく、「ベッドで過ごす時間が長すぎる」ことが悪いのではないか。
米国の高齢者を対象とした調査において、ベッドにいる時間が長く、かつ睡眠休養感が欠如している場合に、ベッドにいる時間が適正な人々と比べて死亡率は著明に増加した。一方で、ベッドにいる時間が長くても睡眠休養感がとれていれば死亡率はほとんど増えない。
というわけで、「長い睡眠時間が体に悪いのは、実は眠らないで布団にいる時間が多かったり睡眠休養感が得られていない場合に限るんじゃないか、長い睡眠時間でも、睡眠休養感が得られているならばそんなに健康に悪いことが起きないのではないか」ということが言えそうであり、私としては長年の疑問が解消された気がしてスッキリした気分なのです。
(もちろん研究の世界のことですから、何かこの認識がひっくり返されるような発見がまた起こるのかもしれませんが…)
私と同じように睡眠休養感の重要性を認識した人が増えたのか、2024年の日本睡眠学会学術集会においても、睡眠休養感をテーマとした研究発表がやけに多いという印象がありました。
ただですね、ここまで「睡眠休養感って凄い」という話をしておいてなんですが、この概念って主観からなりたっているだけに曖昧模糊としていることが、正体不明というか言いようのない気持ち悪さもあって…
そのために、睡眠休養感をテーマとした論文を読んでみようと思い立ったのですよ。
という前置きだけで十分に長くなってしまったので、実際に論文を読むのは次回にいたします。
参考リンク
健康づくりのための睡眠指針の改訂 に関する検討会 (2023).「健康づくりのための睡眠ガイド2023」.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html