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母とクロックスもどき
ベランダのサンダル。
「これ、使わんがならお母さん履くね。」
そう言った母の足元へ旅立ってから、もう何年経つだろう。
雨晒しだったとはいえ、まだまだ現役ヅラでそこにいた水色のクロックスもどきは何処へやら。
今やすっかり茶ばんで、母の靴を全部ひっくるめても引退候補第一位に違いない。
なにしろ「楽だから」という理由で、週末はどこへ行くにもそいつと一緒らしい。
あまりにもヨレヨレなので、この間ついに新しいサンダルのようなスリッポンのようなものをプレゼントしてしまった。
「サンダルもうだいぶ汚いから、これ履かれ。」
「あら、きのどくな。汚いの履いて歩くなってことね。」
嬉しそうな、少し拗ねたような顔で母は言った。
「そうじゃなくて。自分で嫌じゃないが?」
「これが何にも気にならんくなるんよね。歳とると。」
歳をとると、見た目を気にしなくなる。
というのは、前々から母がよく言う台詞だった。
若い頃デパートの洋服売り場で働いていたという母は、"服"に関して決してこだわりがない訳ではないが、自分が普段着る服となると途端にどうでも良くなるらしい。
姉がいらないと言った黒のスキニーに、よく分からない英文字と猫がプリントされたTシャツが、母の定番スタイルだ。
服なんて、自分の好きなように着ればいいけれど、
「うちのお母さん、舐めんじゃないよ!」
と近所の人たちに言って回りたい、なんて気持ちを抱える娘の心は複雑だ。
いくら娘からのプレゼントでも、気に入らないものは全く使わない母だから、新しいスリッポンもまだ新品のままかもしれない。
それでもいいけど。
古いの履いててもいいけど。
新しいやつ、結構ステキだと思うから、そっち履いてもいいんじゃないかい?母よ。
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