やらなかった時のリスクを考え、お客様視点で新規事業を創り出す。
新規事業に対して批判的な意見を述べるのは非常に簡単です。手探り状態で始めますのでわからないことが多いですから、「それは本当にうまくいくのか?」とか「リスクはないのか?」など言われることはたくさんあるでしょう。
かといって、それらの疑問に対して延々と調査し回答し続けても何も進みません。経営幹部が心配になるのは理解できますが、ある程度のところまでくれば先に進む必要があります。ある程度の程度を定義することは難しい側面がありますが、致命的なリスクについては押さえている。といったところまで、というレベル感が適切でしょう。
さて、通常、新規事業を始めるとなるとどうしてもやることに対するリスクばかりが議論されるのですが、やらなかった場合のリスクについてもぜひ議論すべきです。報告書を提出する場合は、リスク評価のページにやらなかった場合のリスクについても記載できるなら記載しておくのが良いかもしれません。
そもそも企業が新規事業を始めようと思うのは、既存事業だけではもはや生き残れない。と感じているからでしょう。一方、今現在は既存事業はしっかりとお金を稼いでくれますし慣れている分、リスクも大体はわかっていますから少なくとも新規事業と比較すれば安心して事業を継続できます。
経営幹部は、その既存事業の在り方と比較して新規事業を評価するので「そもそも何で新規事業を始めたのか?」という当初の目的を忘れてしまうのです。
新規事業担当者も、周りからいろいろ言われるので、本来の目的を忘れてしまいます。したがって、ぜひとも「新規事業をやらなかったら今後どうなるのか?やらなかったときのリスクは何か?」を再度、考えておく時間を設けたいところです。
ところで、先ほど新規事業の目的を「既存事業だけではもはや生き残れないから新規事業を始める。」といった主旨のことを述べましたが、これも会社都合の目的ですので、適切とは言えません。
なぜ適切ではないのでしょうか?お客さんの視点で考えれば明らかです。次の質問はどうでしょう?
「A社は自分たちが生き残りたいから、新規事業を立ち上げ、商品・サービスを創り出しました。この商品・サービスを買いたいと思いますか?」
どんな商品・サービスかわからないから答えられない。と感じた方もいるかと思いますが、逆にどんな商品・サービスだったら買うのでしょうか?
そうです。自分自身の生活・人生を豊かにしてくれたり、持っていて幸せになるもの、不満を解消してくれるようなものでしたら買うのです。
何の関係性のない事業が山ほど盛り込まれている状態になっている会社があります。このような企業は多角化企業と言われ、かなりの大企業であればそうなることもしばしばありますが、中堅程度でやたらと多角化している企業は「お客様視点が欠けている」可能性があるように感じます。
なぜなら、一つの事業であってもお客様に喜んでもらえるサービス・製品を作りこんでいれば特定の事業が大きくなっていくはずですし、それでも足りない不足を補っていけば自然と一つの事業に関連した領域の強化へとつながるはずだからです。
ところが、とにかく自分が儲かるということだけを考えて事業を展開しているとどうしても、あっちが儲かるから始める。こっちが儲かるから始める。ということが起こってきます。(面白いもので、他社の調査をするととある事業セグメントは一貫性があるにもかかわらず、他のセグメントでは、何の一貫性もない という会社もあります。)
コングロマリットディスカウント(多角化した結果企業の価値が下がること)という言葉もありますが、株主視点からも評価が下がるということになります。
新規事業を創り出す際に、やはり考えなくてはならないことは、お客さん視点です。ついつい忘れがちになりますが、商売の原理原則は常に立ち返る習慣を身につけておきたいです。