矛盾の手のひら 〜第2章:揺れる日常〜
陽菜(ひな)はリビングのテーブルに座り、カップに手を伸ばしながらそっけない声で呟いた。
「おはよう。」
対面に座る兄・彗(けい)は、新聞を広げたまま短く返事をした。
「おはよう。」
昨日の出来事が頭を離れない陽菜は、兄の顔を見るのを避けていた。頬を膨らませ、小さな音でスプーンをカップにぶつける。
「わざと音を立てるな。」
彗が冷静に注意すると、陽菜はすぐに反応した。
「別にわざとじゃないし。」
短いやり取りの中にも、昨日の緊張感が滲んでいた。
その日の昼休み、陽菜はキャンパスのベンチに腰掛け、友達の奈々と話をしていた。
「昨日、お兄ちゃんに怒られてさ。超ありえないんだけど。」
陽菜が頬を膨らませながら言うと、友人は笑いながら答える。
「えー、怒られるって何? そんなの子どもじゃん。」
その言葉に、陽菜は返す言葉を失った。
「そうだよね……」
声には力がなく、モヤモヤが胸に残ったままだった。
方、彗は研究室の後輩との会話の中で、少しだけ本音を漏らしていた。
「兄さんって、妹さんと一緒に住んでるんですよね? 大変じゃないですか?」
後輩の質問に、彗は一瞬考えてから短く答えた。
「そうだな。まだ子どもみたいなところがあるからな。」
口に出したものの、その言葉にどこか引っかかるものを感じていた。「まだ子ども」と言いながら、彼女が大人になろうともがいている姿を否定するような気がしたのだ。
夜、陽菜はまたも友達と飲み会に参加していた。門限の23時は気にしながらも、「お兄ちゃんに縛られるのは嫌だ」と自分に言い聞かせていた。
しかし、帰宅したのはまたしても0時を過ぎてからだった
リビングのドアを開けると、彗がソファに座って待っていた。
「また門限を破ったな。」
冷静な声に、陽菜は一瞬怯えたが、すぐに反論した。
「だって、もう大学生だよ? 門限なんて子どもじゃないんだから!」
彗は立ち上がり、陽菜の前に立つと、静かに言った。
「大学生だからこそ、ルールを守るべきだ。」
「大人なら自由にしてもいいでしょ!」
陽菜の声が大きくなる。
「自由には責任が伴う。それが分からないなら、大人とは呼べない。」
彗の言葉は静かだが、その中に強い怒りが込められていた。
「責任、責任って……お兄ちゃんに縛られるのが嫌なの!」
陽菜は泣きそうな声で叫んだ。
「縛っているのではない。お前が勝手に道を外れないように見ているだけだ。」
「そんなのいらない! 私の人生は私のもの!」
彗は目を細めて、短く答えた。
「なら、まず自分を守れるようになれ。それができるまでは、俺が見ている。」
その言葉に、陽菜は何も言い返せなくなり、涙をこぼしながらその場を立ち去った。
陽菜が自室に駆け込み、彗が一人リビングに残る。2人の間には重い沈黙が流れていた。
「……まだ時間がかかりそうだな。」
彗が静かに呟き、リビングの灯りを消した。
翌朝、陽菜はリビングのソファに腰掛けていた。彗の冷静な視線を避けるように、膝の上で手を握りしめている。
「……昨日のこと、ちゃんと謝る。」
彼女は小さな声で切り出した。
「門限を破ったこと、お酒を飲んだこと、それから……お兄ちゃんにひどいこと言ったことも……ごめんなさい。」
彗は目を細めて彼女の言葉を受け止めた。
「謝罪だけでは足りない。お前自身が行動で示さなければ意味がない。」
陽菜はうつむいたまま、震える声で言った。
「……お仕置き、受けるから。」
彗は陽菜をリビングのソファに座らせ、冷静な声で言った。
「昨日のことをきちんと覚えているか? 門限を破った理由と、その後の行動を。」
陽菜は小さく頷いた。
「友達と飲み会に行きたくて……門限を気にするのが嫌で……」
彗はその言葉を聞きながら、静かに言った。
「昨日の行動が、自分や家族にどんな影響を与える可能性があるか、少しでも考えたか?」
陽菜は視線を下げたまま首を振る。
「……ごめんなさい。」
「謝るのは簡単だ。だが、自分の行動を変えるのは簡単ではない。」
彗は立ち上がり、彼女に向き直った。
「今回は、それを身体に覚えさせる。」
彗は陽菜をリビングのソファに座らせ、静かに話を始めた。
「昨日、お前は大人だと言ったな。」
陽菜は視線を床に落としながら頷いた。
「大人なら、自分の行動の結果に責任を取れるはずだ。それができないうちは、口だけの大人だ。」
陽菜はその言葉に反論する気力もなく、彗にされるがまま膝の上に引き寄せられた。
彗はまず彼女のズボンを下ろし、軽く叩き始めた。
パシンッ。
薄い布越しに叩かれる音が響く。そのたびに陽菜の体が少しずつ跳ねた。
「痛いってば……もういいでしょ……」
陽菜は弱々しい声で抗議するが、彗は手を止めない。
「まだ終わりではない。」
彗は一旦手を止め、冷静な声で言った。
「次は直接だ。」
その言葉に陽菜は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ちょっと待って! 直接なんて嫌だ! 私、もう大人なのに!」
「大人なら、どうして責任を放棄するような行動をした?」
「それは……でも……!」
陽菜は言葉を詰まらせながら、次の瞬間さらに声を張り上げた。
「お兄ちゃんのバカ! こんなの絶対おかしい!」
その言葉にも彗の表情は変わらなかった。彼は静かに言葉を返した。
「これはお前を辱めるためではない。身体的な痛みを通じて、自分の行動がどれだけ危険だったかを覚えさせるためだ。」
陽菜はその冷静な言葉に反論できず、ただ顔を伏せたまま震えていた。
「理解したなら、耐えろ。」
彗は陽菜の下着を丁寧に下ろし、彼女の肌に直接手を当てた
パシンッ。
音が響くたびに、陽菜の体が大きく跳ねる。
「痛い! 痛いってば!」
「痛みは一時的なものだ。だが、お前が取った行動の代償はもっと大きなものになる可能性があった。」
パシンッ、パシンッ。
彗は一定のリズムで叩き続けた。その声には揺るぎない冷静さがあるが、その裏に妹を心配する感情が見え隠れしていた。
「お前の行動が引き起こすリスクを、もう一度考えろ。」
陽菜は涙を流しながらも、小さく頷く。
「……もうしない……絶対、しないから……」
彗は手を止め、静かに彼女を膝から降ろした
「これで終わりだ。」
彗は立ち上がり、陽菜の顔をじっと見つめた。
「お前が次に同じことをした時は、もっと厳しくする。それが大人としての責任を教える唯一の方法だからだ。」
陽菜は涙を拭いながら、震える声で答えた。
「……わかった。もう絶対にしない……」
彗が部屋に戻り、リビングには静寂が戻った。陽菜はソファに腰を下ろしたまま膝を抱え、視線を落とす。
「お兄ちゃんの言うこと、間違ってないのかもしれない。」
小さな声で呟くものの、その言葉には確信がなかった。
「でも……私にはまだわからないな。」
大人であるはずの自分と、兄が語る「大人」の姿。その間にある大きなズレを、陽菜はぼんやりと感じていた。
「私が大人だって思ってるのと、お兄ちゃんが言ってる大人って、全然違う気がする。」
そう気づきながらも、それを埋める術が分からず、陽菜は少しだけ唇を噛んだ。
「お兄ちゃんの考えが正しいなら……私はどうしたらいいの?」
心の中に生じた小さな疑問は、これからの行動を模索するきっかけとなりつつあった。