LPレコードの販売価格を考える(2021年)
【輸入盤LPの価格について】
最近、海外にメールオーダー用のレコード(12インチLP)を注文して、販売価格を設定する時に「高っ!!」と感じるようになった。
一度、LPレコードの販売価格について考えていこうと思う。
私がレコードを買いだしたのは16~17歳の頃、1997年くらいだった。
その頃の価格はおよそ1,500円くらいだったと記憶している。
みんな大好きディスクユニオンさんによると当時はハイスタの海外盤LPは1,100円で販売されていた。
10年ほど前は私もメールオーダーで扱っていたLPは1,000円ちょいくらいである。※今でも販売価格はこのまま=売れ残っている
現在は、前述のみんな大好きディスクユニオンさんでもハイスタの海外盤LPは2,200円で販売されている。
LPレコードの販売価格は以前に比べておよそ2倍ほどに、体感ではおおよそ2,500円くらいがアベレージ。
この輸入盤LPレコードの販売価格が高騰した要因を探っていこう。
① 送料の値上げ
これは非常に大きい。
日本から海外に送る場合の国際郵便の送料はSmall Packet(小形包装物、2キロまで)を駆使するとかなり安くなるのだが、海外はアメリカのUPS/USPSをはじめ、一体どうなっているのかわからないがめちゃくちゃ高い。
(日本の国際郵便の代金も2021年4月より値上げとなる)
個人的にLPを1枚買う場合でも、レコードの代金よりも送料が高いことなんてしばしば。
またCOVID-19の影響でAIRMAIL(航空便)よりも安いSAL(航空便と船便を併用するという謎の輸送方法)が全く使えないことや、国によってはそもそものPOSTAL SERVICEが稼働していないため、郵便に比べると高額なDHLやFeDexなどでの発送になることが、さらに送料の高騰に拍車をかけている。
② プレス代の高騰
以前に比べて、プレス代の高騰に拍車がかかっている。
これはレコードの原材料であるプラスチックの原材料となる原油価格、制作時に利用するメッキの原材料価格などに左右されることに加え、レコードプレス工場自体が全盛期に比べて減っている(新規参入もほぼないといっても過言ではない)などの要因で、プレス代自体は以前よりも高くなっている。プレス工場的には需要があるのにプライスダウンをする必要もないだろう。
③ 為替レート
10年前に比べると円高ドル安/ユーロ安であるため、これは影響はない。というかむしろ輸入商品が安くなる要因ではあるのだが、それをぶっ飛ばすくらいに上記2つの要因の影響が大きい。
【国内盤LPの価格について】
国内盤LPレコードも値上がりしていると皆さんも感じていることだろう。
愛すべきパンクロックのインディーズリリースのレコードと言えば1,500円くらいのもので、7インチレコードに関しては800円くらいであった。
今となってはインディーズリリースのレコードでもLPは2,500円を優に超えてきたり、7インチは1,000円以上はするだろう。
この要因についても検証してみよう。
① プレス数の縮小における単価の高騰
「は?今、レコードブームって言われてますけど!」と思う方もいるかもしれない。
レコードブームが来ているのは間違いなく事実である。だがメディアを手放しで信じるのではなく、自らで情報を取っていく情報取捨選択能力が求められる時代である。色々調べてみよう。
一旦、国内でリリースされているレコードに焦点を当てる。
一般社団法人日本レコード協会なるものが公開している統計をもとに分析していく。
これは10年前となる2010年の出荷枚数だか販売枚数の統計である。単位は「千枚」であるが、とりあえずは「105」という数字を覚えておこう。
これが2020年の統計である。めちゃくちゃ増えてるんですけど!!!
10倍!!!???これはレコードブーム来てる!!!!
しかし落ち着いて、私がレコードを買いだした1996年の統計を見てみよう。
増えてる!!!1996年から考えても増えてるよ!
やっぱりレコードブーム!!!
しかしこの日本レコード協会の統計の中に、我々が愛するパンクロックのインディーズリリースのレコードが含まれているのかが不明。リリースタイトルを指すであろう「カタログ数」という統計もあるものの、ジャンルの「歌謡曲」という大カテゴリの中に「ポップス・歌謡曲」「ニューミュージック」という謎の小カテゴリがあったりと、闇が深すぎて深堀りする気が全く起きない状況となっている。
そもそもこの日本レコード協会の統計が正しいかどうかもわからないため、とりあえず見なかったことにしておこう。
そこで我々が愛するパンクロックの焦点を当てて自力で考えてみよう。
最近のプレス数でいうとおよそ300枚(参考:NOT WONKの2ndアルバムのアナログ盤のプレス数が300枚)、多くて1,000枚といったところであろう。
それを念頭に置いて、以下を見てほしい。
1997年にリリースされた名作メロコアオムニバスMaking Up New Linesのアナログ盤である。
「LIMITED EDISION」という誤植はひとまず置いておいて、5,000枚プレスと記載されている。
この世の「限定n枚」という表現は、「実際は500枚だけど、300枚と謳う」という誇張表現の可能性はあり得るだろう(もちろん全てが誇張表現をしているということではない。可能性の問題。)
だが、「実際は3,000枚だけど、5,000枚と謳う」ということは通常に考えればないだろう。その表現の意図が全くわからないし、もし意図的にしているとしたら新世代のマーケティングの才能があるのかもしれない。
この5,000枚プレスというのは信用してよいソースであると私は思う。
プレス数が300枚と5,000枚ではどのような違いがあるのか。
日本のレコードプレス会社、東洋化成さんの自動見積もりで見てみよう。
こちらがおよそノーマルな仕様での300枚プレスでの見積もり。
消費税や送料はとりあえず考えずに42,600/300=1,402円/枚
自動見積もりに5,000枚という選択肢がなく、MAXの2,000枚での見積もり。
1,111,600/2,000=555.8円/枚
その単価の差はおよそ2.5倍。
これは主にカッティングしてラッカー盤と呼ばれる原盤の作製費用が固定でかかってくるため、プレス数が少ないと1枚当たりに係ってくる原盤費用が高くなるため起こる現象である。
つまり、当たり前のことながら「プレス数が少ないと販売価格が上がる」ということになるのである。
そもそもなぜプレス数が以前より少ないのか?
それは単純に需要の問題であると考えられる。
ウィキペディアによると、日本よりも早くレコードブームが来ていたアメリカでの2020年の上半期のレコードの売り上げは2億3210万ドル(約246億円)、対するCDの売り上げは1億2990万ドル(約137億円)であり、30年振りにレコードがCDの売り上げを上回ったというのだ。
しかし、同時期のストリーミングの売り上げは48億ドル(約5094億円)である。
もはや、現代は「音楽を聴くのはストリーミング、レコードは嗜好品」というイメージである。
つまり大多数の人はストリーミングのみで音楽を聴き、レコードを求めるのは極々一部のマニアックな人たちなのである。
そんな少数民族の私たちのためにレコードをリリースしてくれることを、私たちは感謝しなくてはいけない。
② プレス代の高騰
これは輸入盤LPと同様。海外プレスの場合、海外からの送料が尋常でないくらいかかるようになってしまった。
【そもそもLPレコード3,000円は高いのか】
インディーズリリースのLPレコードに関して、以前は1,500円だったものが3,000円になったことで「高い!!」と糾弾されるが、メジャーリリースは以前から2,500円だったものが現在3,500円とかでの販売価格になっている。
一般的に小売店への卸値が販売価格の7割。70%売上とプレス代の原価との差の粗利益からレコード納品の際の送料、梱包資材、人件費などを差し引いたものが純利益となる。レコードに関してはおそらく大手レーベルでも純利益は雀の涙であろう。完売となればいいが売れ残った暁には即マイナスとなると思われる。ビジネスなので売れ残ることも想定しつつの販売価格を設定するのが通常であろう。
そもそもレコードが3,000円というのは高いのだろうか?
これは個人の価値観によるものが大きいが、私は高いとは思わない。
一度買うと生涯自分のものとなるのだ。
私は釣りをするのだが、例えば人気のブローウィン140sというルアーは1個税込2,378円である。しかも常にロストする可能性を秘めている。事実、私は大好きなルアーがあり税込1,980円で同じものを7個買って、半年ほどで7個すべて殉職した。
比べられるものではないが、レコードの方が使用しているプラスティックの量も多いし、魚は釣れないけどレコードを投げたらルアーよりも飛びそうである。
レコードを手にした時の感動、針を落として聴いた時の感動、そして家のスペースを生涯圧迫する存在感。レコードには3,000円以上の価値があると私は思っている。
【今後のレコードの未来】
レコード高い!という理由でみんながレコードを買わなくなると、
極々一部の人たちのためにレコードをリリースする
↓
プレス数は少ないため単価は上がる
↓
高い!という理由でレコードを買っていた人も買わなくなる
↓
レコードが売れないのでリリースされない
という負のスパイラルになってしまう。
「みんな!!レコード買おうよ!!!」と言う気はさらさらない。
「最近レコード高すぎだろー」とばかり言うのではなく、なぜ高いのかを知ってもらい、理解し、納得したうえで、「私はレコード好きだから買う!」と考え、レコードを買い、それによってこれからたくさんのレコードがリリースされ、さらなる未来の音楽好き達が今現在にリリースされたレコードを血眼になって探してくれるような、私はそんな未来がいいなと思っている