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D.I.Y.バンドマン・ティンペッツ吉田 翔平に聞く、自主企画イベントの作り方と心得:sprayer Interview

ライブハウスが企画・制作するブッキングライブに対して、アーティスト自らが会場をレンタルし主催するのが自主企画イベントだ。音源制作や配信、ブッキングライブへの出演をこなし、次なるフェーズへのステップアップとして開催を目論んでいるアーティスト / バンドマンは少なくないだろう。

今回は、D.I.Y.な活動を続け、8月4日に新宿3会場を用いたサーキットイベント『TOO HOT! circuit』を成功に導いた4人組バンド・ティンペッツの吉田 翔平(Vo)を招き、イベント制作の段取りや成功のために欠かせないアティチュードを教えてもらった。


自主企画イベントの作り方

-ティンペッツは2017年の結成以来さまざまな自主企画イベントを実施していますよね。最初に自主企画をやろうと思ったきっかけはあったんですか?

ティンペッツを結成したのは僕が27歳の時で、それまではバックバンドを付けてソロで活動していたんですけど、その頃から下北沢DaisyBarによく出演してて。で、そこのブッカーが"企画やれやれおじさん"だったんです(笑)。

-なるほど(笑)。店長さんはなぜバンドに自主企画の開催を勧めるんでしょう?

それは自分が楽をしたいからでしょう(笑)。と、僕は勝手に思ってます。

-自主企画のイベントは、通常のブッキングのライブとは違う感覚があるんですか?

最後は全部、自分でケツを拭かなくちゃいけないっていうところ。人によってはそれがしんどいかもしれないですけど、僕の場合はそこにやりがいを感じますね。

-その責任感が芽生えるからこそ、ブッキングや広報にも力が入るし、当日に向けてのモチベーションも湧いてくる?

そうですね。

photo by mako

-バンド活動を続ける上で、自主企画を開催するメリットや意義は何だと思いますか?

……これってファンの人も読むんですよね(笑)? 正直に話すと、まず実入りが多いっていうこと。金のために音楽をやっているわけではないんですが、手間を苦痛だと思わないクレイジーさとイベントをやり切る実直さがあればメリットとしてその部分はありますね。もちろん失敗すれば損失も大きくなるけど、ハイリスクハイリターンで。あとはやっぱり、好きなラインナップを組めること。

-「このバンドのファンに俺たちのライブを見せたい!」みたいなことをある程度コントロールできるとも言えますよね。

共演するアーティストのファンを取り込むっていうのはもちろん大事なことですからね。自分たちが好きなバンドのファンってことは、好きなものが同じ同士の仲間だから、分かり合えるとも思いますし。

-では、実際に自主企画をやりたいと考えているバンドマンに向けたハウツー的な話になるのですが……そもそも、まず最初に何をすればいいのでしょう。

まずは「やりたい!」と思うことですよね、マジで。バンドだったら、なるべくメンバーとその気持ちを、そしてイベントのコンセプトを擦り合わせること。メンバー全員が100%の気持ちで取り組むことって難しいけど、だからこそ仲間内でちゃんと意思疎通するべきだし、そこでの企画者のプレゼンはキモになってくると思います。

-なるほど。そして?

ライブハウスにスケジュール確認ですね。日程はどんどん埋まっちゃうので。これは大きなポイントなんですけど、都内のライブハウスは意外と3か月先の週末でも空いてたりすることがあります。だけど、東京以外の地域は結構埋まってる。

-東京都内でない会場の方が週末は押さえづらい?

はい。なので、そこでやるなら1年ぐらい前から企てる必要がある。

-会場はどういう基準で選ぶんですか? たとえば東京都内の普段から出演する機会のあるライブハウスはわかりやすいですけれど、それ以外の地域ではそもそもどんな会場かも知らなかったりするわけで。

キャパシティはもちろんですけど、僕はホームページとSNSがどれだけ動いてるかっていうのを気にしてます。あと、会場を押さえたら費用の相談をしますけど、それを後手に回すようなライブハウスはあまり良くないですよね。

-そこはやっぱり明朗会計というか。

だから、初手のやりとりは電話で話すっていうのが円滑に進める方法じゃないかなって僕は思う。僕はビジネスは全部メールでやるべき派だけど(笑)。

photo by mako


-続いては出演者のブッキングですかね。

イベントの趣旨をメンバーと擦り合わせる段階で、この人たちを呼びたいっていうビジョンは当然あると思います。でも、そのプランを完璧に実現できるとは限らないっていうのが難しいところで。だから、ブッキング候補は潤沢に用意してます。そのためにも、かなり界隈のアーティストをディグってますし。

-ティンペッツの自主企画には、セカイイチやHINTOといった吉田さん自身が憧れていたアーティストが出演してきました。目玉となるブッキングの際に心がけることはありますか?

オファーするにあたって、いかにその人たちと共演したいか、企画にどれだけの熱量を抱いているかを、嘘偽りなく伝えること。やっぱり、魂のこもった文章って確実に人の心を揺さぶることができるし、そういうオファーは結実しやすいと思います。格上のミュージシャンでもわかってもらえる。

あと、憧れのアーティストが出演するイベントをやる時には、10代の自分がどれだけ喜んでくれるか、っていう思いを大切にしてますね。

photo by mako

-出演アクトが決定してからのイベント告知も重要ですよね。ティンペッツの場合はどのように行っていますか?

SNSでの告知は見てるユーザーが多い時間に絞ってやってます。告知解禁は土曜か日曜の20時。その後のリマインドは、だいたい4週間前、3週間前、2週間前、1週間前、3日前で、時間帯は朝6時か11時45分か20時。

まあこれはトライアンドエラーですし、それが動員に繋がるっていうのかはわからないですけど……。SNSって見る頻度も人によって違うんで、目に届かなかったっていうことだけは避けたい。それに無料でやれることなので、どんどんやるべきだと思います。

-ライブハウスでフライヤーを配ったりとか、足を使ったような宣伝活動は行いますか?

うーん、フライヤーは正直もらっても見ないと思うのであんまりやらないです。Twitter広告を打ったりはしますけどね。

-そこはデジタルに振り切っているんですね。

そうですね。

-イベント当日に向けて、何か特別な準備を行うことはありますか?

配信でしか聴けないデジタルシングルのリリースパーティの際には、必ずジャケットステッカーというものを配布してます。どこかに貼って、見たら「こんな日あったな」って思い出してもらえるといいなと思いますし。お客さんに喜んでもらえるようなことはなるべくやりたいですね。

D.I.Y.サーキットイベントで得た格別の充実感

photo by mako

-8月4日には、新宿Nine Spices / SACT! / Hill Valley Studioの3会場を用いたサーキットイベント『TOO HOT! circuit』を開催しました。

僕らは、下北沢のホームはDaisyBarとmona records、新宿のホームはNine Spicesだと思って活動してるんです。だけど、9月4日にリリースする2ndフルアルバム『しるし!』のリリースツアーでは、そこを使わない予定だった。なので、その前の3rdデジタルシングル「TOO COLD?」リリースパーティを兼ねたイベントとして、ホームの会場でなにかをやろうと思って。

ただ、これまでの自主企画とは違う内容にするためにはどうしたらいいだろう? 自分たちができる一番面白いことって何だろう?って考えた時に、思い付いたのがサーキットだったんです。

-出演者はどのような方針で決めていきましたか?

ブッキングに関しては、ビッグネームを呼ぶよりも、仲間内でワイワイとやりたかった。たとえば、Muddy Daysはムラデ(Vo)がティンペッツのアートワークやMVを制作してくれている縁があったり。あとは、この機会に共演してそうでしてこなかったアーティストを呼びたいなと思って、砂の壁や宇宙団に声をかけたりしました。

photo by mako

-通常の自主企画とは異なる、サーキットならではの苦労はありましたか?

正直あんまりなかったですね(笑)。4か月前から準備してたらスムーズにできたので……やっぱり、周到な準備が色んなことを楽にさせると思います。

たとえば、イベントの1か月前に実際にHill Valley Studioに足を運んで、機材会場の備品に問題がないかをちゃんと確認したんですよ。そういう準備をしてたから、当日も余力を持って臨めました。それができてなかったら、当日バタバタして仲間と揉めて……みたいなことがあったりするので、やっぱり準備はすごく大事です。

-では、これまでと違う達成感や手応えは?

もちろん僕は主催者でありつつ演者でもあるわけで、イベントの最後には自分たちがライブをやるじゃないですか。その大トリとしてステージに立つときの、お客さんや他の出演者から漂う「待ってました感」みたいなものは、いつものライブより感じることができた。

-では、これから自主企画やサーキットイベントを主催したいというバンドマンにアドバイスをお願いします。

もう、とにかく「魂」でしょ。それしかないですね。やりきるんだっていう熱量と責任感。

バンドがイベントを主催するっていうのは、それ自体に意味があるような気がしていて。D.I.Y.で頑張っていたら、出演者もそれに応えるような良いライブをしようって思ってくれる。だから、その気持ちがアーティストにも伝わるように動くのが大事ですね。

時代に存在を刻む会心作『しるし!』を引っ提げ全国へ

-ティンペッツが9月4日にリリースする2ndフルアルバム『しるし!』はどのような作品ですか?

夢の一つでもあったセカイイチとの対バンが決まった時に、その次の目標を決めないと、自分の、そしてバンドのモチベーションを保てないなと思って、ステージで『次は歴史に残る名盤をリリースします!』って宣言したんですよ。そうして作られたのが今回の『しるし!』です。

ティンペッツって、ジャンル分けがすごく難しいバンドなんですよね。シティポップでもないし、ロックンロールでもない。自分は00年代の邦ロックの系譜にあると思ってるんですけど、いまはそのシーン自体がないし、孤立している状態で。それでも、中学校の同級生と一緒に、一度もメンバーを変えずに走ってきたこんなバンドが、どこにも属さずに活動してきたっていう「しるし」になるような10曲を入れることができた。僕らのやりたい音楽が詰まったアルバムになってます。

-特に聴いてほしい楽曲はありますか?

1曲目でリードトラックの「ファントムスケジュール」ですね。僕、マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0(ZERO)のリスナーなんですが、あまりに忙しい彼らが嘘の予定を作って休暇にすることを、番組内で「ファントムスケジュール」って呼んでるんです。その期間のことを楽曲にしました。

-なぜそれをリードトラックに?

あまりに良い曲だから(笑)。歌詞もメロディーも。

-そして、同作を引っ提げた過去最大規模の全国ツアー『しるし!のツアー!!』にかけての意気込みはいかがでしょうか。

楽しく、仲良く。そして、各地で優勝して帰って来ます。

-最後に、いまティンペッツが目指している目標を教えてください。

シンプルに、ツアーにたくさんの人が来てほしいですね。そして、全国区のバンドになりたい。

僕個人の目標としては、まず10周年までバンドを続けたいです。結成3年目の時、下北沢GARDENの店長に、「結成10周年まで続くバンドは多いけど、20周年を迎えるバンドはほとんどいない」って言われたんですよ。それ以来、バンドをどう続けていくかは僕の永遠のテーマなんです。Mr.Children も30周年記念ツアーに『半世紀へのエントランス』っていうタイトルを付けてましたけど、ミスチルもまだ半世紀までは遠い段階なんだって思ったりもして。

まずは10年。10年が見えないと、11年目の話ができないから。そこまで活動を続けるためには、やっぱり全国区の存在にならないと。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


Profile:ティンペッツ

東京の 4 人組バンド。

「似た音楽はないが たしかに生活のそばに在る」 「踊れて•少し泣ける」

2017 年 秋、 中学からの同級生を中心に結成。 渋谷 WWW、下北沢 GARDEN、新代田 FEVER などで自主企画ライブを行うだけでなく バンド主催のサーキッ トを開催するなど精力的に活動している。

9/4、2nd full album「しるし!」をリリースし、 リリースツアーは日本全国主要都市、10ヶ所を周る。

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