CUICUI 初のコラボシングル「脱コミュニケーション」でさらに自由になった4人組バンド:sprayer Interview
2016年末に東京で結成された、トリプルボーカルを擁する4人組バンド・CUICUI。エノシママキ(Gt / 鎌倉真希(April in 85サポート等))、AYUMIBAMBI(Ba,Vo / 白石あゆみ)、エリー・ガガ(Key,Vo / エリーニョ(IIOT))、Rui Sui Liu(Dr,Vo / 筒井みづほ(Response))というさまざまなバンド歴を持つメンバーたちは、それぞれの音楽活動から、あるいは抑圧された日常生活から解き放たれたオルターエゴとして強烈な個性を放ちながらも、ポップミュージックへの愛着を共通言語として手を取り合い、クセがあってクセになる多彩な楽曲を作り上げてきた。
3月22日にリリースされたシティポップな「脱コミュニケーション」は、ダンサーのゆんを迎えた初のコラボシングル。バンド経験のない彼女の歌唱とトランペット演奏をフィーチャーし、その創作の自由度をさらに高めている。今回は、エノシママキ、エリー・ガガ、Rui Sui Liuの3人にインタビューした。
特別なバンドだと気付く瞬間があった
ー結成の経緯を教えてください。 エノシママキさんが最初にメンバーをバンドに誘ったとのことですが。
エノシママキ(Gt):しばらくギターを辞めて、カメラマンをやっていたんです。メンバーの3人は、その時に撮影してた人たちで。またバンドを始めようと思ったときに、彼女たちと一緒に組みたいと思って誘いました。
ーそう思ったのは、プレイヤーとしての3人に惹かれたから?それとも人間性や相性の面で?
エノシママキ:やっぱりプレイヤーとしてカッコいいなと思って。
エリー・ガガ(Key,Vo):そうなんだ。誘いやすいとかじゃなくて?
エノシママキ:失礼だね(笑)。ちゃんとミュージシャンとして、ステージを観て良いなって思う3人です。
ー最初は「一度ライブできれば」という思いで始まったCUICUIですが、現在まで続くほどモチベーションが高まったきっかけはあったのでしょうか?
エリー・ガガ:曲の作り方を変えてみたら、それがCUICUIにハマって作曲が楽しくなったんですよね。それまでは自分の気持ちを表現しようと思ってたんですけど、もっとフランクに、面白い要素を取り入れることに注力するように。他の曲をパクっちゃいけないとか、似たらいけないっていう意識もなくして。その結果、自分のソロや他のバンドでの制作にも良い影響が出ました。
ーCUICUIが、自由な創作を試せる場になった。
エリー・ガガ:そうですね。『関ジャム 完全燃SHOW』で川谷絵音くんの作曲方法を知ったことがきっかけだったんですけど(笑)。作り込まないまま、レコーディング現場で完成させるみたいな。それを私もやってみようと試したのがCUICUIだった。
ーRui Sui Liuさんは、CUICUIへの熱意はどのように変化してきましたか?
Rui Sui Liu(Dr,Vo):確かに最初は、たまにしかやらない企画モノのような形で誘われて、お遊びで加わったんです。でも1stアルバム『平成』をリリースしたときに、たくさんのバンドの中でハッキリと「CUICUIらしさ」が生まれた感覚があって。ただの仲良しで集まってるわけじゃなく、CUICUIって自分たちのバンドなんだなって。作品が世に出て聴いてもらう中で、自分たちを客観視できるようになった結果、特別なバンドだって気付くことができました。
エリー・ガガ:「子亀孫亀ひ孫亀」(1stアルバム『平成』収録曲)のRui Sui Liuが歌うパートで「みづほ(Rui Sui Liu)来た!」って思いましたね。
ーメンバーそれぞれが様々なバンドやソロで活躍されていますが、改めてCUICUIはご自身にとってどのような存在なのでしょう?
エノシママキ:自分自身みたいな感じですね。アイデンティティのようなものです。
エリー・ガガ:「私がCUICUIの一番のファンだ」ってよく言ってるもんね。
Rui Sui Liu:それぞれ変わった名義で参加してるし、普段の活動とは別の人格……みたいなコンセプトでやってたはずなんですけど、最近はもうそうではないかな。今は「CUICUIの〇〇です」って名乗れる。遊びじゃなくて、ちゃんと音楽になってきた。
ー実験の場所でもあったCUICUIが、徐々に飾らない自分自身と重なってきたと。ちなみに、バンド名にはどのような由来が?
エノシママキ:エリちゃんと、小さい「ゅ」が付く名前がいいなって話してたんですよ。Perfumeみたいな。そうして考えていた時に、写真家の川内倫子さんの展示で『Cui Cui』という写真集のことを思い出して、「これいいじゃん」ということで名付けました。フランス語で小鳥のさえずりを表す言葉なので、当初のバンドのイメージとも合ってるなと。
エリー・ガガ:今はもう小鳥じゃないかもしれないけど(笑)。成長しちゃった。
ジャンルレス、だけどひたすらポップに
ーバンドのプロフィールには「音楽的なバックグラウンドの広さを活かした中毒性のある楽曲」が特徴とありますが、それぞれ異なる音楽ルーツがあるのでしょうか?
エノシママキ:そうですね。世代が幅広いのも特徴です。私は70年代生まれで、エリー・ガガとRui Sui Liuは80年代、AYUMIBAMBIは90年代。20歳くらい開きがあるから、聴いてきた音楽も被る部分と被らない部分があるし、同じジャンルでも捉え方が違って楽しい。
ーたとえば一方はシティポップを現役で聴いてきた世代だけど、もう一方はリバイバルで触れた世代だったり。
エノシママキ:そうそう。そういうのが面白いですよね。
エリー・ガガ:私自身いま好きなのは現行のジャズとかだけど、CUICUIではそれを全然やらず、もっと個々のメンバーが好きな要素やトレンドを意識して曲を作ってます。だからジャンル的には全曲バラバラでとっ散らかってるんですけど、CUICUIがやればCUICUIになるみたいな。ポップでいたい、聴きやすくありたいということだけは考えてるけど。
エノシママキ:J-POPが好きなのは共通してるところかもね。
Rui Sui Liu:私は基本的には古いロックが好きなんだけど、テクノや電子音楽も好きだし、アフリカンジャムバンドみたいなのもやってたし、演劇やクラシック系もやってたんです。CUICUIは、そういう私が通ってきたものをすごくシンプルにしたようなイメージで。CUICUIにはジャンルの固定概念がないから、これまで触れた色んな音楽のポップな要素をスッと埋め込ませることができる。
エリー・ガガ:そこが彼女はすごくて。もう、なんでも叩けるんですよ。打ち込みの音源を持っていったら、それをすんなりやってくれて。
ー曲作りはどのような流れで行っていますか?
エリー・ガガ:ピアノに向かって考えるわけではなく、歌詞のテーマや構成を頭の中で決めた段階で初めて鍵盤を触ってデモを作ります。で、デモが出来たらみんなで曲を完成に近付けていく。リズムは結構決め打ちで、こうやって演奏してほしいって頼むことが多いですね。
Rui Sui Liu:「これってどういう曲?」「どういう感情で書いたの?」っていう、疑問点は結構質問します。ただのビートだけど、自分の感情を込めるようにしてるし、特別難しいことをせずにそれを表現するのに面白さを感じるので。
ーCUICUIの楽曲、あるいはエリーさんの書く楽曲ならではの魅力はどのような点だと思いますか?
エノシママキ:一番素晴らしいと思うのはメロですね。あと歌詞がめちゃくちゃいい。その辺にはいないくらいずば抜けてると思います。CUICUIに誘ったのも、それをもっとみんなに聴いてもらいたいという気持ちからだったので。
エリー・ガガ:あと、3人歌えるのはなかなか珍しいですよね。3人とも声質や歌の良さが全然違うから、使いどころによって色んな曲ができるなと思って、この編成になりました。
Rui Sui Liu:エリーちゃんが、曲作りの段階でパート分けも決めてくれてて、それが曲の雰囲気とマッチするんです。歌割りを入れ替えたら全然違うものになるだろうなって思うし、もしかしたらこれから先に私たちが成長する中で、「やっぱりこの曲のサビはこの人が歌った方がいいかも」みたいなこともあるかもしれない。それも面白さですね。バンドで三声コーラスをこなすのも良い。
エリー・ガガ:こんなにドラム叩いて歌う人、なかなかいないですからね。
ー歌詞に関しては、シュールな要素もありつつ、人と人の関わり、コミュニケーションに関する切実な思いも感じさせます。どこから着想を得て書いていますか?
エリー・ガガ:小説が好きということもありますし、普段生活してていろいろムカつくことってあるじゃないですか。それをストックしといて歌詞に昇華させるというか。怒りや憤りを「曲にしてやる、この野郎!」みたいな感じで。だからいくらでも題材はある(笑)。
Rui Sui Liu:私も別の活動で歌詞を書くんですけど、言葉にしないと気付けない自分の感情ってあって。私ってこう思ってるんだなっていうことに作詞を通して気付いて、バンドで演奏することでその感情が育っていく。
初のコラボシングル「脱コミュニケーション」
ー3月22日にsprayerから配信リリースされたシングル「脱コミュニケーション」は、ダンサーのゆんさんをフィーチャーした初のコラボシングルです。共演のきっかけは?
エリー・ガガ:CUICUIの楽曲にこれまでと違う要素を入れようと考えた時に、若い子とコラボしたいなと思ったんですよ。ゆんちゃんと出会ったのはそれよりも前、観に行った公演で彼女のダンスが良いなと思って声をかけたのがきっかけでした。そこで初めて話したときに、20代前半の彼女は私が忘れてしまった感覚を持っていて。「まあ、どうにでもなるでしょ」とまだ思えない気持ち。そういう感情も表現したいと思って、その会話の内容を曲にしました。
ー具体的にはどういった内容の会話だったんですか?
エリー・ガガ:ダンスを本気でやろうと考えているときに、ちょうどコロナ禍でそれまで当たり前にあった公演や舞台がどんどんなくなっていってしまって、未来が見えなくなったという話をしました。それでも彼女なりに行動して、悩んでるんだなって。
ーマキさんのギターカッティングが冴える一曲ですが、アレンジ面でのこだわりは?
エノシママキ:実は、サビのフレーズは小田和正さん「ラブ・ストーリーは突然に」から着想を得たんですよ。あの曲もカッティングが印象的だけど、すごく歌モノじゃないですか。「脱コミュニケーション」もサビのメロが美しい曲だから、それを活かしたくて。
ー煌びやかな存在感がありつつ、歌に寄り添ってもいるというか。
エノシママキ:そこはCUICUIで絶対に大事にしている部分です。
エリー・ガガ:マキちゃんは、レコーディングでほかの人には伝わらないこだわりを見せることがあって。
Rui Sui Liu:「脱コミュニケーション」と去年の7月にリリースした「ぼくたちのナツ」は、エリーちゃんのデモが送られてきた段階でマキちゃんの反応が良かった。「この曲、やりたいんだなあ」っていうのが、いつも素直なのでわかりやすいです(笑)
ー映像やアートワークなどへのこだわりを感じさせるのもCUICUIの特徴だと思います。ビジュアル面のディレクションはどなたかが行っているのでしょうか?
エリー・ガガ:主にマキちゃんとみづほちゃんですね。
ー「脱コミュニケーション」では、MVの監督・撮影・編集をRui Sui Liuさんが担当しています。
Rui Sui Liu:エリーちゃんから、歌詞だけでは表現できない部分も含めて楽曲の意味を聞いた上で、誰にでも二面性があるということを、CUICUIらしくポップに表現したいなと思って制作しました。思わず笑っちゃうというか、微笑ましい要素はどうしても残したくて。
ーなるほど。
Rui Sui Liu:彼女の話が曲になってるだけあって、ちょっとした仕草や表情が曲にマッチしたので、当初予定していた量の倍くらいは撮影しました。普段の柔らくて可愛らしいイメージから、カッコよさ、芯の強さも引き出せて、すごく良い作品になったなと思ってます。
ージャケットアートには、針金アクセサリー作家であるikiさんとのコラボ作品が使用されています。
Rui Sui Liu:彼女のアイテムが並んでるショップを見た瞬間に、「めっちゃCUICUIに合いそう!」って思って。アートのみならず、彼女自身も魅力的な人なんですよ。CUICUIのメンバーはみんな、音楽に限らずアンテナを張ってて、「こういう人とコラボしたら面白そう」っていうのを提案してくる。
ー楽曲のコラボ相手に、シンガーや楽器奏者ではなくダンサーのゆんさんを選んだことからも、CUICUIのクリエイティブの自由さが表れていますよね。
エリー・ガガ:彼女は普段歌ってるわけではないですからね。でも、話してたらカラオケが好きだっていうから、「じゃあ歌う?」って。楽器の経験あるかどうか聞いたらトランペットをやってたっていうから、「じゃあ吹く?」ってことで、全部やってもらいました(笑)
Rui Sui Liu:ステージで歌ったことのない彼女のピュアな歌が、もうたまらなく好きで。私たちにはもう出せないテイストが表れてるし、何回も聴きたくなる。
ー今後もミュージシャンに限らないコラボレーションが楽しめるんじゃないかと期待しています。
Rui Sui Liu:ゆんちゃんと一緒にやる前から、もう次のコラボを考えてたよね。
エリー・ガガ:実現できればと思います。
ガールズバンドを名乗るのは今日でやめる
ー最後に今後の活動についてお伺いします。まず、6月30日には盟友・死んだパンダ噛んだズとのツーマンライブ『遊戯にまつわるエトセトラ season2』が東京・下北沢BASEMENTBARにて開催されますね。
エノシママキ:死んパンとは去年もツーマン(2023年7月開催『遊戯にまつわるエトセトラ』)をやったんですけど、彼らもCUICUIと同じで、他から浮いてる、どこにも混ざれないバンドなんですよね。あぶれた2組(笑)。それが良さでもあるし、音楽性は違うけどシンパシーを感じます。
エリー・ガガ:ゆんちゃんも出演しますし、いろいろとコラボレーションも考えているので、楽しいイベントになると思います。
ーそして、9月1日の「CUICUIの日」には何かがあるということで。
エノシママキ:ワンマンをやります。平成最後の昭和の日に開催した『CUICUIのDOKUDAN』から5年ぶり、2回目ですね。
エリー・ガガ:それまでに新曲を仕上げなければならないのが私のノルマなので、頑張ります!
ーそれでは最後に、これからCUICUIをどんなバンドにしていきたいか、みなさんそれぞれのビジョンを教えてください。
エノシママキ:CUICUIって、ガールズバンドのくくりには上手く混ざることができなくて……強そうすぎるのかなとか、単純に年齢のせいかなとか、結構気にしてたんですけど、今日の朝ふと気付いたんです。そもそもそんな小さいカテゴリの中にとどまろうとしてたのが大間違いだなって。だから、ガールズバンドって名乗るのは今日でやめます(笑)。良くも悪くも、「女の子だから」に自分がこだわってしまっていたのかも。そういうのをやめます。ハッキリ言って、そんなところに収まるようなメンバーじゃないんです。
エリー・ガガ:今の4人のまま、私が前作を超える曲を作り続けて、いろんなところでライブをして、楽しいことをやりたいです。この4人でいると、強い気持ちでいられるんですよ。
Rui Sui Liu:マキちゃんはいつもこうやって思い悩んでいるけど、私は年齢が離れていることとかが、むしろ売りになると思ってます。私たちもそれを面白いと思ってやってるし。もちろん、マキちゃんが葛藤していることも魅力的だし。だから今の状態で楽しいんだけど、あえてこれからどうなりたいかを考えるなら、海外の人にももっと聴いてもらえるバンドになりたい。海外の友達からも面白いって言ってもらえたりするし、CUICUIのサウンドの良さやアート感覚は、国外の人にもウケるんじゃないかな。SNSとか関係なく、色んな国に行って、色んな人と触れ合いたい。だからみんな、長生きしてください(笑)
エリー・ガガ:みんなでよく長生きの話をするんですよ。マキちゃんが絶対に最後まで生き残るでしょ?みたいな。
エノシママキ:よく言われる(笑)
Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to)
Edit:sprayer note編集部
Profile:CUICUI
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