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気鋭インストバンド・PEEKが美しい旋律で描く景色と、楽曲展開で紡ぐドラマ:sprayer Interview

下手な詩よりもずっとリリカルな音がある。東京を拠点に活動するインストロックバンド・PEEK。彼らの楽曲は、その旋律のみをもってリスナーの脳裏に彩り豊かなシーンを浮かび上がらせ、景色が移ろうさまをドラマチックな楽曲展開で活写する。

2020年3月にリリースした1stアルバム『Afterworld』はiTunes Storeのインストアルバムチャートにてデイリー最高8位を獲得。2021年2月にはタワーレコードによるメディア・TOWER DOORSにて月間BEST NEW ARTISTに選出されるなど、着実にその存在感を高めてきた。

今回はそんなPEEKに貴重なインタビューを敢行。その言葉から、メンバー同士のクリエイティブに対する信頼や、楽曲制作へのモチベーションを窺い知ることができた。

水面下での活動を経て本格始動

ー先日、anteの皆さんにインタビューさせていただいた際に、PEEKの印象について伺ってみたんです。曰く、「すごい育ちのいいバンド」とのことで。

一同:(笑)

ー「力技に頼らない盛り上がりを冷静に作れるところが凄い」とも語っていました。

マエダ(Gt):逆に、anteの熱い盛り上がりは真似できないですからね。

ーでは改めて、自己紹介をお願いします。

マエダ:マエダと申しまして、ギターをやっております。

スズキ(Dr):ドラムのスズキです。

カワナベ(Support Ba):サポートメンバーでベースを弾いてます、カワナベです。

[L→R] カワナベ(Support Ba)| スズキ(Dr) | マエダ(Gt)

マエダ:オリジナルメンバーのベーシストでイチカワがいるんですけど、彼女はいまフランスにいて。それと、もう一人のギタリストのカンザキはロンドンで仕事をしているので今日は不在です。

ーPEEKが活動を開始したのは2020年ごろとのことですが、そもそも皆さんの出会いは?

マエダ:大学のコピーバンドサークルでよく一緒に組んでたメンバーなんですよ。今日欠席のイチカワ、カンザキも含めて同じサークルで。

ー当時はどういったバンドをコピーしてたんですか?

マエダ:今の音楽性とは全然関係なかったですね。例えばスズキとはレッチリのコピバンを組んでなぜか僕が歌わされたり。カワナベくんは結構ハードコア系をやってたよね。

カワナベ:そうですね、ハードコアとかエモが多かったかな。

ーそれからPEEKの結成まで期間が空いて。

マエダ:今はもう39歳とかなんで、めちゃくちゃ空いてます。

スズキ:ずっとスタジオでコピーはやってたけど、ライブはしてなかったですね。下手にならないために続けてるだけで、何よりその後の飲み会が楽しい!みたいな。

マエダ:もともと引っ込み思案だし、「曲作ってライブやっていこうぜ!」みたいな勢いがなくて。ただ、2018年ごろに初めてオリジナル曲だけでライブしたことがあって、その頃にPEEKっていう名前を赤坂の火鍋屋かどこかで決めた記憶があります。2020年の本格的な始動のきっかけになったのは、スズキの結婚式に合わせてお祝いの曲を作ったことでした。それで「レコーディングめっちゃ楽しいやん」って気付いて。せっかくだから、今までざっくり作ってた曲を音源化してみようってことになった。

ーPEEKというバンド名にはどのような由来が?

マエダ:語呂と字面が良い、シンプルな名前が良いなと思ってて。それと、「パピプペポ」が入る名前はインパクトがあるって聞いたことがあったし、僕はスピッツが好きなので、「ピ」は入れたいなと。PEAKだと頂点って意味だけど、PEEKだと覗くって意味になるのが面白いなと思って名付けました。

ーあえてインストゥルメンタルという形態を選んだ理由はありますか?

マエダ:単純に、30歳ぐらいからボーカルのある曲をまったく聴かなくなっちゃったんですよ。言葉が邪魔に感じるというか。演奏してても、インストの方が全然楽しくて。

スズキ:僕はマエダさんの歌声が好きなんで、本当は歌ってほしいですけど(笑)。確かにここ数年は歌モノをほぼ聴いてないですね。最近はドラムがうるさく感じて、リズムの無い曲ばかり聴いてます。

ーみなさんが影響を受けた音楽について教えてください。

マエダ:toeはコピーもしてたので、メンバーみんな言わずもがな影響を受けてますね。僕自身はスピッツが元々好きで。あとは、30歳ぐらいからharuka nakamuraにハマって、一時期は彼の曲しか聴いてませんでした。『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』をはじめゲーム音楽も好きですね。『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』をきっかけに、ドラクエのオーケストラコンサートも観に行くくらい夢中になって。曲の構造がポップスと違って複雑だし、インスト音楽としては一番完成度が高いんじゃないかと個人的には思ってます。

スズキ:僕は中学校の頃からドラムをやってるんですけど、当時はYouTubeもないから、どう練習したらいいのかも分からないまま過ごしてたんですよ。そんな時に、近所のレンタルショップ・ジャニスでMR. BIGのPat Torpeyによる教則ビデオを借りて。基礎的な技術やプロっぽい叩き方をそうやって学んだので、彼からの影響は大きいですね。あとは、上原ひろみも好きです。マエダさんの作る楽曲もそうですけど、楽器の音色だけで景色が思い描ける曲が好みですね。

カワナベ:僕が一番衝撃を受けたのは、Engine DownとかFour Hundred YearsといったLovitt Records周辺のアーティスト、あとはやっぱりキンセラ兄弟が携わっていたバンドたちでした。ベーシストとしてインパクトがあったのは3cm Tourの磯貝さん(現MIRROR)。今でもフレージングに行き詰まると、改めて立ち返るような存在です。


マエダ(Gt)の描く景色をメンバーとともに具現化

ー楽曲制作はどのようなプロセスで進むのでしょうか?

マエダ:僕がGaragebandで作ったギター2本+ラフなベースだけのデモを、まずみんなに撒きます。そうすると誰からともなく考えたフレーズが返ってきて、データのやりとりを経たあとに実際にスタジオで合わせてみる、という流れですね。昔は延々とスタジオに籠って制作してたんですけど、その手法はマジで出口がなくて。1stアルバム『Afterworld』はそうやって10年くらいゴニョゴニョしてたものの結晶です。レコーディングするときまでフレーズが決まってなかったり。

マエダ(Gt)

カワナベ:ギターソロはほとんどアドリブみたいな感じですよね。

マエダ:ずっとカンザキの思いつきだね。逆に2ndアルバム『Where I am』はイチカワが海外に行くまでの3ヶ月間に突貫で作った作品だったので、そういう意味ではまだ本当に満足いく形でアルバムを作ったことがないんです。

ーあくまで原型はマエダさんが作って、バンドメンバーで仕上げていくと。

マエダ:はい。キーになる旋律と構成はデモから決めてますけど、その段階ではあえてドラムを入れないんです。そうすると、スズキのプレイはいつも予想を超えてくるし、カンザキも僕の作ったフレーズを全然無視したりする。毎回デモの200%増しくらいのクオリティになるから、楽しい作業ですね。

ーPEEKの楽曲は、心に立った小さい波風から出発し、それがどんどん広がって、また元の場所に戻っていく……というような起伏を感じさせる楽曲構成によって特徴付けられるように感じます。そういったストーリーを意識しながら楽曲を制作しているのでしょうか?

マエダ:そうですね。音楽の三大要素はメロディー・リズム・ハーモニーって言いますけど、もう一つ加えるなら構成も音楽の魅力だと思っているので、そのアイデアは大事にしています。デモをメンバーに送るときにはタイトルを付けてるんですけど、その曲名によって意思が統一されてフレーズが広がっていくのも面白いですね。

スズキ:マエダさんには、どのような景色を思い浮かべてデモを作ったかを聞きます。「なんか暗いところを歩いていて、ここで死ぬ」とか、ザックリですけど(笑)。で、それを実際に思い描きながらドラムを付けていく。

スズキ(Dr)


ーリフとメロディーに分担されたツインギターも印象的です。主旋律をギターで弾くことにはこだわりが?

マエダ:そもそものポリシーとして、「新しいものを作ろう」「世の中にまだないものを作ろう」っていう大げさなことより、自分が好きな曲を作りたいという思いがあるんですよ。なので、インストの音楽でまったりとした旋律を感じる音楽を作りたいという目標が第一で。ただ、それをハッキリとパート分けして「俺が主旋律をずっと弾く」とするとそれはそれでつまらないから、バランス感は気をつけてます。

ーサウンド的にはマスロックっぽさもあるんだけど、リフだけを聴かせるわけじゃないのがPEEKらしさですよね。

マエダ:自分たちの楽曲をマスロックやポストロックだとは全然思ってないですね。ゲーム音楽やジブリみたいな音楽を、バンドのサウンドでやったら面白いんじゃないかというイメージで制作しています。

ースズキさんとカワナベさんは、マエダさんの作る楽曲の特徴はどういった点だと思いますか?

スズキ:デモを聴いてまず思うのは、「ドラムいらないよね」っていう(笑)。それぐらいマエダさんは気持ち良いメロディを作るんですよね。せっかくドラムが加わるならよりカッコよくなるようにと思いつつ、僕があんまり前に出過ぎない方が曲が活きるんだろうなという気もしています。

マエダ:「Days of Daze」(2023年7月リリース)はアコギでデモを作った曲なんですけど、それも「ドラム要ります?」っていう感じの曲でした。でも、僕の中ではこういう曲にエモいドラムが加わるのが面白いなと思って。実際、スズキが予想を遥かに超えるクオリティのドラムを叩いてくれたし。最初は仕上がりを想像できなかったのに、いざ完成するともうこのアレンジしか考えられない。そういうのがすごく気持ちいいんですよね。

カワナベ:やっぱりマエダさんの作るフレーズって非常に美しく完成されてますよね。でも、カンザキが絶妙にそれを崩す。スタジオでも、毎回カンザキのフレーズが変わったりして。そういう昇華のさせ方がバンドらしくて良いなと思います。

カワナベ(Support Ba)

マエダ:カンザキの話こそ聞きたいよね。

スズキ:何考えてるのかわかんないですよね。

マエダ:変人なんですよ(笑)。デモを作る時に、70点から75点ぐらいまではできるんだけど、こっからどうしようかなと迷うんです。そこでスズキのドラムやカンザキのギターフレーズ、カワナベくんのベースラインが自分では思い付かないエッセンスを付け足してくれる。

ー「Santa Fe」(『Afterworld』収録)のようなアンビエントを感じさせる楽曲、ピアノやストリングスなどのバンド外のサウンドを取り入れた楽曲も存在しますが、そういったアイデアはどのように形にしていますか?

マエダ:たとえば「Santa Fe」はグアムかどこかの海岸で夕陽を見ていて思い付いた曲なんですけど、その時の波の音をどうやって表現しようか考えたり。「Days of Daze」では、頭の中に霧がかかっているという状態を音像に落とし込んだり。そういうイメージで作ってますね。

ーまず描きたい情景があって、そこに近付くためのサウンドを選ぶという。

マエダ:あとは単純に、ずっと一緒じゃつまんないからやってみるってこともありますけどね。「Turn The Light」(『Afterworld』収録)では、カンザキが遊びで使ってたE-Bowを取り入れたり。ライブでは困るんですけどね。この間初めて「Santa Fe」をライブでやったんですけど、雰囲気を出すのに苦労しました。

ー現場での再現性には囚われずに制作しているんですね。

マエダ:レコーディングが楽しいからバンドやってるっていう感覚ですね。


美濃隆章(toe)との制作で超えたハードル

ー2ndアルバム『Where I am』からは、toeの美濃隆章さんをサウンド・エンジニアに迎えています。どのような経緯でタッグを組むことになったのでしょう?

マエダ:直メールしたんですよ、ダメ元で。しばらく返信がなかったんですけど、ある日、朝目覚めたら美濃さんから「僕で良ければ」と返信が来ていて、夢かと思いました(笑)。1stアルバム『Afterworld』を作った時に、ミックスで仕上がりが全然変わるってことを実感して、美濃さんにやってもらえたら、って考えてたんです。miaouの大好きなアルバム『All Around Us』を美濃さんがミックスしてたので。

マエダ(Gt)

ーレコーディングでは、美濃さんとどのようなコミュニケーションを取っていますか?

マエダ:曲の内容やフレーズは特に何も仰らないんですけど、演奏についてはやっぱり基準が高い。僕が上手くギター弾けたなと思っても、「ちょっと惜しいな」「ニュアンスを変えた方がいいんじゃない?」みたいなことを言ってくれますね。特にドラムのレコーディングが一番厳しいですね。

スズキ:柏倉さんの生音源を聴いた時には、あまりの上手さにビビりました(笑)。結構シビアに、20回ぐらい同じフレーズを叩いたりしましたね。なるべくパンチインをしないっていうポリシーがあるみたいで。

スズキ(Dr)

カワナベ:やっぱり、なるべくイジりすぎない、生感を大切にされていて。だからこそ、俺にもっとベースのテクニックがあれば、もっと良い作品になったんだろうなと思わされたりもしました。すごく良い音に仕上がりつつも、同時に自分の未熟さも感じたのが印象に残ってます。

ークオリティの高い音源が完成しつつ、得るものもたくさんあったという。

マエダ:あと、僕らはライブに対しての自信があまりないんですけど、美濃さんに「全然いいじゃん! やっちゃいなよ!」と言ってもらえるのがメンタル的にも心強いですね。

ーYouTubeやSNSでの反応を見ると、国外からの声も目立ちます。海外のリスナーにも楽曲を届けたいという意識はありますか?

マエダ:せっかく言葉のないインストですからね。それもあって、拙い英語で曲名を付けています。この間もライブにドイツの方が来て、Post-pediaというポストロックの情報サイトで知ったんだって声をかけてくれて。感動しましたね。


次作は「こびりつくような作品」に

ー今年は今後どのような活動を予定していますか?

マエダ:5月3日、NAGOYA JAMMIN'にて開催されるインストバンドが14組集まる『NO WORDS NEEDED FESTIVAL 2024』というフェスに出演します。そんなに大きいライブに出演させてもらえるのは初めてなので楽しみです。リリースに関しては、今年アルバムを作りたいなと思っていて。既に出したシングル2曲に加えて、録り貯めてあるのが1曲、デモの手前みたいなものが4~5曲あるので。持論として、やっぱりフルアルバムって12曲ぐらいないと記憶に残りにくいと思うんです。一曲一曲の密度はもちろん、通しで聴いてこそ頭にこびりつくような作品を次は作りたいですね。

スズキ:僕は、ドラムとベースの絡みの濃度を上げていきたいですね。今のPEEKは、マエダさんの曲が中心にあって、そこにみんながパーツをくっつけていく形だけど、そうするとリズム隊の連携が薄いから。新しいプロセスを試して、その結果より良くて新しいものを作れたら。

カワナベ:確かに、リズム隊がさらに洗練されればライブの課題感も解決されるし、そこが伸びしろかなと思っています。ここで意見が一致していることがわかって良かった(笑)。

カワナベ(Support Ba)

ーライブ活動では、今後立ちたいステージはありますか?

マエダ:『森、道、市場』に出たいですね。チルい屋外で演奏するのは夢なので。でもまずは、いま目の前に来てくれている人をちゃんと楽しませられる自信を持てるようにならないと。

ーこの先、ジャンルを超えた新しい挑戦をしたいという思いはありますか?たとえばゲストのボーカルを招いたり、エレクトロやアンビエントのカラーを強めたり。

マエダ:ピアノを前面に押し出したり、アンビエントの要素を打ち出すことは考えてます。基本的にはシンプルでミニマルな音楽が好きなんですけど、ずっと同じ音にはならないように次作でチャレンジしていきたいですね。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Edit:sprayer note編集部


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