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SPREEE by sprayer Vol.1:Live Report

音楽ディストリビューションサービス・sprayerが主催する新たな音楽イベント『SPREEE』。その第一回公演が、12月11日に東京・下北沢THREEにて開催された。

「馬鹿騒ぎ」を意味するspree(スプリー)とsprayer(スプレーヤー)から着想を得て名付けられた同イベント。シーンを賑やかすアーティストを掛け合わせ、そこで生まれた熱狂をライブハウスの外にも広く発信することを目的に、隔月での継続的な開催を目論んでいるという。

記念すべき初回には、Acidclank(solo set)、JADHU、QPLO、Wang Dang Doodleの四組がラインナップ。ダンスミュージックを共通項に、音楽のフィジカルな味わいをそれぞれの形で提示する一夜となった。

Text:サイトウマサヒロ(@masasa1to
Photo:鎌倉真希(@kamacrascope
Edit:sprayer note編集部



JADHU

トップバッターを務めたのは、東京を拠点に活動するプログレッシブ・ファンクバンド、JADHUだ。開演時間を5分過ぎた頃、逆光の中ミステリアスに登場した彼らは、最新楽曲「Space Boy」からライブをスタート。J(Vo)によるファルセットボイスが、あっという間に私たちを別次元へと連れ去ってしまう。ディスコ・ファンクな硬質のリズムに、観客の身体は自然と揺れる。殿村哲(Gt)がパッションのみなぎるギターソロを披露すると、そのプレイにメンバーが満足気にうなずく。バンドが織り成すサウンドによって、自身が酩酊していくように。

そのままシームレスに流れ込んだ「Total Silence」では、カッティングギターが鋭利に心を抉る。そのボトムを支えるToma(Ba)のベースラインは、時に歌い上げるような存在感が特徴的だ。冒頭2曲で、冷え込みが厳しくなった下北沢のストリートとは別世界のスペーシーなダンスフロアを顕現させてしまった。

J(Vo)
Toma(Ba)

「実は昨日メキシコから帰ってきて暑かったんですけれど、日本の寒さに引いてます! 時差ボケでフワッとしていますが、楽しんでいきましょう」とJはMCするが、ひとたび音が鳴ればパキッと楽曲にフォーカス。「If Six Was Nine」では、得意のファルセットとは一味異なる艶やかな低音が心地良い。そのままDJプレイ的に「Sirius B」へ。國田悠介(Dr)は、ハウスミュージックライクな間隙のない四つ打ちの中で、時折感情を滲み出させ、ピック弾きと指弾きで緩急を作るTomaのプレイと手を取り合いながら、渦巻くグルーヴを生み出していく。

殿村哲(Gt)
國田悠介(Dr)

ユーフォリックなダンスチューン「Climb Up The Ladder」ではJがハンドクラップを煽り、それぞれのステップを刻んでいたオーディエンスにシナジーが生まれていく。ライブを締め括ったのは、MVも公開されている「Sunset Breeze」。清涼感あふれるサウンドが季節を夏の終わりまで巻き戻し、最大の盛り上がりにメンバーは笑顔をのぞかせステージを降りたのだった。


Wang Dang Doodle

続いてステージに上がったのは、MOMIJI(Vo&Blues harp)とKAHORI(Gt&Manipulator)の二人組・Wang Dang Doodle。「HYPER SOULFUL GIRLS」を標榜する彼女たちだが、この日のライブを観た人にはその意味がハッキリと伝わったことだろう。「勇気を振り絞って前に来ていただければ!」と豹柄シャツに身を包んだMOMIJIがアジテーションすると、一曲目に届けられたのは「Shining Light」。軽やかなビート上で二人のラップを交錯させつつ、KAHORIの瑞々しいギタートーンがアクセントを加え、オリジナルなミクスチャースタイルを提示してみせる。アウトロではMOMIJIのフェイクとKAHORIのソロが重なり、相乗効果で天井知らずに熱量を高めていく。

MOMIJI(Vo&Blues harp)
KAHORI(Gt&Manipulator)

続くは一転して重心を落とした「Magic Chocolate Cake」。MOMIJIはその歌声のみならずブルースハープやサンプリングパッドも操り、都会的なのに野生的な摩訶不思議ワールドを練り上げる。いつの間にやらKAHORIがギターを置いたかと思うと、二人はDJセットに。「Chose」でMOMIJIのDIVA然としたボーカリゼーションはさらにボルテージを増し、頭を振り乱しての絶叫が、オーディエンスの本能をも解き放っていく。一方で、センチメンタルなギターストロークから幕を開けた「Out of the Loop」ではスモーキーな歌声が会場を優しく包んでいた。

ラストには、ピースフルなダンスチューン「Dancing Tonight」を演奏。「盛り上がんないでどうすんの!?」「踊らないとおかしいから!何しにきたの!?」とMOMIJIが煽り倒し、二人はフロアに降りる。形態を自在に変化させながらとことんまで全員をぶち上げ続けた30分のステージ。その興奮は、転換中もしばらく収まることがなかった。


QPLO

三番手は、ギタリスト&アジテーターのSomeyaとプログラミング&マニピュレーターRioによるダンスミュージックデュオ・QPLO。「アジテーター」は馴染みのない肩書きだが、舞台上での彼の佇まいは、なるほど確かにアジテーターと表現するほかない。Rioの手によってオープニングトラック「Disco Baby」が再生されると、フォーマルなジャケットスタイルのSomeyaは情感たっぷりにリップシンクとダンスを披露。楽器もマイクも持たずに、オーディエンスをQPLOワールドへと引きずり込んでしまった。

Someya(ギタリスト&アジテーター)
Rio(プログラミング&マニピュレーター)

やがてSomeyaはギターを手に取るが、一人一人に目線を送るショーマンシップは失われない。アップリフティングなディスコ・ハウスに、オーガニックなギターサウンドが加わることで独特の磁場が生まれ、ダンスフロアをうねらせていく。サラサラのボブヘアーをなびかせながら、人差し指で天を示すSomeyaは、まさしくディスコ・ヒーローだ。エナジェティックな「Toxic  Love」では、ソリッドなギターリフさばきに魅了されたオーディエンスが、空いたビールグラスを高く掲げる。

彼らはマイクを握らないし、MCで何かを語ることもない。しかし僕らにはダンスミュージックという共通言語があるのだから、そこに言葉は必要ないのだ。ノンバーバルなコミュニケーションで、QPLOとオーディエンスの間には既に信頼関係が出来上がっているようだった。最後に披露された「Monroeville Mall」にて、パーカッシブなワウギターで会場全体を躍動させると、長い時間をかけてフロアに一礼するSomeyaとRioに惜しみない拍手と歓声が送られた。


Acidclank(solo set)

この日のトリは、トラックメイカー/シンガーソングライターであるYota Moriによるソロプロジェクト・Acidclank。バンドセットで『FUJI ROCK FESTIVAL』への出演経験も持つ彼が、今回はソロセットでイベントのエンディングを飾ってくれた。

Acidclank(solo set)

Acidclankのステージは、照明演出を用いず、VJ映像に身を晒しながら繰り広げられた。ライブが始まるや否や、図太いハーシュノイズが、下北沢THREEを隅まで埋め尽くす。Acidclankの全身を覆うモノクロ映像は、水面に浮かぶ無数の波紋のようでもあり、子どもがでたらめに塗りつぶした画用紙のようでもあり、絶えず運動する細胞の拡大図のようでもある。

やがて、轟音の中から静かにメロディが立ち上がり、閾値のギリギリから迫って来る低音が、サウンドの具体性を少しずつ高めていく。同時に、VJ映像にチラつきが増していく。5分から10分ほど経過し、ようやく四つ打ちのビートが鳴り出すと、どこからか歓声が上がった。ここまでの3バンドが作り上げてきた熱狂とは対照的な、実に内省的なダンスフロアである。洞窟の中で蠢くようなノイズ、刃物が頬をかすめるような破壊的なビートは、心地良いだけのダンスを許さず、胸にザワめきを残す。

セット中盤に差し掛かると、時間経過とともにBPMを高め、声ネタやアーメンブレイクを交えるなど、徐々に体温が上がってきた。しかし同時に、我々の心はエレクトロの深淵をじっと覗き込んでいる。Acidclank自身も手元のみに集中し、安易な共感や同調を寄せ付けない。終盤には再びビートレスになるが、それでも胸の奥で止まることのないリズムが刻まれ続けている。そして再びキックが腹を押すと、ようやく息継ぎができたような開放感が会場を包む。孤高のプレイによって個のダンスが集合する唯一無二の空間が完成し、『SPREEE by sprayer Vol.1』は静かな余韻の中で幕を閉じたのだった。


四者四様のスタイルが化学反応を起こし、この日しか味わえない熱い宴を築き上げた『SPREEE by sprayer Vol.1』。すべての来場者にとって、刺激的な出会いのある一夜となったのではないだろうか。

注目の第二回公演は、2025年2月19日に同じく東京・下北沢THREEにて開催。出演はfutures、Sigma-T、やさしいみらい、Ochunismの四組。フレッシュなアーティストとの出会いを求めるリスナーには、ぜひともチェックしていただきたい。

ライブ情報:SPREEE by sprayer Vol.2

出演
futures、Sigma-T、やさしいみらい、Ochunism

公演日
2025年2月19日(水)

会場
下北沢THREE

公演時間
開場 18:30 開演 19:00

チケット代
ADV ¥2,400(+1D)/U20 ¥1,400(+1D) DOOR ¥2,900(+1D)

取り置き
https://forms.gle/Du4mFTiWvs2GepCQ6


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